第5話 宮下と山下さん


「あ!ハル先輩、これ美味しいですよ!」

「へー、山芋の鉄板焼きかおいしそう」


 なんやかんやで某有名焼き鳥屋チェーン店にやって来た。

 金曜日の夜ってだけあって、店内は賑わいを極めていた。


「うぉーい!酒だ!酒だー!」

「飲め飲め!!」


 近くのお座敷からいかにも体育会系ノリの歓声というか怒号のようなものが聞こえた。

 いやぁほんと、ああいう会社でやっている人ってマジですげぇなって思う。



「あ、れっ……寺島くんは何食べる?」

「え、ああ、何しよっかな〜」


 ハルさんがボーっとしている俺に話しかけてきた。

 っておいおい、今ハルさん蓮って言おうとしてなかった?

 危ないってほんと、山下さんはなんかニコニコしてるし気づいてないっぽいから助かったけど。


「これなんかどうです?釜飯とか!」

「あー、確かにお腹減ってるからこれにしようかな」


 俺は山下さんに勧められて、釜飯を注文した。

 しかし、目の前にいるこの子、本当にあの山下さんか?


「いやぁ華金ですねー」

「だね、山下さんは最近仕事の方はどうなの?」

「普通ですかね!それより寺島先輩もハル先輩、もしかして付き合ってたりします??」

『え?』


 青天の霹靂すぎて俺とハルさんは同時にキョドってしまった。

 いやいやいきなりなんで、どこでバレた。

 さっきの蓮って呼びかけたところとか?

 でもあんな一瞬の出来事でバレるなんて……。


「えっと……一つ確認、さっきのでわかったの?それとも前から疑ってた?」


 俺が言葉に詰まっているとハルさんが代わりに山下さんにそう尋ねた。


「うーん、なんとなく雰囲気で!あとはハル先輩が男の人をご飯に誘うなんてなんかあるんだろうなって思ってました」

「なるほどね、あんまし隠しててもしょうがないから言うけど、付き合ってる」

「わぁ!!えー、いつからなんですか?」

「い、一年前かな」

「嘘っ!長いですね、全然気がつかなかった」


 結構あっさりバレたな……ま、ここまできて隠すのはなんか印象悪いし、山下さんにバレるくらいなら大した事なさそう。


「隠してるわけじゃなかったんだけど、ハルさんと話し合ってあんまし噂になるのも困るからさ、だから山下さんもーー」

「いいません!絶対言いません、ていうか私、職場だと地味子で行くって決めてるから話す相手とかもいないんで!」


 自信満々に山下さんはそう言った。

 なんだよその悲しい宣言。

 つか地味子で行くってなんでそんなことするんだろう。

 今のこの話しやすい感じの方が圧倒的に印象とかいいけど。


「あのさ、質問なんだけど山下さんはどうして職場で今みたいに派手な感じじゃなくて落ち着いた感じなの?」

「え、あー、それはキャラ付けですよね」

「キャラ付け?」

「はい、やっぱり会社とかって真面目が勝つじゃないですか、だから真面目でいきたいんですよね」

「なるほど」


 真面目が勝つ?

 なんか話し方おもしろいけど、ニュアンスは伝わった。

 じゃあつまり、会社では真面目で行きたいけど本当の山下さんはこっちってことなのかな?


「でも最近、職場のとある奴にこの姿目撃されたんですよね」

「え、そうなんだ」

「はい、あれは本当に油断でしたね」

「ちなみにその相手って誰なの?」


 ハルさんがそう訊くと山下さんは少しうんざりした様子で答えた。


「宮下です」

「宮下!」

「どうしたの蓮、そんな大きな声出して」

「ご、ごめん」


 あー、やっぱり宮下は山下さんのこの姿知ってるんだ。

 しかしこれで宮下が山下さんを狙う理由がわかったぞ。


「あー、ほんと最悪ですよ、せっかく頑張ってキャラ付けしてるのに、あいつ絶対言いふらしてますよ、きっと」

「いや宮下はそんな奴じゃないと思うけど」

「甘いですよ寺島先輩!ああいうのはロクでもないクズ野郎なんです、私宮下みたいなタイプ嫌いなんですよね」

「お、おう」


 今日で宮下が山下さんを狙う理由がわかったが、それと同時に山下さんが宮下を嫌っていることもわかってしまった。

 うーん、これは宮下厳しいかもなぁ。

 


 


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超こわくて有名な女上司の佐藤さんが俺の前だけデレデレな件について。 神崎あら @takemitsu

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