泡沫の姫ーutakataー (with youシリーズ)

牧瀬 冬弥

泡沫の姫-utakata-

作:牧瀬冬弥 (マキセ トウヤ)

原案:saku@ (サク アット)


(♂1:♀1)

所要時間目安: 約30~40分


ゆうま♂:最近写真を始める、昔海辺で写真を撮っていた時に人魚と仲良くなる夢?を見た。だが遠くの水面に跳ねる人魚っぽい写真を持っている。それを見つけてから水にまつわる写真を撮るように


あき♀:水族館で写真を撮るゆうまと偶然出会った少女、以前ゆうまとは何処かであった事がある様だが…






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本編↓



あきN:人魚姫のお伽話を知っていますか?素敵な王子様と美しい人魚の恋物語…

しかし人魚姫は王子様とは結婚できず、最後は人魚姫が泡になって消えてしまうお話…

でも、実際に消えてしまったのではなく⋯、愛してくれた人の記憶から、消えてしまうのです。

まるで水面に浮かぶ泡の如く、儚く…




あき:withyou(ウィズユー) 



ゆうま:泡沫(うたかた)の姫



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(カメラのシャッター音)

(水族館)




(シャッター音)

ゆうま:……う~ん


ゆうまN:水の写真が好きだった、海でも川でもプールでも、道路に出来た水たまりだってかまわなかった。

たまたま今日は、近くに新しく出来た水族館に足を運んでみただけで特に魚が撮りたいわけでもなかった


(シャッター音)

ゆうま:……うん?う~ん、レンズ変えてみるか…


(レンズ交換をするゆうま)


ゆうま:よし、どれどれ



ゆうまN:ファインダーをのぞいた瞬間、目を奪われた、時が止まってしまったのではないのかと錯覚するほどに⋯目が、離せなかった…



あき:ん?



ゆうまN:ひきつけられた女性にカメラを向けたままでいたらこちらに気付いたのか、

ファインダー越しの女性と目が合ってしまった


ゆうま:あ、やばっ


ゆうまN:とっさにカメラの向きを変えたが女性がこちらに向かってつかつかと歩いてくる

シャッターこそ切ってはいないが怒らせてしまっただろうか?女性がすぐ横に立ち止まって話しかけてくる


あき:ねぇ、おにいさん、今私のこと撮ってた?


ゆうまN:あ~やっぱり盗撮を疑われしまっただろうか?


ゆうま:いえ、たまたまレンズを変えて構えてた時にあなたが入ってしまっていて、でもシャッターはきってないです!


あき:あれ?そーなんだ?綺麗に撮れてたら見せてもらおうと思たのに


ゆうま:え?そっち?てっきり盗撮でお縄かと焦ったよ


あき:え?あっはっはっはwそんなことしないよ、ねね、せっかくだから撮ってみてくれない?


ゆうま:え、俺ポートレートはあんまり得意じゃな


(被せながら)

あき:いいからいいから美人に撮ってね


ゆうま:分かった分かりましたって、じゃぁ、とりあえずそこに立って軽くポーズとってみて


あき:ポーズか…、こんな感じ?


ゆうま:ちょっと、グラビアじゃないんだから、うん、そのままで

(シャッター音) 


ゆうま:ポーズはそのままでゆっくり視線だけ、外してみて

(シャッター音)


あきN:まっすぐ見てくれる…凄く真剣な視線…







ゆうま:いくつか撮ってみたけど、どうだろ?


あき:どれどれ?見せて見せて?


ゆうま:こんな感じなんだけど

(デジタル一眼の画面を見せる)


あき:へぇ、あっこれ可愛い!おにいさん凄いね!これなんて後ろの青と雰囲気いい感じ



ゆうま:あぁ、なんて言うか、人魚姫みたいだな



あき:へ?人魚姫?私が?ふふ、嬉しい!

でも残念ながら、そんな人魚姫に見える私、カナヅチなんだなぁ



ゆうま:そうなのか?なんかスポーツやってそうな見た目だったから



あき:よく言われるんだけどねぇ、いろいろあって泳ぐのだけはダメなんだぁ、まぁでもここまで綺麗に撮ってくれるとは思わなかった!お兄さんはプロのカメラマンさんなの?




