第10話 出会い。

「新木余裕です」

「は?」


余裕の返答は静には理解できなかった。


「よゆう? ヨユウ色って名前なんですか? それ。」


決して静のせいではない。

聞いたことのない色の名前と捉えてしまったのは、静だからこその誤謬ごびゅうだった。


「え?」

余裕は、なにがなんなのか半分理解できていたが、残りの半分を理由に必死で気づいていないフリをした。


「初めて見た色だったから。いいですね、その


余裕は焦った。

自分のしたことで目の前のに間違った情報を与えてしまったことに。


「ちょっと待って!」

すでに女の子は、何かに追われるように走り出していた。


「おい! ちょっと待てって!」

「ありがとー」

時すでに遅し。

こちらを振り返らず何故かお礼を言って全力で病院の廊下を疾走していく女の子は、視界から消えかかっていた。

「あれ…?」

けれど何故かその姿がいつまでたっても見えなくなることはなかった。

「・・・」

余裕は必死に夜目を凝らす。

「あ、消えた…そうか」

女の子の姿がこの真っ暗な場所でしばらくの間見えていた理由が分かった。

「月明かり…か」

窓から空を眺めると、さっきまでよりも一層光量の増した月だけが浮いていた。

「まあ、いいか…」

そう言って余裕は視線を戻す。

そこにはなぜか、礼を言いながら右手を上げブンブンと振って走り去っていく、月明かりがまるで似合わない元気な後ろ姿がまだ残って見えているような気がした。


「ふっ、太陽みたいな子だったな」

余裕は体にうまく力が入っていることに気付いた。

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