第56話 バースデイ・イヴ 3

 外はまだ明るかったから、僕たちは部屋へ移動した。渚が離してくれなかったけれど、危ないから階段では離れて貰う。抱っことか言ってくるけど、うちの階段狭いからさあ……。


 とにかくベッドにダイブした僕たちはいつも以上に興奮していた。ついさっきまで親しい友達たちが同じ家にいたと言うのもあったのかもしれないし、渚の艶めかしいキスがそうさせたのかもしれない、お腹や体が妙に温かかったのもあるかもしれない。


「えっ、渚これ……」


「あの、えっとね、その、変な意味があるわけじゃなくて……」


 渚はその……脱がせていくとすごく際どいパンツを穿いていた。パンツと言ってもボトムスじゃなくてパンティーの方。前もすごいけど特にお尻の方がやばい。えっ、これ穿いてないのも変わんないのでは……。


「前にほら、太一くんがワンピースの上から引っ張ったじゃない?」


「えっ、ああ、うん、ごめん……」


 以前、薄いキャミワンピを着ていた時に、下着のラインが浮き出ていたのを冗談で引っ張ってしまったことがあった。ちょっと怒られた。


「ううん、それはいいんだけど、それからちょっと下着の線が浮くのが恥ずかしくなっちゃって、七虹香ちゃんに相談したの。そしたら七虹香ちゃんがこういうの穿いてるって言うから……」


「えっ、七虹香、いつもこんなの穿いてんの?」


「あーっ、ナシナシ! 今の無し! 忘れて!」


 渚が目の前で手をフリフリ慌てて否定してくる。


「わかったわかった」


「それでね、昨日ちょっと買ってみたの」


「……すごくエロいと思う」


「そか…………」


「でも学校には穿いて行かないでね」


「こんなの穿いて行かないよ……」


 その後、あまりにも興奮したのでそのまま事に及んだわけだけど、結局邪魔になってすぐに脱がせてしまった。あと、普段からそうだけれど上と合わせられないと嘆いていた。僕としては渚が走るときに身につけてるスポブラでいいんだけどと話すとほっぺをつねられた。



 ◇◇◇◇◇



「あんまりお腹空かないね」


 僕たちはそのままベッドの上でごろごろしていた。


「結構食べたからなあ。パスタも何回か作って味見もしたりしてるとお腹も膨れるし」


「太一くん、汗びっしょりだね。寒くない?」


 もう四月も終わって五月になる。エアコンを切ってあると暑いくらいになってきた。


「渚が降りると汗が引いて解放感というか充実感でいっぱいになって、ちょうどいま気持ちいいところだから大丈夫」


「私が乗ってるとダメなの?」


 渚がちょっと怒って言う。


「そういうわけじゃないよ。渚の重さも気持ちいいし、離れたらそれはそれでやりきった感があって好きなだけ」


「そんなに重い?」


 今度は別の怒りが湧いたようだ。


「渚は軽いよ。軽く持ち上げてるでしょ?」


「……あれはちょっと恥ずかしいからやめて欲しいかも……」


 まあ、そんなことをしたこともある。


「――あー、手とかこんなに冷えて。本当に大丈夫?」


 渚が股の間に僕の手を挟んでくる。

 冬場は手が冷えてることが多いのでよくこれをやっていたし、そうでなくても横向きに寝ている彼女の太腿に指を滑らせると同じように挟んでくる。


「――脚の方が冷えてる」


 今度はそう言って僕の左脚を両脚で挟んできた。

 手の方はというと彼女の胸へ持っていかれ、抱きしめられる。


「――冷たくて気持ちいい」


 僕はちょっと汗っかきな部分もあって、いつも彼女より先に体が冷える。

 彼女はしばらく火照ったまま。


 そういえば去年の夏休みにもよくそう言って抱きついてきていた。

 あの頃はもう汗やらなんやらでベタベタだったので、渚みたいなおとなしい子からすると嫌かなとか思っていたのだけれど、彼女はまったく気にしていなかったことに驚いた。そんな記憶ももう懐かしい。