ゆうま:そうか?ポートレートなんて撮る機会がないからそう言ってもらえると良かったよ、プロ⋯では無いな、しがない写真愛好家



あき:そうなの?そっか、もったいない、あ!おにいさん今日は一人?せっかくだから水族館の他のコーナーでも撮ってみない?



ゆうま:いいのか?新しく出来たところだし、一人でゆっくり見てたんじゃ?



あき:いいのいいの、どうせなら誰かとお話ししながらの方が楽しいよ



ゆうま:そうか?それじゃぁ回りながら適当に撮っていくか



あき:あちこちでポーズ決めるから美人に撮ってね



ゆうま:美人になるかは素材次第だからなぁ



あき:なんだとー!この白魚(しらうお)のような肌の私をモデルにして素材次第ってー!



ゆうま:はははごめんごめん、超絶美人に撮らせていただきます



あき:うん。わかればよろしい



ゆうまN:初めて会ったはずの少女は、まるで壁を感じさせずにスッと打ち解けてしまった、思わず目を奪われた時の存在感は健在だが気さくに話しかけてくれる少女はまるで昔からの幼馴染みたいな感覚になる



あき:お兄さんどうしたの?なんだかぼんやりしてる?

ひょっとして私の魅力にあてられちゃった



ゆうま:はいはい、そうかもな、それよりお兄さんじゃなくて、ゆうまだ

そっちは?



あき:私?私はあき、よろしくね!ゆうま


ゆうま:あき?あれ…?


あき:どうしたの?


ゆうま:いや、なんか耳なじみがいいというか…うーん、なんだろ?


あき:なん…だろね…春夏秋冬で聞きなれてるからかな?


ゆうま:いや、そういう感じじゃないんだけど…うーん、こう頭の片隅にピリッとくるんだけど…だめだ分かんねぇな


あき:大事なことならきっと思い出せるよ


ゆうま:そう…だな


あき:うん…そうだよ…きっと…






あき:はー沢山撮ったねぇ



ゆうま:そうだなぁ、最後の方は他のお客さんも何かの撮影イベントかってくらいに見られてたもんな



あき:あれはちょっと照れちゃったねー



ゆうま:そうだ、今日撮った写真後で送るから連絡先交換してもいいか?



あき:うん、いいよ。はいこれ私の番号

(スマホの番号登録)



ゆうま:ありがとう、それと、コレは今日のお礼な



あき:え?なに?へー!イルカのキーホルダーだ。可愛い。ありがとうね



ゆうま:俺の方こそ、凄くいい写真が撮れたと思う、ありがとうな、また連絡する、てかまたモデルをお願いするかもしれしれない



あき:うん、いいよ。ゆうまは可愛く撮ってくれるから特別に水着までだったら許しちゃおうかな



ゆうま:ばっか!お前!そんなの頼むわけないだろ!



あき:ふふ!楽しかったよゆうま、…またね



ゆうま:ったく、あぁ、またな




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ゆうまN:それからあきとはいろんな所に出かけて行った

遊園地、観光地、イベントや街でのスナップショットやしっかり準備しての撮影。その間も脳裏にピリッとした感覚は何度もあった…

今日は新しい水着を買ったからということで海までやってきている、正直水着姿のあきを撮影するのが照れくさくてちょっと行くのを濁していたのだが…


あき:せっかく可愛い水着かったのに着なきゃもったいないよ!それにゆうまなら綺麗に撮ってくれるし、変な男からも守ってくれるでしょ?それとも私の水着姿が見たくないっていうの?


ゆうま:っ!?…まぁ、なくもない…


あき:じゃあ決定!楽しみだなぁ


ゆうまN:って感じで断るに断れず、今は浜辺で着替えてくるといったあきを待っている


(海辺)


あき:ゆーうーま!お待たせ


ゆうま:いや、思ったよりも全然早かっ…


あき:どう?かわいいでしょ?これはゆうまも見惚れちゃうよねー


ゆうま:あーうん、可愛い水着だな


あき:水着だけー?私は?


