初めの一歩は最強に手を引かれ

レンガ造りの高い建物、ガラス越しに魔導書がズラリと並ぶ魔導書店、見たこともないような色や形をしたフルーツを売る露店、遠目から見ても光沢が眩しい武器や防具がズラっと並ぶ鍛冶屋さん、スゴイスゴイスゴイスゴイスゴーーーーーーーーーーーーーイ!!!!!!!!!!!


ワタシは世界一の大国『グラナディア王国』に着くと、すぐ目に付いた宿屋で部屋を借り、重い荷物は置いて王国を探索していた。


本当なら、王国に着いたらすぐに冒険者になるために『冒険者協会ギルド』を探して、冒険者ライセンスを取ろうと思っていた。


だが、冒険者協会ギルドを探すついでに歩いていたら、360°全てがファンタジー過ぎて、気が付いたら興味のある場所をとにかく見て回っていた。


いやだって…………………………ねぇ????


たしかにワタシには、ママと約束し四賢者と預言者を探すという大きな目的はありますよ?


ただ、そんな異世界での超ビッグネームにすーぐたどり着けるとか有り得ないわけですから、多少は寄り道してもバチは当たらないっていうものだとワタシは思うんですよ。


と、そんな誰に向けて語っているのかも分からない言い訳を心の中で呟きながら、ワタシは先程露店で買った、リンゴのような形をした黄色い果物を齧る。


ウン!甘くて美味しい!けど味は桃に近いかな?


名前も知らない果実を食べながら王国を歩いていると、ようやく冒険者協会ギルドと大きく書かれた看板が見えてきた。


ふむふむ、この先の突き当たりを左に………。


「おーーー!!やっと冒険者協会ギルドの看板があったぞーー!!見ろオマエら!!!」


ワタシが看板を眺めていると、後ろから何やら元気な声が聞こえてきた。


すると真横に、ワタシと同じくらいの背丈の少年が、ワタシと同じく看板を眺めていた。背中には、柄から刃が腰周りまで届くくらいの長さの剣を背負っている。


「たく……あったぞーじゃねぇよ。そもそも場所は分かってたのに、お前が見る店全部に寄り道してくから迷ったわけで………。」


「まあまあ、楽しかったし良いんじゃない?」


「なんなら、シードが一番楽しんでたんじゃないかぁ?」


後ろを見ると、どうやらその少年の仲間たちが集まってきた。しっかりしていそうなお兄さん的ポジションの盗賊、ムードメーカー的存在の明るい魔法使いお姉さん、メンバーのマスコット枠であろうモフモフ毛並みの羊の獣人、うーん全員一癖も二癖もありそうな人達だ……。


これぞファンタジーってやつだよね。


「よし、場所も分かればすぐに冒険者登録だ!!行くぞオマエら!!俺様に着いて来ーーーーい!!!!!」


そう叫ぶと、剣を背負った少年は冒険者協会ギルドがあるであろう方向に一目散に駆け出してしまった。


彼の仲間たちであろう3人は、ハァ…………とため息をついて早足で彼の向かう方向へと進んで行った。


アレこそファンタジーお決まりの、初級冒険者パーティってやつ?冒険者パーティ…………憧れるよね…………!!


いつか誰もが知る超有名パーティとか作っちゃって、それこそ冒険者達の的存在になれちゃったり…………。


「ヨシ!ワタシもあの人達に負けないように、急いで冒険者登録しちゃいますか!!!」


ワタシも彼らの進んだ道を辿って、冒険者協会ギルドへと急ぐのであった。






















ようやく着いた冒険者協会ギルドは、かつて前世で一度だけ見た事のある東京の高層ビルとなんら大差無い高さと大きさを誇る建物だった。


「オオオオオ、ここに数多の冒険者達が名を連ね、足を運んで来たんだねぇ…………。」


ワタシもいつか、ワタシと同じようなルーキー冒険者に、あのアメノ=ミコトもここを通ったのかと言われるくらいには有名になりたいものだ………。


いやいや!その願望を現実にするためにここにきt…………いや、本当の目的は違うけど………。


それでも、その目的を叶えるためには多少知名度も必要だから!一躍有名になってそのまま四賢者と預言者情報ゲットの流れを掴みたい!!


