第9話 心を守る
若い年ごろは試練の連続である。少なくとも私はそうだった。自身への葛藤、実社会と自我との摩擦、立場が弱いゆえの抑圧。他人に理解し得ない悩みを抱えている場合もあるだろう。不登校や退学、言動が心もとない若者たちと接していると、「若いうちはいろいろあるんだろう」と見守りたい気持ちになってくる。
作品というものは作者の内面の発現でもある。だから作品を第三者から否定されると、作者は人格まで否定されたような精神的苦痛を受けることもある。作品を他人に見せなければ傷つかずに済むが、見せて得られる意義や見返りはとても大きいから悩ましいところだ。私は生徒には、ある程度気遣う態度で指導している。しかし実際の仕事となると、求められるクオリティのために忌憚のない修正指示を受けるのが当たり前となってくる。絵の仕事を始めた若者たちは、絶えず指摘を受け止め精進しなければならず、中には心身を病んでしまう者だって少なくない。そんな若者たちに伝えておきたい事がある。
まず、有益な指摘とただの中傷を見分けること。有益な指摘ならば素直に受け入れて自分の成長の糧とすれば良い。仕事上での指摘というものは、単に商品のクオリティを求めたいだけであって、特に本人の人格を否定するためのものではないので、気に病む必要はない。ただ中には意地悪な人もいるだろうから、そこは見極めた上で、信頼できる人に相談するなど、一人で抱え込んだりしないようお勧めしたい。
そして、くれぐれも自分を追い詰めてはいけないという点も重要である。追い詰められるような職場環境ならば、転職を選択するなど、居場所自体を見直す必要がある。心身に不調をきたすと回復に時間がかかってしまうから、くれぐれも無理をしないでほしい。仕事を辞めると他人からの不評を被るかもしれない。その時は自分自身の人生に一番長く付き添い、一番深く理解しているのは、他ならぬ自分である事をしっかり自覚してほしい。長い人生の途中に、ポッと現れただけの他人の評価を気に病む必要は全くないと、経験を積んだ今なら断言できる。実社会を生きる若者たちは、一番の理解者である自らの気持ちと意思を尊重して、自信を持って生きてほしい。これが自身の心を守るために一番大切なことだと伝えていきたい。
私は将来ある若者たちが、心身健やかに活躍できることを切に願ってやまない。
沖縄タイムス「唐獅子」2023年10月25日掲載
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