第2話 活動の場を求めて

 私がプロのイラストレーターになりたいと一念発起して、上京したのが19年前。その頃は現在のように、作品を発表するネット環境がまだ定着していなかった。

 当時の美術系の専門誌にはよく、「プロになるためには出版社などに持ち込み営業をする」とアドバイスが書かれており、私はそれを強く信じ込んでいた。しかし、持ち込み営業をした経験は数える程度で、メールでの営業で事足りた。取引先との打ち合わせは、対面からネットミーティングに徐々に移行した。交通費や外出する手間が省けるので大変助かっている。現在はネットを活用して執筆活動する地方在住の作家も大勢おり、無理してまで上京する必要もなさそうだ。同時に、寒い冬に耐えながら関東で執筆してきた私は一体…という徒労感も湧いてくる。

 日本のイラストの画風は海外でも人気があり、私は中国や韓国、欧米等の留学生を指導する機会も多い。憧れの日本での就職を志す留学生は、日本語を習得した上で専門学校に入学してくる。本国で学位を取得した者も少なくない。便利になった時世でも、国を越えて活動の場所を選ぶ若者たちの情熱には、深く感心させられる。

 私は台湾の専門学校でイラストの顧問講師も務めている。現地で対面授業をした際、生徒たちは最初かしこまった目で私を見ていた。しかし「私の出身地は宮古島です」と通訳を介しながら自己紹介をした途端、一斉に「なんだ、ご近所さんか」と親しげな笑顔に変わった。確かに、台湾から見ると、宮古島の方が東京よりも距離も気候風土もずいぶん近い。南方系同士だから気質だって近そうだ。外国人ではなくてご近所さんとして見られたのはうれしかったし、国の垣根の低さを感じられた。

 奄美から与那国にわたる琉球方言が島ごとに違いを見せるのは、もともと海で交流が隔絶されていたからだ。気質も島ごとに違ってくる。宮古島を出て、島の人(私自身を含む)の精神を俯瞰的に見て、その上でどの場所でも働ける姿勢を作ることができた。私にとっての上京は無駄ではなかったと改めて思う。

 SNSなどの普及により、さまざまな地域の人との交流が盛んになった。そのおかげで、人全体の意識が平準化されてきたと感じる。若者たちは手段的にも意識的にも、ひと昔前よりは広い視野を持って働くことができるはずだ。自身に合った場所を見いだし、存分に活躍してほしい。


沖縄タイムス「唐獅子」 2023年7月19日掲載

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