ゆうま:あーもう!めちゃくちゃ似合ってるよ!


あき:えへへ、ありがとう


ゆうま:ほら、さっさと撮影場所行こうぜ


あき:うん



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(海の家)


あき:ここって大きなゴムボートも貸し出しやってるんだね


ゆうま:まぁ今回はレンタルで浮き輪やボールなんかの小道具しか借りないからな


あき:こういうボートなら沖まで出れるかな?


ゆうま:カナヅチなのに水は怖くないんだな


あき:うん、水に落ちたりさえしなければこういうのでのんびり浮いたりしてるのとか好きだよ


ゆうま:あきはどっか抜けててボートの上で立ったりして落ちそうで怖いな


あき:もー!そんなことしないよ!ほら、撮影撮影


ゆうま:はいはい



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(日暮れ)

(シャッター音)


ゆうま:うん、こんなもんかな?あき!そろそろ終わろうか


あき:…(日の沈んでいく海を見ながら)


ゆうま:あき?


あき:ゆうまはさ、ここから私の事連れ出してくれる?


ゆうま:連れ出す?あき?それってどういう…


あき:っ!ううん、なんでもないの!それより今回もいっぱい撮れたね


ゆうま:あ、あぁ…そうだな、夕焼けをバックにしてってのも難しいけどよく撮れたと思う。前にも言ったけどあきが人魚みたいでキラキラしてたよ


あき:人魚…


ゆうま:あーなんていうか、信じられないかもしれないけどさ、俺昔ってかまだ小さかった頃に人魚に会ったことがあるっぽいんだよな…


あき:っ!ほんとに!?どこで?覚えてるの!?


ゆうま:びっくりした、急に大声でどうした?覚えてるっていうかそんな気がしてるんだ、それこそカメラを始めるきっかけなんだけど、昔撮ったフィルムカメラにそれっぽいのが写ってて、でも画質も悪くてほんとそれっぽいってだけなんだけど、なんか確信っぽいのがってな…


あき:そっか…ゆうま、童話の人魚姫のお話しに近いけどちょっとだけ違ってるお話しに似てるね


ゆうま:へぇ、どんなの?


あき:かいつまんで話すんだけど、人間に恋をした人魚姫は不思議な力で人の姿になって人間に近づくの、でも人の姿になるには制約があって、しゃべれなくなったり、聞こえなくなったり、走れなくなったりしちゃうんだって、そして童話では泡になっちゃうっていうのも少し違って、人が人魚を好きになっちゃうと…本当に、本気で大事な存在になった時にその人魚の事を…忘れちゃうんだって…不思議な力は忘れさせることまで含めて出来ているの…まるで呪いのように、記憶から泡のように無くなってしまうまで…



ゆうま:そんなことがあるんだな…じゃあ俺のこの気がしている記憶ももしかしたら…



あき:あるのかも…ね



ゆうま:そっか、ずっと脳裏にピリッとした違和感があったのはそういう事だったのかな…



あき:ゆうまの記憶に違和感があるのはその小さかった頃の時だけなの?



ゆうま:うーん、あきに会ってると、時折脳裏に違和感は覚えるけど…それはなんなんだろうなって…



あき:……っ!(涙を流すあき)



ゆうま:えっ?あき?お前急になんで涙なんて…



あき:あれっ!あはは、おかしいなぁ…なんで…、ごめんちょっと着替えたいから先に行くね、レンタルしたものとか返却お願いしといていい?



ゆうま:あ、あぁ…



あき:ほんとこれは何でもないから、またあとでね



ゆうまN:びっくりした、いつも笑っていたはずのあきが急に見せた涙…

いったい何が、あきを泣かせたのか…



ゆうま:(ぽつりと)人魚…か…



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あき:あ、ゆうま!こっちこっち



ゆうまN:さっきまでの雰囲気はどこへやら、ビーチを眺められるベンチからこちらに気付き手を振るあきが見えた



ゆうま:おう、おつかれさん、落ち着いたか?ん?何飲んでるんだ?