こんなとこで考え込んでても仕方ない!!行きますか!!


大事な冒険者としての一歩目を踏み出し、ワタシは冒険者協会に入っていった。






冒険者協会に入ったワタシは色々と手続きを済ませ、現在冒険者の登録の証であるライセンスの発行待ちの状態だった。


中に入り、色々な手続きを済ませた異世界人こと現代人のワタシは、ファンタジー世界の冒険者協会だし、よくある冒険者たちが飲んで騒いでをしている酒場的ゾーンと併合している受付で、可愛い受付嬢さんに受付や登録をしてもらう、そんな場所なのだろうと思っていた。


この世界の冒険者協会はそんな印象とは全く違い、めちゃくちゃ現代風であった。


経った十数年しか生きていないワタシの数少ない日本の記憶を頼りに、一番近い印象を探し出す。


そう!!あれだ!!!『役所』だ!!!


家庭の事情で二回ほど引越しをしたことがあったが、その時親に一緒に連れて行かれた役所はまさにこんな感じだった。


整理券を取り、整理券の番号で呼ばれてその日の用件を伝えそれを受付で済ませる。受付のみで終わらない作業なら、別の受付まで案内される。


この冒険者協会も似たような感じであった。整理券の代わりに、魔力で作られた腕輪が自動的に装着される。


順番が来たらメインの受付で用件を伝え、専用の受付へと案内をされる。(例えばワタシなら、冒険者登録の受付に。)


そこでまた、整理券的な腕輪で順番を待ち、順番が回ってきたらそこで必要な情報を記入する。


それ以降の登録の仕方はちゃんとファンタジーだった。簡単に魔力の質や量を、そういう測定専用の水晶玉で測ったり、個人異能力ユニークの内容を冒険者協会に開示するかどうか、開示する場合どんな能力内容か等、簡単に言うとみたいな感じである。


相当魔力が低かったり、個人異能力ユニークの有無で足切りされるかどうか決まったりするらしい。


ワタシはこの世界ではとっくに個人異能力ユニークがあると分かってる年齢にも関わらず個人異能力ユニークの有無を把握していないため少し怪しまれたが、ママとの5年間の修行が役に立ったのだろう、持ち合わせていた魔力量でなんとか通して貰えた。


実際個人異能力ユニークを把握していない本人も、最近ワタシに個人異能力ユニークが発現するかどうか怖くなってきています………。


少し話は逸れたが、とにかく登録の手続き自体は本当に役所での手続きのような流れで行われて、今だけ5年ぶりにの気分だった。


受付以外も、食事のスペースだったり受付待ち用の待合室があるのだが、やはりそういう厳かな雰囲気が醸し出されているお陰か、ファンタジー的なイメージであった騒がしい冒険者協会というのは現実ソコには無かった。


少しガッカリしながら、さっきたくさん買っていた桃の味がする黄色いリンゴを食べながら待っていると、ついに腕輪がブルブルと振動し、ライセンスの発行が終わったことを知らせてくれた。


急いで黄色いなんちゃってリンゴを食べ切ると、ワタシは冒険者登録の受付へと急いだ。





「大変お待たせいたしました。検査結果とご記入していただいた情報を元に、アメノ=ミコト様を冒険者として登録させていただきました。こちらがその証明となるライセンスでございます。」


そう言って、受付嬢さんから渡されたライセンスなるもの、それは先程からずっと着けていたような、整理券代わりの腕輪の様な物だった。


「これがライセンス、ですか?」


「左様でございます。これが我々、冒険者協会が誇るバングル型のライセンスでございます。」


説明を聞くと、まずこのライセンスは年中ずっと着けていることが義務となるらしい。マジ?


