第4話 婚約式の前の大掃除1
さて、婚約打診が終わり。
次は婚約式に婚約お披露目。
その次は首都に行き皇族に謁見、そして、結婚許可をいただく。
やっと結婚式で、次は新郎新婦お披露目。
お茶会に出て挨拶回りで終了。
貴族の結婚は実に面倒くさい。
男爵子爵はもっと簡素なのに、それ以上は時間も金も大いに掛かる。
って言うか、
「「首都に行きたくない。」」
カリーナと見事にハモった。
「グレーゲル様も?」
カリーナはグレーゲルを見つめ目を丸くした。
「あぁ。行きたくない。父上も母上もついてくるだろうし、またケインと見張ってなきゃいけないからね……。」
ケインは我が家の執事で、父の代から仕えている。
母と共にケインも、父の散財と戦ってきた戦友の一人だ。
「見張る?」
不思議そうに見つめるカリーナに心が痛んだ。
が、隠せるものでもない。
「実は…………、両親の散財癖が大変で、隙あらば無駄遣いしようとするから………。見張ってなきゃいけなくてさ……。その……、ごめんカリーナ。」
「どうして謝るのです!! ちゃんと頼って相談してください!! その…………つ、家族になるのですし……。」
妻というのが恥ずかしくて、言えなかったものの、カリーナはうつむいて顔を赤らめた。
グレーゲルは、それにつられて赤面した。
なんというか…………、か、かわいい。
“妻”と照れくさくて言えなかったところとか……。
かわいい……。
しかし、カリーナはすぐ顔を曇らせた。
「でも…………私では、グレーゲル様の足を引っ張ってしまいますね。
ご存知の通り、私は好奇の目に晒される十分な理由がありますので……社交では気をつけるようにします……。」
「そんなっ……!! ウチだって問題だらけ……しかも、その…………結婚を押し付けてしまってるし……。その…………何が言いたかというと……君と、結婚できて良かったと思ってるよ!!?」
無駄に大きな声で恥ずかしいことを言ってしまった。顔が暑い。
きっと今、俺は、とてつもなくみっともない顔を晒しているに違いない。
カリーナが無言なのも、恥ずかしさに拍車をかける。
おほんっと、後ろからケインに咳払いをされ、ハッとグレーゲルは我に返った。
「そっそうだ! 婚約式とお披露目会のこと決めなくちゃ!」
俺の声は上ずった。
ケインのはぁーっというため息が聞こえる。
ケインめ……。
後であまりのスコーン全部食べてやる!
「あ……そうですね。では、まず――――。」
その後、誰を招待するか、料理の提供や、婚約指輪の価格決定と、ドレスの予算ぐみ、手土産の選定などの、超詰め込み会議を始終ギクシャクした様子で進めた。
気づけばもう夕刻。
この流れなら一緒にディナーを、と言うところだが、妙な緊張が続いたせいで、カリーナも俺も限界に……。
今日はこの辺でお開きになった。
カリーナを馬車までエスコートして帰らせた後、ケインには
「意気地の無さは似なくて良うございましたのに……。」
と、チクリと言われた。
「し、しょうがないだろ!? 婚約なんて初めてなんだから!!」
「あれだけ強引にしといて……。奥様も草葉の陰からお嘆きですよ。」
「そ……れ、はぁ……、悪かったと反省してます。」
これには返す言葉もない。
ケインはしょうがないと、肩を落とし
「結婚生活で挽回のチャンスはいくらでもあるましょう。それはそうと……。」
ケインは周囲を睨んだ。
近くには義母付きのメイドが立っている。
彼女に用事を命じ、ケインは声を落として囁いた。
「ルネット様が、例の甥御様に婚約式披露宴の招待状をお出しになられました。」
これを聞いて、俺はげんなりした。
義母が突然担ぎ出した甥なる人物……。
流石の父も反対したので、まだ大丈夫だが……。
「それ詐欺師かなんかじゃないのか?」
「十分に可能性はありますな。しかし…………チャンスでもあります。」
…………。
こんな話をカリーナには聞かせたくないが……。
「カリーナにも話しておかなきゃな……。」
「若様。胃薬とミルク粥をご用意いたします。」
「ありがとう……。」
齢26にして俺の人生、なんか色々有りすぎるっ。
三十路前にツルピカに禿げないことを祈ろう……。
その頃、カリーナはドレスのカタログをボーっと見ながら、グレーゲルの言葉を思い出した。
『結婚したと良かったと思ってるよ!!?』
途端に顔が暑くなる。
しかし、それと同時に無性に泣きたくなる。
こんな私でも受け入れてくれるの――?
グレーゲル様の最初の様子では、何か性急な理由で、取り敢えずそこにいた私を使ったように思われる。
多分、それは合ってる。でも……。
私を気遣って、嬉しいことや、ずっと欲しかった言葉を掛けてくれる……。
彼を信じても良いのだろうか?
社交界では“庶民”だと後ろ指をさされ、平民の中においても、馴染めない。
きっと、彼の重荷になってしまう……。
せめて彼の役に立てるようにしよう……。
期待しないように、迷惑をおかけしてはいけないわ。
カリーナはカタログを閉じベッドに潜り込んだ。
そして、一晩明け、グレーゲルはマッケイン侯爵家を訪れた。
カリーナはまだ支度中ということで、夫人が応接室に現れた。
「昨日の今日で熱心なのは微笑ましい限りだけど、その顔からして何かあったようね?」
マッケイン侯爵夫人の睨みに竦み上がる。
「我が家の事情で、話しておくべきかと思いまして……。」
「ほう……。事情ね。それは、如何なる事情なのかしら?」
俺は震える膝を叱咤しながら、マッケイン侯爵夫人に、義母の甥なる人物の仔細を打ち明けた――。
「それで? どう手を打つの?」
マッケイン侯爵夫人はなおも眼光鋭く、こちらを見つめる。
俺は、
「婚約式を台無しにするわけにはいきません。ですから――――。」
「成る程ね。いいでしょう……。」
マッケイン侯爵夫人の承諾を得て、いよいよ作戦の準備に取り掛かる。
上手く行けば、甥なる人物を追い出し、義母を蟄居に追い込める。
そして――。
「カリーナにも話しておこうと思います。」
「カリーナに? いらぬ心配はかけまいという思いやりはないの!?」
この意気地なしと言わんばかりに、夫人には凄まれたが、こればかりは譲れない。
一呼吸して、俺は言った。
「彼女は妻になるので、隠し事はしたくないのです。
俺が、その、不甲斐ないのは……申し訳なく思っていますが……、せめて、 隠し事はないように努めたいと思いまして。」
始まりが始まりだった。
彼女の人生を、またも翻弄したその責任はなんとしても果たしたい。
「グレーゲル様。」
カリーナが扉の前に立っていた。
「カリーナ……。」
「私で良ければ精一杯努めます。どうか、お力にならせてくださいませ。」
カリーナは笑顔で言ってくれた。
それを見て、夫人も小さく微笑み言った。
「それがあなたなりの誠意なのね。私はお邪魔だろうから、退散させていただくわ。勿論、ディナーはご一緒してくれるわね? 小伯爵。」
昨日、カリーナとディナーを共にしなかったこと怒ってらっしゃる……。
「勿論です。」
俺の返事は小さかった。小心者ゆえ返事できたくらいで勘弁願いたい。
そして、婚約式披露宴当日。
義母の甥を名乗る人物がやって来た。
開始時刻より大幅に遅れてきた彼は、意気揚々と馬車でやって来た。
そして―――――。
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