「――どうしたの?」


「ううん。ただちょっと、去年の夏はもっと汗だくだったなって」


「嫌だった?」


「渚の方こそ嫌じゃなかった? 嫌われないか心配してた」


「前にも言ったけど、汗だくになるの大好きだよ。太一くんの汗なんだもん」


「それは僕も」


 ふふ――と横になったまま二人で笑いあった。



 ◇◇◇◇◇



 そんなことをしていると、またそういう雰囲気になってきたりもする。


「あ、そうだ……」


 僕は部屋に退けておいた七虹香と三村がくれたプレゼントに手を伸ばした。

 実のところ、これの中身は何となく聞いて知ってはいたのだけれど――。


「今開けるの?」


「う~ん、ちょっと開けてみる」


 素っ裸のままで女子に貰ったプレゼントの包装を開けるのは何というか背徳感みたいなものがあったけれど――。


「何だこれ……」


 中身はアレ。そしてドラッグストアでいつも買ってるようなやつじゃなかった。パーティグッズのような派手な包装の、味の付いたアレがいろいろ詰まっていた。


「てか味付けてどうすんのこんなもんに……」


「味が付いてるの?」


「味見してみる?」


 僕たちは恐る恐る包装を開けた。渚はちろっと舌を出してそれを舐める。


「う……外国のお菓子みたい……」


「こっちもなんか香料のいっぱい入ったグミみたい。味みてみる?」


 二人で袋を開けたため、ふたつ味見してみたけどあまりおいしいものではなかった。

 なんだかんだと渚と話したけれど、結局おいしくないし口に入れるようなモノじゃないねと。


 とりあえず、ひとつ使っておいた。



 ◇◇◇◇◇



「山崎君からは何を貰ったの? すぐに部屋に持って行ってたけど」


 さっきのこともあってか、渚は最初から脚を絡めたままだった。

 喉が渇いたので抜け出して下の冷蔵庫から飲み物を取ってきたりしてたけど、戻ってきたらまたすぐ脚を絡めてくる。


「ああ……」


 山崎はなんというか……エロゲのクーポンコードを寄こしてきた。

 渚に話してしまっていいものか気まずい……。


「ねえ、なに貰ったの?」


 渚がわざわざ僕の顔を覗き込んで不思議そうな仕草をしてくる。

 これは問い詰めてやろうと言う先触れだな。


「山崎の名誉のために言っておくけど……」

「うん? うん」


「僕もその、ちょっとは持ってた」

「何を?」


「その、エッチなゲーム」


「太一くん」

「はい」


「18歳以上じゃないとダメじゃない?」

「そうですね……反省してますし今は持ってません。これも山崎に返して――」


「ね、ちょっとだけ見せて貰ってもいい?」

「え……」


 仕方が無いのでパソコンを起動させてダウンロードを始める。


「私たち、もう、そういうことしちゃってるよね」

「そうだね」


「だから今ならいいんじゃないかな?」

「ええ……」


 インストールが終わると、渚が裸でベッドに寝ころんだままゲームを始める。


「ノベルゲームなんだ」

「僕はノベルゲーム、あまりやらないけどね」


「えっ、じゃあ太一くんはどんなのやってたの?」

「アクションゲームとかかな」


「アクションでえっちなのするんだ?」

「何か勘違いしてそうだけどそうだよ」


「ノベルゲームならスマホでやってたのとそんなに変わらないね」

「まあ――」


「あっ…………」


 同人ゲームなのもあってか、展開が早くて早速エロシーンに入る。

 食い入るように見つめ、文章を読む渚。

 渚、ちょっと口が開いてるよ。


「えっ、こんなこともするの?」

「普通しないと思う」


 文章をどんどん送っていく渚。画像も切り替わる。


「えっ、えっ……」

「やっぱりストップ!!」


 僕は渚からマウスを奪ってゲームを終了させる。


「何てことするの太一くん!」

「渚にはやっぱりまだちょっと早すぎる!」


「なんで?」

「満華さんも言ってたでしょ、変なことしないで普通のエッチが大事だって」


「やってみていい?」

「やんなくていい!」


 その後、しばらく渚とバトルして無理矢理普通のエッチに持ち込んだ。

 ちょっと力任せにした部分もあったので怒られるかと思ったけど、何故か終わった後で渚はちょっと嬉しそうだった。



 ◇◇◇◇◇



 少し眠った僕たちは、起き出してくると既に外は真っ暗で遅い時間。

 みんな遠慮してか、スマホにはほとんどメッセージは来ていなかった。

 もちろん、遠慮しないやつも一人だけ居る。


『お味はどうだったって?』


 ――なんてメッセージが来ていたので、とりあえず返しておく。


『あんまりおいしくなかった』

『なんで太一が味見してんの!』


 どういうことだよ全く。

 とりあえず、七虹香は放置して渚とシャワーを浴びに行く。

 脱衣場でさっきのことを思い出した僕は、とりあえず洗面所周りに何か仕掛けていないか調べると、案の定、アレをひとつ隠してあった。さっき水風船にしたやつと同じだ。


「あれ? そういえばどうしてサイズわかったの?」


 最初のころ分からずに適当に買ったら小さくて、してるうちにズレて外れそうになったことがあったのでそれから後は大きいやつを買っていた。さっきの味付きも特に問題なかった。


「えっ…………」


 黙り込む渚。


「もしかして話した?」

「ごっ、ごめんね。つい……」


 渚の事だからどうせ誘導尋問に引っかかったりしたのだろうけど。


「まあいいか。味はともかく助かるし……」


 その後、渚とシャワーを浴びた。

 最近はお風呂場ではしていない。

 理由としては、単にのぼせやすいから。

 ちょっとだけ触ったりするくらいにしてる。ちょっとだけ。

 湯船に入る時とかは特にしないようにしてゆっくり浸かってる。



 その後、残っていたパスタソースでまたパスタを少し作って食べる。

 飽きないように、ときどき野菜を入れたりしていたけど――。


「七虹香ちゃんじゃないけど、すっごくおいしいから飽きないよ?」


 ふふ――と笑う渚。


 なんだかもう既に、新婚生活をしているような気分になってしまった。



 ◇◇◇◇◇



 さてそれからもう一戦しようかなんて話もあったけれど、もうたくさんしたし、皆がお祝いに来てくれた後でこんなことしていると見透かされてる気分になるからなんて、渚は今更何言ってんのって思ったけれど、たまにはしないでゆっくりお喋りでもしながら寝ようかって話になって寝た。










 ――わけがなかった。


 やっぱりもう一戦してから寝た。







--

 久しぶりの(?)エロコメ回でした!

 やっぱり学校では表向き純情そうな恋人同士が実はってのはいいですね。

 事情を知らない生徒たちにはぜひ二人を侮ってもらいたいものです。


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