ただしそのお陰でメリットは多いらしく、まず昔は全員がライセンスと言われると想像するような長方形のカード型だったらしいのだが、そのタイプだと様々な理由でライセンスを無くす冒険者が多くいたらしい。


段々と有名になってきた冒険者が盗まれるパターン、自分よりも階級の高い冒険者のライセンスを盗み、その階級でしか受けられないような依頼クエストを受けたり、シンプルに無くしてしまう冒険者が居たりととにかく無くす冒険者が多かったとのこと。


それをバングル型にしたことにより、まず肌身離さず持ち歩けるためシンプルに無くすことはもちろん、盗難被害も激減した。それだけでなく、ライセンスが無ければ入れない場所での手続きのスムーズさ、カード型よりもより様々な機能を備え付けることのできる利便性と、バングル型の方がメリットが多いということでこれになったらしい。


まあ冒険者になれるのなら何でも良いんですけどね。


さすがに取り外しは可能ではあるらしいが、防水性能や衝撃性能も備わっているため基本どこで着けていても破損の危険性も少ないとのこと。


「これにて本日よりアメノ=ミコト様は、『銀級シルバー冒険者』として活動することが正式に許可されました。人類発展のため、そのご活躍を心よりお祈り申し上げます。」


ひとまずアッサリと冒険者として活動できるようになったワタシは、ライセンス確認のために適当に空いている席に座って確認する。


えーと、冒険者としての情報を確認するときはこの埋め込まれている宝石を魔纏する……と。




『アメノ=ミコト

異名:なし

階級:銀級

登録個人異能力ユニーク:なし

実績:なし 』




結構シンプルな作りだった。受付ではこれらの項目の簡単な説明を受けた。


異名は、本名を公開したくないという冒険者が多いという意見から付けられた機能らしく、冒険者として依頼クエストをこなしていく中でその冒険者に相応しい異名を付けてくれるらしい。


かなりオタク心をくすぐられて、心の中にいるオタクのワタシはとてもニコニコしている。


階級は、冒険者の強さをある程度のランクで現した物である。


少し細かく七階級に分かれていて、下から順に……。

鉄級アイアン

銅級ブロンズ

銀級シルバー

金級ゴールド

金剛級ダイヤモンド

達人級マスター

冒険王級アドベンチャー

と分かれている。


つまりワタシは下から3番目の階級でのスタートだ。これが凄いのかどうかはあまり分からないが、まあ底辺スタートよりかは少なくとも良いはずだろう。


登録個人異能力ユニークは書いている通り、先程設定するかどうか決めた個人異能力ユニークをここに確認できるようにしているシステムである。


なおワタシのように個人異能力ユニークが判明していない冒険者はこのようになしと書かれ追い討ちされる仕様となっている…………。


まだ、まだワタシが個人異能力ユニークを持っていないとは決まって………ない………はず。


実績も、項目名の通り冒険者として成し遂げた実績がここに冒険者協会ギルドが簡単に記入してくれる。


例えを出すとしたら、ほぼほぼいないだろうけど、異常生態種ユニークモンスター討伐者スレイヤーとかそんな感じ?少し異名に近しい物を感じる……。


他にもこのライセンスにはある程度場所を知らせてくれる発信機的な機能(現代風で言うとGPS的な?)も付いていて、何かあった場合冒険者協会ギルドに直接救援申請を出せたり、冒険者同士で情報共有が出来るようなシステムとして撮影機能(静止画、動画両機能搭載)、撮影した情報を共有する場として掲示板機能だったりも付いている。


うん、これ完全に現代のMMORPGとかそこら辺のオンラインゲームとあんまり変わらないね?


ワタシ的には、モンスター討伐→素材を回収し冒険者協会に報告→成果が認められ昇格!

みたいな某狩りアクションゲームみたいな流れを想像していたためイメージギャップを感じている。


まあ、初めたての冒険者でも冒険者活動がし易いようなシステムだったことに感謝するべきかな?


と、そんな感じでライセンスの機能を色々確認し終えたところで、ちょうど入口の方から何やらゾロゾロと、ワタシ達の何倍もの大きさの物体を乗せた台車を引っ張って入ってくる冒険者達がやって来ていた。


これはもしや、ワタシの想像していた狩ってきたモンスターを運んで来たパターンじゃないの!?これ!?


