第11話 自分を愛する

 私は「自分を愛する」という事を理解するのに長い年月を要した。なかなか理解する機会が無く、それは自分にうっとり酔いしれるナルシシストの性癖だろう、くらいにしか思っていなかった。しかし今は、自分を愛するということは、自身を受け入れ、認め、擁護することであると解釈している。そしてそれは生きる上で最も重要視される感覚だと実感している。自分を愛する事ができるかできないかで、幸福度や人生の進路が大幅に変わってしまうということも。これは幼少期の生育環境が大きく左右されるもので、愛情を十分に受けて育つと、自分を愛する気持ちも自然と備わってくると世間一般ではいわれている。

 私は若い頃酷い自己嫌悪に陥っており、自分を好きになりたくてがむしゃらに努力をしていたと振り返る。絵を描いてもまず欠点が目について、自身が一番の批判者になっていた。また他人から批判をされると、だから自分はダメなんだと思い込むふしもあった。「こうならなければ自分を愛せない」と決め込んでいたけど、今となっては自分を愛することに理由なんていらない、そのままの自分を受け止めて可愛がってあげれば良いんだと思うばかりである。

 自分は自分にとってかけがえのない存在であり、誰からもないがしろにされてはいけない。そうした自尊心もまた他の何よりも必要である。学問や教養を身につけたり容姿を磨いたりするのは、つまるところ自尊心を高めるための修練なのだ。ブランド物の服やアイテムがやたら高価なのは、身に着ける人の自尊心を高める「お守り」だからこその値段設定なのかもしれない。

 私は講師を10年余続けてきて、多くの若者と向き合ってきた。画力の差はあれど、皆それぞれ、個々の自我と未知の将来性を持った、素敵な若者たちばかりである。私自身も自分の若い頃の写真を改めて見ると、何らとがめられる必要のない普通の若者だった。なぜあんなに自分が嫌いだったんだろう、同時になぜあんなに他人からの否定的な視線に傷ついていたんだろう、とても勿体ない青春時代だったと後悔している。紆余曲折経て私は今、自分の事が好きである。勿論欠点は色々あるけど、丸ごと好きでいられてる。自分の描く絵も大好きである。

 悩み多き若者たちには、あなたはあなたのままで十分素晴らしい、伸び伸びとやりたいことをして、存分に自分を可愛がってほしいとエールを送りたい。


沖縄タイムス「唐獅子」2023年11月22日掲載

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