あき:ん?これ?えへへ、ビンラムネ!ゆうまも一口飲む?



ゆうま:懐かしいな、ちょっともらおうかな。んっんっ、っかぁぁぁぁ!美味い!



あき:ちょっと!一口って言ったのに!飲みすぎ!



ゆうま:あはは、ごめんごめん、しかし炭酸系なんて久しぶりに飲んだわ



あき:ゆうまはいつもコーヒーだもんね、よくあんな苦いのなんて飲んでられるね



ゆうま:あの苦みがいいんだよ、なんて言うか目が覚めるしスッキリする



あき:そういうもんかぁ…



ゆうま:……



あき:……


(日が沈んでいく海を見ながら少し震えた身体でゆうまに近づくあき)



ゆうま:少し冷えたか?



あき:うん…



ゆうま:あき…

(震えて近づいたあきの肩に手を回すゆうま)



あき:ゆうま…



ゆうまN:震えるあきの肩を抱くと、一瞬ピクリと驚きながらも自然と身を任せてくれる、こちらに視線を向けたあきの濡れた瞳から目が離せずにいる…少し見つめあったままでいると、その瞳に吸い込まれそうになっていく…あきの顔が近づいてきている、でも近づいているのはあきだけではなく俺も自然と引き寄せられて行っているようで……もう目の端まであきの顔でいっぱいになるとスッと目を閉じるあきと…



あき:んっ…



ゆうまN:初めて、キスをした…唇が触れ合うだけの軽いキスなのに、触れ合う場所から暖かくなっていく…



あき:ゆう…ま



ゆうまN:少し唇が離れたところであきが俺の名前を呼ぶ、それが可愛くて更にキスをする、ついばむように、優しく…少し驚いた様子が感じられながらも軽い吐息を漏らしながら受け入れてくれる…肩を抱く腕につい力が入ってしまうのを何とか理性で抑えて、こんなにも好きになった子を本当に大事にしようと決めた…



ゆうま:あき…ぐぅっ!(頭の奥に痛みが走るゆうま)



あき:ゆうま!?大丈夫!?



ゆうま:っ!あ、あぁ…なんだか急に頭の奥が



あき:はっ…はっ…はっ…(呼吸だけ荒くなってゆうまを見つめる)



ゆうま:っ!ふぅ…少し落ち着いた…ごめんな、急に何だったんだろうな?

悪いけど今日はここで解散にしようか



あき:ゆ、ゆうまそれはきっと(小声で)


(被せるように)

ゆうま:今日は頭痛薬飲んですぐ寝るわ、また連絡するから、あきも気をつけて帰れよ



あき:う、うん…心配だからおうち着いたらすぐ連絡してよ



ゆうま:わかったわかった、また、遊びに撮影、行こうな



あき:うん、また…ね





あき:その日から…ゆうまからの連絡はなくなった…



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(スマホで文字を打つあき)

あき:無事か心配です、元気になったら連絡ください、待ってます…と送信



あきN:あの日、海でゆうまと別れてから連絡はない、それはきっと…あのお話しの呪いなんだ…それでもきっと、ゆうまなら…



あき:ゆうまなら、きっと連れ出してくれる…



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ゆうまN:何だか寝すぎた気がする、ずっと靄(もや)がかかったようなスッキリしない頭で考える



ゆうま:コーヒー淹れて目覚まさなきゃな



ゆうまN:コーヒーを飲みながらスマホを見る、数件の未読のメッセージが来ているのを開いた



ゆうま:あ…き…?