すると、冒険者協会の職員が先頭にいた渋めなフェイスのオジサンにペコペコしながら、さらに後ろから冒険者協会の職員数名を連れてきて、台車を回収させに行った。


かなり有名な冒険者さんなのかな?


「おい見ろよ、『不死身の老兵オーバーソルジャー』だぞ!?」


「うお、本当じゃねぇか!?本物初めて見た。」


「カッコイイわね。御年56歳で現役なんですもの。」


「冒険者なら誰もが一度は憧れるよな。」


周りで声が響かない程度で話していた冒険者達が、声量の制御を忘れるほど口々に呟く程には有名らしい。


ここで一つ、ワタシは名案(?)を思い付いた。


思い付いたワタシは即行動に移す。


「あの!こんにちは!!!えっと……『不死身の老兵オーバーソルジャー』さんで間違い無いですかね!?」


おそらくパーティメンバーと話し合っている中、突然話しかけてくる若い冒険者に戸惑っているのか、不死身の老兵オーバーソルジャーさんは他の仲間たちに誰かコイツを知っているか?と目配せをする。


もちろん誰も知るわけないしワタシも誰が誰だかサッパリである。


「…………どなたかは存じ上げぬが、どちら様かな?」


うっわぁ………顔に負けずスーパー渋々ボイス、服もグレーのレザーアーマーと言いイケオジポイントがどんどん加算されていくこの人!


「あの、ワタシ今日から冒険者始めました、アメノ=ミコトと申します!見たところ、かなり有名そうな……ゲフンゲフン、かなり強そうな方々だったため、初めて受けるクエストに悩んでいたため、良ければお供させていただきたいと思い話しかけさせていただきました!!!」


ワタシの名案!それは、有名な冒険者が受けたすごいクエストに着いていき、そこで戦果を上げて一気に有名になること!


周りの冒険者がザワつくくらいだからこのイケオジもかなり有名なはず!!有名になればワタシに頼まれるクエストも増える!クエストを達成していけば階級も上がる!階級が上がれば、色々な人から情報をもらえる!


そうすれば、少しは四賢者と預言者の情報が分かるかも………?


いきなり見知らぬ新人冒険者からの、傍から見れば失礼にも見えるお願いに、不死身の老兵オーバーソルジャーは冷静に答えてくれた。


「ふむ、中々肝が座ったお嬢ちゃんだ。その気概は認めるが、如何せん今はメンバーが足りてしまっているし、これから我々が赴くクエストも、新人の君を庇いながらこなせるとは限らないような難易度の高いクエストなんだ。また日を改めて話しかけてくれ。」


うぐ……正論パンチ………。心なしか不死身の老兵オーバーソルジャー周りの冒険者達、おそらくパーティメンバーである人達も結構睨んでるよう……。


どうしよう、ここは引くべきか?それとも強引に着いていくべきか?最悪自分の身は自分で守れると証明でもしちゃおうか……?


「え~?もったいな~い、せっかく期待のルーキーが目の前に居るのに、連れて行ってあげないんですか?スネイクせんせぇ?」


ちゃんとした大人の対応をされて、ワタシがどう答えようか迷っていると、後ろから何やら陽気な声で男が話しかけてきた。


まだその姿を見てはいないけど、後ろに立たれただけで分かる…………めちゃくちゃ強い人だ。


「何故お前がここにいるんだ、エミリオ。」


不死身の老兵オーバーソルジャーが声をかけた方向、ワタシの後ろに居る人物を見るためにワタシは振り返った。


そこには八頭身はあるであろう背丈の高い青髪の男が立っていた。………サングラス着けてる………?


何だか周りの冒険者達のざわつきが大きくなってきた。なんだなんだ?


「冒険者が冒険者協会ギルドにいたらおかしいんですか?」


不死身の老兵オーバーソルジャーの疑問を軽く返すと、青髪の男はワタシの方を見て声を掛けてきた。


「ねえ?君、何者?どうせならさ、俺の受けるクエストに同行しない?」


え?ホントに?冗談?ホントなら普通に行きたい。周りの反応からしてこの人も多分凄そうな人だし………。


いやでも、ここでがっついたら完全にこの人たちの知名度狙いなのがモロバレでは………ええい、気にしてられるか!


