第9話 恋人宣言?
ようやく落ち着いた渚は顔を洗ってくると言って洗面所に向かった。
「もうお話は終わった? こっちでお茶でも飲まない? さっきのオジサンは帰ったから」
渚のお母さんが渚と入れ替わりに顔を覗かせた。
「いえ、遅いから帰ります」
「学校からの帰りでお腹空いてるでしょ? 残り物でよかったら食べていかない?」
「ああ、その、悪いですし……」
「太一くん、食べていきなよ。どうせ外食かお惣菜買うんでしょ?」
洗面所から戻ってきた渚が言う。
「あら、そうなの?」
「両親とも帰りが遅くて外で食べてくることが多いんで。今日は連絡無いから外だと思います」
「じゃあ食べていきなさい。遠慮いらないから」
ニコりと微笑む渚のお母さん。
◇◇◇◇◇
渚に紹介してもらったあと、僕にハヤシライスを用意してくれ、自分たちの分もお茶を用意し終えた渚のお母さん。渚よりも少しだけ背が高く、見た目がとても若いこともあってアップにした黒髪が魅力的に見える。渚もこういう髪型が似合うかもしれない。
「それで? いつから付き合ってるの?」
僕が食べ終わるのを見計らってダイニングテーブルの正面に座る僕たち二人にニコニコと問いかけてきた。
「ああ、ええっと」――僕は隣に座った渚の顔色をうかがう。
渚は答えあぐねていた。
「あら? 付き合ってないって言われる方が心配なんだけど?」
渚のお母さんは意味深な微笑みと共に渚をみつめる。
しばらくの間があり、はっと息を飲んだ渚は――。
「夏休み前の……七月十四日からです……」
なるほどそうだったのかと僕は付き合い始めた日を覚えてなかったことに初めて気づく。渚がしっかり覚えているって言うことは、僕が覚えていないことを問い詰められる可能性もあった。危ない危ない。
「渚さんと、お付き合いさせてもらってます」
「太一君は渚を大切にしてくれる?」
「もちろん、全力で」
「じゃ、お母さんからは何も言わない。渚の問題だから」
「――この子ね、なんかいろいろ頑張ってるみたいなのよ、だから――」
「お母さん!」
「なによ。どんどん可愛らしくなってくから、お母さんも嬉しいのよ?」
「可愛くなりすぎて、僕としてはちょっと心配なくらいです」
渚はもじもじと右手と左手の指を絡めながら俯いて真っ赤になってた。
「まあ! 太一君をやきもきさせてるのかしら。悪い子ね」
「そ、そんなんじゃない。――そんなつもりじゃないの……」
俯きがちに力なく言った後の言葉は、なんとなく僕に言ったような気がした。
僕は渚の背中に手をやり――。
「大丈夫だよ。渚の気持ちはわかってるから」
「うん……」
優し気な視線を送る渚のお母さんに、僕は渚が学校でも頑張ってることを教えてあげた。以前よりもよく喋るようになったし、演劇にも積極的に参加していたし、最近では演劇部にシナリオを提供したりして遅くなることもあると。
「あー、さっき送ってくれた部長さんねー。そっかー」
ん? 渚のお母さんの反応に違和感を感じた。
「何かあったの?」
「部屋に上げて欲しいみたいだったけど、渚が断ってたわね」
「いい人なんだけどね。ちょっとぐいぐい来るから苦手なの」
「えっ!? 部長さん、女子って聞いてたけど?」
「うん、そうなんだけど、ちょっとね……」
「そういう子には女の子でも、ちゃんと付き合ってる人が居ますって言っておかないとダメよ?」
「ああ……それなんですけど……。――実は親しい友達を除いてまだ公表してないんです」
「えっ?」
「渚さんが、恋人とのことを周りに揶揄われるのが苦手らしくて……」
「はぁ……まだ中学のことを引き摺ってるの? でも、それじゃ太一君がやきもきするのも当たり前でしょ?」
「うぅ……」
「太一君、大事にしてくれるって言ってるでしょ? じゃあ二人で頑張ればいいじゃない」
「渚のことはちゃんと守るから」
「……わかった。でもいきなりはちょっと……。あとクラスの皆に言う時は太一くんから言ってもらっていい?」
「わ……かった」
ちょっとその辺は自信が無かった。何しろ僕はざまぁのカースト底辺だからなあ。
その後、渚のお母さんから文化祭の演劇を観に行ったと聞いた。そしてまさか僕が出ていたとは思っていなかったみたいで、勇者役とのギャップに驚いていた。ただ、――あっ! ――と何かを思い当たったのか、両手をぽんと打つと先程から何度か目にした例の微笑みを見せていた。
その後、鈴代家を後にした僕は、家に帰るとスマホにメッセージが届いているのに気が付いた。そこには――。
『エッチしたのお母さんにバレてるかもぉ』
『絶対バレてる』
『恥ずかしいいい!』
という渚の叫びが記されていた。
--
ご感想とかいただけるとめっちゃ嬉しいです!
前回と次回が長いので今回ちょっと短めにしました。
あと次回、最後に叡智なシーンがあるので苦手な人は飛ばしてください。
叡智を!(ジェスチャー:叡智)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます