第5話 完結。

 僕たち四人は夏祭りを堪能している。出店で焼きそばやたこ焼きを買い、設置されているテーブルに並べて椅子に座り食べている。目の前のステージでは、司会者が進行してダンスやモノマネなどクオリティの高いパフォーマンスが披露されている。


「テツ、たこ焼き食べる?」


 隣に座っている凛子ちゃんが僕に尋ねる。


「うん。たべる」


 僕が答えると凛子ちゃんは付属のつまようじをたこ焼きに刺し、僕の口に近づける。


「はい、あーん」


 夏祭りで開放的になっているのか、凛子ちゃんが積極的だ。僕は照れながら、たこ焼きを一口で食べた。


「モグモグ……美味しいね。凛子ちゃんありがと」


 凛子ちゃんは嬉しそうに僕に微笑む。


『はい。今から炭酸飲料早飲みをしますが、飛び込み参加オッケーです。参加されたい方は、ステージ横の階段そばに集まって下さい』


 モノマネショーが終わり司会者からのアナウンス。力也君は席から立ち上がる。


「よし、俺は早飲みに参加する。みんなはどうする?」


「僕は遠慮するよ」


「私も遠慮するね」


「同じく〜」


 僕たち三人が参加を辞退すると、力也君は一人でステージ横の階段付近へ行った。そしてすぐに炭酸飲料の早飲みが始まった。順調に進行して力也君の登場。最後のグループだった。


 司会者がスタートの合図をすると力也君は一気に飲み干して一番になった。


 司会者から力也君に賞品が渡された。賞品を受け取った力也君は司会者の人に話しかけている。


「えー、皆さま突然ですが、ここにいる男の子、剛田力也君が、今からですね、このステージ上で好きな女の子に告白します」


 司会者のアナウンスに会場がどよめく。力也君はマイクを渡されて深呼吸をした。


「白神由希子さん、ステージに来てください」


 力也君の呼びかけに、由希子ちゃんは恥ずかしそうにしながらもステージへ行った。ステージに由希子ちゃんが現れると、会場にいる沢山のお客さんの盛り上がりは最高潮になった。


 そして会場は静かになる。力也君の告白にみんなが固唾を飲んで見守っている。司会者が由希子ちゃんにもマイクを渡している。


「白神由希子さん、俺はキミが好きだ。付き合ってください」


 由希子ちゃんは照れ隠しの笑顔でマイクを握りながら、しばらく考え込んでいる。会場の空気が緊張と期待に包まる。


「力也君、私もね、ずっと好きだったんだよ。だから、よろしくお願いします」


 由希子ちゃんの返事に会場には大きな歓声と拍手が湧き起こった。


 力也君と由希子ちゃんは、ステージ上で幸せそうな笑顔を浮かべている。夏祭りに来ている人たちも喜んでお祝いしている。


 力也君と由希子ちゃんは手を繋いで戻って来た。


「すっごく恥ずかしかったよ〜」


 由希子ちゃんは嬉しそうに僕と凛子ちゃんに言った。


 夏祭りはさらに盛り上がり、僕たち四人は一緒に楽しい時間を過ごした。夏の夜の祭りでの素敵な思い出を共有していると思う。


 終わりの時間が近づくと、打ち上げ花火が始まった。みんなが空を見上げている。


「綺麗だね〜」


「うん。そうだね」


 僕は打ち上げ花火を見ながら決心する。絶対に今日凛子ちゃんに告白しよう。


 打ち上げ花火も終わり、今年の夏祭りは予想以上の盛り上がりで幕を閉じた。僕たち四人は歩いて家に帰る。僕は今日、力也君の家に泊まる。凛子ちゃんは由希子ちゃんの家に泊まる。由希子ちゃんの家は力也君の家の隣。