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あきN:ゆうまと連絡が取れなくなってから一週間、よくゆうまと待ち合わせしたこの駅前なら彼に会えるかもしれないと思ってここで待ち続ける日々…

住んでる場所まではお互い知らないからこれしか方法が分からなかった、また水族館に行ってみるのも考えたけど、この駅を使うことが多いからきっとここなら…今にも落ちてきそうな空を目の端に捉えつつ人の波から彼を探す



ゆうまN:流石に一週間近く引きこもってると気が滅入ってしまう…

まだ頭の痛みは消えないが、久しぶりに外に出歩いてみることにした

、テレビのニュースでは大型の台風が来ているそうで冷蔵庫の食材も心もとないし、とりあえず思いつくまま駅前までやってきた



あき:空気が湿ってきたな、もうすぐ降ってくるかも…あっ!



ゆうま:風も出てきたか、早いとこ買い物も済まさないとな…おっ?



あきN:人ごみの中で彼を見つけた、一週間ぶりに見た彼、人が多くてこんなに近くに来るまで気づかなかったなんて、そんな彼と目が合う



ゆうま:ちょっと降ってきたか?…んん?(通り過ぎるゆうま)



あき:っ!…ゆうま!



ゆうま:えっ?



ゆうまN:駅前で声をかけてきた女の子、すごく綺麗な子で思わず



ゆうま:えっと…ごめんなさい、⋯どこかでお会いしましたっけ?



あき:あっ…よく考えたらちゃんとお話ししたことなかったかも、ごめんなさい急に呼び止めて、あの…それじゃぁ!(走り去る)



ゆうま:なんだったんだろう…うっ!頭、が…


(走りながら)

あき:はぁはぁはぁ、っ…ゆう、ま…また私の事…覚えて、なかった…今度こそはって…思って、いつもと、違った…のに…




(部屋に帰ってくるゆうま)

ゆうま:っはぁっはぁ、なんだ、さっきから頭痛が収まらない…あの子を見てから…あの子はいったい…っはぁ…



ゆうまN:収まらない頭痛に耐えつつ部屋に戻ってくる、部屋の中で頭痛薬を探してると部屋の片隅に転がっている少し大きめのケースを見つける



ゆうま:なんだ…これ…?


(ジッパーを開ける)

ゆうま:カメ…ラ?なんだ?借り物?そうだ!次は何処に一緒に撮影にっ⋯一緒に⋯?誰と⋯?

(デジカメをいじるゆうま)


ゆうま:えっ!?これ、さっきの女の子…?なんで?こんなに…沢山…楽しそうに…笑って…っく…涙…どうして…っあぁぁ!



ゆうまN:デジカメの写真を見ながら急いでスマホのメッセージアプリを開く

そこにはあきという女性との楽しそうな会話の内容や、スマホで撮ったような写真が並んでいた…



ゆうま:あ…き……あき!



ゆうまN:考えるより先に体が動いていた、ただ、今すぐに彼女に会いたいと感じてしまった。スマホを片手に降り出した雨の中、傘もささずに走り出していた



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(雨の中)



あきN:また、だめだった、これで4度目のゆうまとの出会い…何度出会いなおしても最後にゆうまは忘れてしまう…忘れてしまう度に苦しくなってそれでも諦めきれなくて、そしたらゆうまがまた見つけてくれて、今回の水族館は本当に偶然の出会いだった、鼓動が跳ね上がるのを必死で抑えて話しかけたのに…



あき:これが、呪いなの?やっぱり人魚と人は一緒にはなれないの…?でも、ゆうまは過去に会ったことがあるのをうっすらと覚えてた、今回こそはって…思ったのに…



あきN:あてもなく歩いていた、今回初めて会った水族館、公園、気づいたら想いを通じ合えた海辺に来ていた



あき:ここが最後の…楽しかったな…

あっ、あそこのお店、ボートとか出しっぱなし…





(走るゆうま)

ゆうま:はぁっはぁっはぁっ!あき!あき!あき!

なんで!こんなに大事だったのに!俺は…俺は!


(あきは回想)

あき:美人に撮ってね


ゆうま:もともと美人だっての!


あき:水着、似合ってるかな?


ゆうま:目のやり場に困るんだよまったく


あき:ゆうまはさ、ここから連れ出してくれる?


