第7話 プロの目と腕

 私は美術系専門学校で、主にゲーム会社への就職向けの技術指導に携わっている。プロとして通用するかの判断基準は、私が今までにこなしてきた数多くの作画経験に基づいている。

 プロ作家にはいくつかタイプがあり、よく見かけるのが我が道を行く“個性派”タイプだ。拙さや癖までも持ち味とし、自分の画風以外描けない場合が多いので、将来成功するかは運や流行に左右されやすい。確実性が薄い分私はこの方向性を安易に後押しできない。

 そしてできれば確実性の高い、堅実に成功しやすい道を勧めたいと思っている。それは適切かつ鋭敏な感覚を身につけ、確かな技術力を磨き上げた“汎用型”ともいえるタイプである。このタイプなら勤め先の現場で柔軟に対応でき、着実に経験を詰んだ上で、いずれは独立したクリエイターになりやすいのだ。

 適切かつ鋭敏な感覚は、絵描きにとって必要不可欠なものである。私は宮古島の海が見える家で育った。当時は当たり前すぎる景色にあまりありがたみを感じなかったが、国内外を旅しては故郷の海の美しさを改めて思い知らされた。おのずと感性が磨かれていたのを自覚した。最高水準のものを見慣れていたら、それがほんの少しでも濁ったりするとすぐに見分けられるものだ。このわずかな違和感を察知できる眼力、これこそがプロの目なのだと今では確信している。特にお金をかけなくてもいいから、日頃から良いものに触れて、感性を磨く習慣を持つことをお勧めしたい。

 そして確かな技術力。顧客にサービスを提供して、対価を得るのがプロの仕事である。例えば一杯ごとに味や量がバラバラなラーメン屋はありえない。まぐれで美味しくできた、というのも論外である。高水準で、かつ安定したクオリティのサービスを、いつでも確実に提供できる技能。これこそがプロの腕の本領であり、修練とはこの工程を身につけるために他ならない。

 感覚を磨く面と、技術を鍛える面。これは絵という視覚分野に限らず、音楽家や料理人等、五感に関わる職業全てに当てはまるはずだ。今後何かの道を志す若者は、以上の2点を心がけることをお勧めしたい。

 なお、片方だけ磨くのは危険だという点も伝えておきたい。なぜなら眼力と創造力の差が大きいと、理想と現実のギャップに苦しむ羽目になるからだ。目と腕の両方をバランスよく鍛えるのが望ましい。


沖縄タイムス「唐獅子」2023年9月27日掲載

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る