島の若者たちへ

長崎

第1話 「私には私だけの価値がある」

 私の座右の銘は「珍」という漢字である。

 私自身、昔から個性的だとよく評され、めずらしい目で見られたりもしていた。そんな評価を、私は正直疎ましく思っていた。

 だが「珍」という漢字の成り立ちを調べてみると、部首は「おうへん」、つまり宝石を表す文字であり、しかも「非常に貴重な価値のある宝石」という意味なのを知った。意味を調べる前は、「めずらしいもの=ヘンなもの」だと思い込んでいたが、そうではなかったのだ。

 海辺に落ちている一見ただの石ころ。それを知見ある人が鑑定したら“竜涎香”と称される、クジラの身体から生じた大変高価な香料であった…海に囲まれた島ならば、そんな話題もごくたまに上がったりする。

 物事に対する理解を深めることで、ものの価値を正しく見いだせる。この漢字は私にそれを教えてくれたのだ。

 生きる時代や住む土地によって、人の価値観は変動する。社会において時には差別や偏見など、アイデンティティーを否定されたりもするだろう。そんな世知辛い社会を生き抜くには、「私には私だけの価値がある」という信念を持つことが大切だと私は考えている。誰にどう見られようとも、自分自身を唯一無二の価値ある存在だと認める。それは誰にも奪えない、当人だけが持てる普遍的な価値基準となれる。

 ただしそう思い込むだけでは、ただの思い上がりになってしまう。この信念を全うするためには、自身をよく知り、他者や物事をよく知る必要がある。そして宝石は原石のままでは輝けない。己を丹念に磨き上げる努力もまた大切だ。

 私は宮古島で育った。高校まで通い、県内の大学を卒業後、島に戻って就職した。しかし私の“個性的”な性分では、島ならではの気質に溶け込みにくかった。個性を消し島になじむ努力をするのと、個性を生かせる場を探し挑戦をするのは、どちらが良いだろうかと考えるようになった。後者を選び、私は島を飛び出した。

 それから20年近くたち、現在は関東で自身の個性と特技を生かして暮らしている。多くの縁に支えられ歩んできた今、「私には私だけの価値がある」という信念は、未来を切り開くための灯火だったと振り返る。

 だから私は、未来ある若者たちには「あなたにはあなただけの価値がある。自身の価値を信じ、丁寧に磨いて、伸び伸びと羽ばたいていってほしい」と伝えていきたい。


沖縄タイムス「唐獅子」 2023年7月5日掲載

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