第5話 婚約式前の大掃除2

 フフフン♪ フン♪ フ〜ン♪


 ジャンは上機嫌で鼻歌を歌いながら馬車に乗っていた。


 これから、伯爵家のボンボンの婚約式に出て横から全部掻っ攫うのだ。


「アントレー伯爵。いい響きだ。この僕にピッタリじゃないか! クククッ。」


 そういえば、婚約者はマッケイン侯爵家の養女だとか言ってたな……。

 婚約者が追い出されたら、可哀想だし、そっちも僕がもらっておこう。


 ババァとの夜も限界だし、若いってだけでも楽しめるだろう……。耐え難いブスだったりデブだったら、そのまま放置しておいてたらいい。


 馬車は止まり、伯爵邸に着いた事を知らせた。


 ジャンは颯爽と馬車を降りてきた。


 あたりの貴婦人たちは皆、僕の美貌に……。


 ん?


 どういう事だ??


 会場を見渡せばいるのは貴婦人たちではなく、

 ピシッと整列した使用人達と、土色の顔した伯爵夫人、今にも飛かかって来んばかりにワナワナと震える腹のデカい……身なりからして貴族のジジイ、そして、若い平凡顔の男と、地味だが清楚で小花のような娘、そして、ちょっと顔の良い神官……。


 神官の手には魔石を嵌め込んだ水盤がある。


 アレは、血縁関係を調べる魔導具!


 フッ……。だが問題ない!


「おや、皆様。私と叔母の血縁関係を確かめたいのであれば、そう仰っていただければ、良うございましたのに……。」


 と、ジャンは両手を広げ、余裕たっぷりの笑顔を見せつけ自らナイフで指を切り、一雫の血を水盤に垂らした。


 ところが……。


 何も、起きない。


 動揺したジャンは叫ぶ。


「こっ……これは罠だっ!! 何かの間違いだっ!!」


 平凡顔の若い男が訊ねた。


「一つお訊きしたい事がございます。よろしいでしょうか?」


「何だ君!?」


「貴方は魔法が使えるのですよね?」


「当たり前だっ! 僕は貴族だぞっ!?」


「成る程。では、この水盤に間違いがあると、何故お判りに?」


「僕の血筋は確かだからだっ!!」


「間違いなく使?」


 何なんだ一体!?!?!?


「そうだと言っているだろ!?」


「コレは――――、」


 男は水盤の魔石に触れた。


です。分かるでしょう?」


 え!?―――――――――。


 魔石は、魔力を加えると独特の光を発する――。


 ところが、この石はなんら反応がない。


 ただの、宝石!?


「おかしいですね? 魔法が使えるのなら、魔石の波動を感じるはず……。分からなかったのですね?」


 !!!!!!!!!!!!!!!!!!


 お、―――――終わった……。


 に逃げ道はっ……。


 ジャンは周囲を見回した。


 勿論、使用人に取り囲まれている。


 ジャンは膝から崩れ落ち、項垂れた。


 もう、終わりだっ!!!


 しかし、ここでこの若い男は、とんでもないことを言い出した。


「ふむ。しかし、君は才能があるね。」


 は――――――――――――?

 ナニイッテンダ、コイツ。


 俺は今まで、顔しか取り柄がないと、言われ続けてきたんだぞ??


「商才がある。」


「「「「「「「えっ??????」」」」」」


 隣のジジイも使用人達までも、息ぴったりに声を漏らした。


 なぜか神官だけは、微笑ましく見守っている。


「ケインが忙しすぎて手一杯なんだ! 君を雇うよ!!」


 一同驚きすぎて、声も出ない。


 神官だけはなぜかウンウンと、頷いている。


 アタマオカシイんじゃないのか!? 

 このボンボン!!!



 時間は少し遡る―――。


 一週間前、ケイン、俺、カリーナの3人は、秘密裏に招待状をもう一通出した。


 最初にだした日取りから、3日遅れる旨を記した新しい招待状だ。


 そして、(多分)偽甥御と義母掃討作戦決行当日、使用人にわざと義母の髪飾りを破損させ、義母付きのメイド共々、部屋から出られない状況を作ったうえで、彼女らを閉じ込めた。


 そして、父にも今日の作戦を伝え、


 ホールにて、偽甥御の到着を皆で待ち構えたのだ。


 そして―――。

 彼は現れた。


 彼を見た瞬間、正直俺は驚いた。

 俺より、貴族然とした立ち居振る舞いで、顔まで良いのだ。


 こりゃ騙される!!


 しかし、同時に勿体ないとも思った。

 彼には才能がある――――。


 しかし! その才能の使い所を完全に間違ってしまっている!!


 実に勿体ない!!!!!


 このままでは処刑されるだけ、

 結局、日の目を見ることなく終るのだ。


 それに…………。


 カリーナを見た。

 やはり顔色が悪い。


 当然だろう。

 きっと、かつての自分を見ているように思っているのだろう。


 彼と彼女では状況が全く違うが――――。


 やはり、わざわざ彼女を傷つけたくない。


 ちょうど、ケインも手一杯だ。人手がいる。


 だから、


「ケインが忙しすぎて手一杯なんだ! 君を雇うよ!!」


 カリーナは驚いていた。

 けれど、その目には光が戻っていた――。










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変人奇人伯爵の結婚 泉 和佳 @wtm0806

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