伯母の葬式

オヂサン

伯母の葬式

 オレが大学生の頃、伯母(母の姉)が亡くなった。伯母の家族が暮らしていた母の実家は、熊が出るのも珍しくない程のまあまあ山に近い辺鄙な所で、子供の頃にはよく遊びに行って可愛がられていた。


 それから伯母は癌か何かで入院する様になり、夏休みには帰省がてらお見舞いに行ったりもしていたが、葬式の時は試験期間中で帰れず後日母からその様子を聞いた。


 当時、その辺鄙な地域の葬式ではイタコの口寄せみたいな事をする人を呼ぶ習わしがあったらしく、伯母の葬式の時にも来たとか。母曰く「100歳ぐらいに見える」ずいぶんと小柄でしわくちゃでヨボヨボのバアサンが、足腰もだいぶおぼつかない様子でお付きの人に手を取られながら何とか祭壇の前に座り、目が開いてるのかどうかもよく分からない、寝てるのか起きてるのかも定かでない虚ろな表情で、ボソボソと亡くなった伯母の言葉を喋りだしたらしい。


 その内容は、オレが聞く限り…まあ、ありきたりと言えば不謹慎だが、よくある親類縁者へのお礼という感じだった。今ならテンプレとも言えそうなフレーズ。


 ただ、母が感心した様子で話していたのは、伯母が入院していた時、複数いる従兄弟連中の中でお見舞いに行ったオレとオレの姉貴だけにその礼を言ってたとか。どちらも葬式には出ていない。


 加えて、オレが伯母の希望で差し入れしたちょっと変わったモノ(懐中電灯:深夜目が覚めた時に時計を見る為)までピンポイントで言及していたらしく、語る母自身も多少熱を帯びてきた様子だった。


 でも、入院してる伯母には付き添いで従姉妹の姉さん(伯母さんの娘)がいたからその件は当然知ってるし、もちろん葬式にも出ていたから、まあその霊能者?サイドとお約束、もしくは暗黙の了解みたいなので事前に打ち合わせでもしてたのかなと思っていた。


 そして伯母の最後を看取り、最後着替えもさせて死化粧も施した母自身にもそのお礼を伝える言葉があったとか。特に所謂死装束ではなく、伯母のお気に入りの普段着を着せてくれた事にいたく感謝してくれていた、と母が嬉しそうに語っていた。水を差すのも野暮だと思って黙って聞いていたが、これもやはり例の打ち合わせの範疇なんだろうな、と思っていた。


 更に母には最後思い出したかの様に「お前は最近太り気味だから健康に気をつけろ」との言葉があったらしく、それを語る母が明らかに興奮しながらスゴい、スゴい、あのバアサンは本物の霊能者だと持ち上げだしたから、流石にオレも苦笑混じりで「いやいや(笑)母さんが太ってるのなんて見りゃ分かるでしょ(笑)」とツッコミを入れたら、母がキョトンとした顔で




「そのバアサン目見えないよ」





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