ゆうま:どこからだって見つけ出して手を引いてやるよ


あき:人魚の呪いなんだよ


ゆうま:呪いだろうが何度だって出会ってお前に恋をするよ


あき:ゆうま…


ゆうま:はぁはぁはぁ、あきー!



あきN:沖に流されるゴムボートの上でうなだれていた、ここまでやっていても無理なのか、呪いに勝つ方法なんてないのかな…ゆうまの事ばかり考えていたらゆうまに呼ばれたような声まで聞こえてくる


あき:何考えてるんだろう、こんなところに彼が来るわけ…


ゆうま:あき!連れ出しに来てやったぞ!カナヅチのくせにこんな天気の中まったく、今行くから!


あき:ゆう…ま…ゆうま!なんでここに


ゆうま:全部…とは言えないけど思いだしたんだ!今回の事も今までの事も


あき:ゆうま…だめっ!こないで!


ゆうま:なんで!?だっておまえは


(被せ気味に)

あき:今思い出せてても、何がきっかけでまた忘れちゃうか分からないんだよ!今期待して、また忘れられちゃったら


ゆうま:それでも!覚えてる間は傍にいたいんだ!

忘れられないほど思い出作って、全部の日々が心の奥では忘れるもんかって抗(あらが)ってたんだ!

そんな心に彷徨(さまよ)っても一緒に歩いた記憶が集まって、あの日水族館であきを見つけて…また、恋をしたんだ…


あき:そんなこと、できるわけがっ、きゃぁ!

(ゴムボートの上で立ち上がりバランスを崩し海に落ちるあき)


ゆうま:あき!やると思ったよ!

(海に飛び込む)


あき:ゆう…ま(溺れながら)


ゆうま:だから言ったのに、何度だって思い出すし、何度だって助け出すよ!





(あきを連れて海岸に戻ってくる)

ゆうま:っはぁっはぁ、おい、あき?


あき:…


ゆうま:くそっまだだ!まだだめだ!


ゆうま:呼吸をしないあきを見て頭が真っ白になる、ダメだ、まだこれから沢山やりたいこともあるんだ、戻ってこい!


ゆうまN:その場で急いであき人工呼吸をする





あきN:ここはどこだろう…月の光がさす水面(みなも)?

深い水の中から沢山の泡が水面に出ては弾(はじ)けて消えていく

まるでこれまでの記憶が泡沫となって消えていくように…そんな泡たちが次第に小さくなって、止まった…もう上がってくる泡がなくなり静かな水面となった。

無くなる記憶がもう無くなったのか、起きた時にまた忘れられていたら…ここから目を覚ますのが怖い


ゆうま:あき、怖がってばかりじゃ進めないんだ、ここまで俺を信じてくれただろ、今度は俺があきをそこから救い出すから


あき:ゆうま…


ゆうま:……


あき:あっ…


ゆうま:あ…あぁ、あき!


あき:ごほっごほっ


ゆうま:あき!よかった!ばかやろう!このまま目を覚まさなかったらって思うと…


(ゆうまにしがみつきながら)

あき:ゆうまぁ、ゆーうーまー


ゆうま:おっとぉ、ははっもう、大丈夫だから…沢山心配かけたな…


あき:うん…うんっ!ゆうま、おかえり


ゆうま:あぁ、ただいま…あき


ゆうまN:あきが目を覚ましたことに安堵していたら、いつのまにか雨は上がっていて雲の隙間から除く月が海を照らしていた…





あきN:結局今回はゆうまがどうして泡沫の呪いを打ち破れたのかは分からないままだった、写真みたいなものが残っていたからなのか、私が何度も諦めずにゆうまと接触していたからなのか…ゆうまは想いの強さが呪いを打ち破ったんだってかっこいいこと言っていたけど、今はこの幸せを感じていたい…



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(カメラのシャッター音)


ゆうま:よしオッケー!お疲れさん


あき:今回はどんな感じかな?見せて見せて


ゆうま:あぁ、今回はテーマを作って撮ってみたんだいい出来だと思うよ


あき:へぇ、どんなテーマ?


ゆうま:題材は人魚姫、題名は…




エンディング

































































































































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