 帰り道、僕の隣は凛子ちゃん。僕たちの前に力也君と由希子ちゃんが手を繋いで歩いている。二人は楽しそうに会話をしている。


 僕も凛子ちゃんと夏祭りの話をしながら帰っている。手は繋いでいない。


 話をしながらあっという間に力也君の家に到着。ここで解散になる。


「……おい、テツ。しないのかよ」


 僕だけに聞こえる小声で力也君が話しかけてくる。


「じゃあ、また明日。みんなで一緒に宿題しようね」


 由希子ちゃんが笑顔でみんなに声をかける。


「あ、あのさ、僕、凛子ちゃんに話がある」


「私に話? 何?」


「えっと……」


 僕はチラチラと力也君と由希子ちゃんを見る。二人は察してくれて、その場を離れてくれた。


 凛子ちゃんと二人きりになり、僕の緊張は最高潮になっている。


「凛子ちゃん、実は……」


 言葉が詰まる。でも、今が告白の時だと思い、勇気を振り絞って思いを口に出す。


「僕は凛子ちゃんと一緒にいる時間が、本当に楽しくて……僕は凛子ちゃんのことが好きなんだ。もし、僕のことがいいなって思ってくれたら…付き合ってくれる?」


 凛子ちゃんは僕の言葉を聞くと優しく微笑んだ。


「テツ、私もテツと一緒にいると凄く楽しい。私もテツのことが好き。もちろん、付き合うよ」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の中に幸せな感情が溢れ出した気がした。


「本当に? ありがとう、凛子ちゃん」


 告白の前に感じていた緊張と不安が、幸せと安心に変わっていく。


「テツ、これからも、ずっと一緒にいたいな」


「凛子ちゃん、僕は凛子ちゃんと結婚して、ずっと一緒にいたい」


「それってプロポーズなの? うん、分かった。私は将来テツのお嫁さんになるね」


 告白が終わると、少し離れた場所にいた力也君と由希子ちゃんが僕たちに近づき祝福してくれた。


 それから僕たちは別れてそれぞれの家へと帰った。その日の夜は僕と力也君は布団に入っても興奮して寝れなかった。僕たちは今後の楽しい計画を話し合った。未来のことを考えるだけでワクワクした。


 夏休み期間中は僕たち四人はたくさんの思い出を作るために毎日一緒に過ごした。買い物やプールに行くこともあり、毎日が充実していた。


 夏休みが終わり、学校に行くと力也君と由希子ちゃん、そして僕と凛子ちゃんの交際が学校中に広まっていた。みんなは祝福してくれて学校生活も一層楽しくなった。


 そして、力也君も由希子ちゃんにプロポーズした。僕たち四人はとても仲良しのままで、結婚後も一緒に過ごすことを誓い合った。


 時間が経つのは早く、高校受験期間になっていた。僕たちは別々の高校に進学する予定だったけど、同じ高校に行こうということになり、四人が合格できる高校を選んだ。そして無事にみんな合格した。


 高校生活の三年間はとても充実していた。毎日が楽しかった。家から通える学校だったので毎日四人で通学登校した。


 高校を卒業後、僕たち四人は同じ大学へ行った。そして大学卒業後は、恋人から夫婦へと歩みを進めた。同じく力也君と由希子ちゃんも結婚し、僕たち四人は仲良く交流していた。


 僕と力也君は都内の同じ会社に就職。何処にでもいる普通のサラリーマンになった。僕は事務、力也君は営業。凛子ちゃんと由希子ちゃんは結婚してすぐに妊娠した。そして無事に出産。僕たちの子供は女の子で、力也君夫婦は男の子だった。


 結婚してから僕は毎年正月に実家に帰っている。三十歳の正月も実家へ家族そろって帰った。地元の島は子供の頃からかなり変わった。


 島にはキャンプ場ができた。それで観光客が増えた。凛子ちゃんの実家の酒屋は残念ながら数年前に閉店した。そして同級生の修二君の実家の酒蔵は一条グループという大企業に買収された。同級生の修二君は酒蔵のお金を使い込んでいたらしく、現在は借金の返済で外国で働いているらしい。


 三十歳になった僕は毎日が幸せだ。仕事から帰ると大好きな凛子ちゃんと娘が笑顔で『おかえりなさい』と言ってくれる。


 波瀾万丈ではない平凡な毎日。それが一番いい。そしてこれからも家族の笑顔を守り大切にして生きていこうと思っている。


 ——終わり——

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並行世界の二人はハッピーエンド。 さとうはるき @satou-haruki

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