「もし本当ならすごく光栄ですけど、良いんですか?まだワタシ、あなたの名前も知らないくらいの新人ですけど………。」


ワタシがそう口にすると、不死身の老兵オーバーソルジャー周りの冒険者達は何故か相当驚いたような声でいきなりワタシに声を掛けてきた。


「は!?嘘でしょアンタ!?エミリオさん知らないの!?」


「新人冒険者とか関係なくまず普通に名前くらいは知ってるだろう!?」


「エミリオさんの名前すら知らないって、どんな田舎育ちだよ。」


え?え!?マジ?この人知らないことってそんなに罪深いの!?


困惑するワタシを他所に、何故かエミリオと呼ばれる青髪の男は笑っていた。


「ハッハッハ!!!聞きました!?スネイクせんせー!?俺の事、名前すら知らないらしいですよ!?これは想像以上に期待できますよ!!!」


キョトンとするワタシを見かねてか、不死身の老兵オーバーソルジャー、いやそろそろ長いな、イケオジこと冒険者スネイクは、エミリオの素性について教えてくれた。


「あー、まあかなり秘境の地で育ったりしたら、まあもしかしたら聞いたことは無いかもな?コイツはエミリオ=グラナディア、冒険者でも数少ない『冒険王級アドベンチャー』の階級を持ち、中でも世界最強と謳われる冒険者であり、この王国、グラナディア王国のだ。」


冒険王級アドベンチャー、王子、………世界最強……………?


そんな説明を聞いた途端、ワタシの足は子鹿のようにプルプルと震えてきた……。


もしやワタシ、今とんでもない人物のお誘いを受けましたか………?
























「いやぁ、青い空、照りつける太陽、目の前に広がるは一面の砂地獄☆ワクワクしないかい?」


ど こ が だ !?!?






あの後のことはよく覚えていない、いや、鮮明に覚えてはいるが思考は働いていなかった。


マンガのキャラで言うなら盛り過ぎだろと言われるステータスにさらにプラスで盛ってみた♡みたいなステータスしてる男の受けるようなクエストに、二つ返事でOKしてしまったワタシは、ある者は羨ましそうな視線で、ある者は白い目で見送られながら、誘導されるがままにこのエミリオという男に着いて行ってしまった。


冒険者協会ギルドを出たと思ったら、いきなり歩いて数分で着く飛行場に来たと思ったら、いきなり飛行船に乗せられた。


そして空の旅をすること十数分、ワタシは砂漠に着いていた。


おかしい、何かがおかしいとかじゃない。全てがおかしい。


ワタシは有名な冒険者のおこぼれに預かろうとしただけなのに、急展開が急展開過ぎてゲロ吐きそう………。


「アレレ~、どうしたのさ?さっきまで元気だったのに?初めてのクエストなんだし、テンション上げてこ~♪」


誰のせいでこんなテンションになってると思ってるんだ!?そのサングラス割られたいのか!?


正直展開的にはワタシにとっては充分過ぎるほどに美味しい展開である。しかしそれをサポートしてくれる人間が怖すぎる。


何!?世界最強って!?もっとワタシみたいな新人が手の届かないような場所に居なさいよ!?!?いやそのお陰で注目は集められてるんだけどね!?


「あの、本当に良かったんですか?ワタシさっきも言ったように、今日登録したばかりの新人冒険者なんですけど。」


「えっと、名前何だっけ?君?」


「……………アメノ=ミコトです。」


「了解。ミコト、君、さっき俺が後ろに立った時点で明らかに警戒してたでしょ?」


先程まで飄々とした声で喋っていたエミリオは、急に真面目な雰囲気で話し始めた。


「最初は俺、スネイク先生が何か変なのに絡まれてるから、ちょっとばかし脅かして引き剥がしてやろうかと思って、ほんのちょっと、魔力多めで話しかけたんだよね。それに君は気付いた。しかも、それで焦りはしても怖がりはしてない。その時点で、ルーキーにしては相当面白い子だって分かっちゃうよね?」


…………やはり世界最強と呼ばれる人物は一味違うようだ、ワタシがこの人を強いと感じたことを見破られていたようだ。


「俺ね、最強なの。」


「他の人が言うなら分かりますけど自分でも言っちゃうんですね。」


「ただ、俺1人だけじゃ、平和には足りないんだよ。だから俺は強い冒険者を育ててる。才能のある子を見つけて、強く、賢い子達をね。ミコトにも同じように才能を感じた。だからミコトをクエストに同行させた。冒険者の勘ってやつだね。理由はそれだけ。」


勘……ね。つまり、確固たる理由はあるけれど、もし今日ワタシが才能ナシって感じなら問答無用でポイ捨てすると、そう言いたいわけだ。


やりたい放題かよ冒険王級アドベンチャー!!!


「分かりました、ひとまずワタシの実力をあなたに見せつければ良いんですね?」


「そういうこと☆ガンバッテ!!」


真面目説明口調から、途端に先程までに飄々とした軽い口調に戻るエミリオ。


………もういいや、ひとまず初めてのクエストなことには変わりないし、失敗してしまっては今後の冒険者活動の経歴にキズが付くかもしれない。


なんとしてでもクリアして帰ってやる!!!


思考は働いていない中でもクエストの説明は飛行船の中で受けていて、ワタシはちゃんと記憶していた。偉いぞワタシ。


内容としては、グラナディア王国から南に進んでいくと広がっている砂漠、『サマルディア砂漠』、ここのど真ん中にあるオアシスを中心に王国が1つ栄えているらしい。それが『王国サマルディア』。


そのサマルディア近辺に最近、サンドドラゴンと呼ばれる砂の中を巣とし繁栄していく竜族が増えていって、交易品こ流通や観光客の飛行船等が襲われることが多くなっているらしい。


これ以上被害が拡大してしまう前にサンドドラゴンを8、9割ほど駆除して欲しいとのこと。


………この広大な砂漠で砂の中に潜むドラゴン(王国が被害を訴えるレベルで繁栄している)を8割9割減らせって………普通に無理では……?


「あの、エミリオさん、ちなみにサンドドラゴンの巣がある場所が分かってたりとか、そういう巣がありそうな場所の傾向が分かってたりとかって……あります?」


「んーーー無い!」


終わった………………………………。


「ただアイツら、ていうか竜族全般そうなんだけど、仲間意識+ナワバリ意識が相当高い奴らだからね、テキトーに歩いておけばアイツらから襲ってきてとにかくバンバン倒していくようになると思うよ。」


エミリオさんがそう言うと、まさにそのナワバリに足を踏み入れていたのかは分からないが、いつの間にやらワタシの真後ろの砂から、ドォンという音と共に、何かがワタシの頭に勢い良く振り下ろされる気配がする。


ワタシはそれを瞬時に防態ガードフォームでいなし、カウンターでドラゴンに数発入れてやった。


その衝撃でサンドドラゴンは後ろに数m飛ばされるが、あまり大きいダメージは無いようだ。


「結構良いの入ったと思ったけど、結構タフなタイプ?」


「竜族は基本的にタフだからねぇ。」


まるでワタシがあの不意打ちに対応できることが当たり前かのように普通にエミリオは話しかけてくる。


「それよりも、一体だけに集中してたら厄介だよ。ちゃんと周りも見てあげてねぇ。」


エミリオの先程の説明と今の軽い助言(?)から何となく分かってたけど、そうだよね、コイツら………。


「集団で襲いかかってくる…………よね。」


いつの間にか砂よりも暗い茶色い体表の竜、サンドドラゴンの群れに囲まれていたワタシとエミリオ。


しかもエミリオは欠伸しながらガンバッテ~と後ろで応援している。つまりこれ、全部一人で対処しろということである………。


どうやらワタシの初クエストは、だいぶしんどいスタートラインとなりそうである。

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