4-4

「あ、この写真、私知らないんだけど」


 傾く日が雲に隠れた頃、僕は少女と隣り合ってベンチに座って、今日撮った写真を見返していた。


「いや、絵になってたからつい……」


「絵になってたって、まあいいけど。確かに、ウサギ可愛いし。全部許せる」


「現像して渡した後消すから、それで許して」


「ん? 別に消さなくていいよ。なんか寂しいじゃん。データでも、消えちゃうのは」


「分かった」


 少女は、ホットココアを一口飲む。


「ココアおいしい?」


「うん。自販機高かったけど、その価値ある」


「それはよかった」


「今日は、ありがとうね」


「いえいえ。僕こそありがとう」


「君と会ってなかったら、死んでたかもしれないって話は、耳が痛くなるほどしたよね」


「……うん」


「でも、きっとそれだけじゃなかった。君と出会ったから、私ずっと幸せになってる。死んで生まれ変わって、次の人生でしか得られないと思ってたことが、たくさん手に入ってる」


「それはよかった」


「いじめも、何か最近減ってきたし。多分、君と付き合ってるって噂が立ってるから。やっぱり上級生の盾は強いよね」


「最近相談が減ったのはそういうことか」


「別に私が流したわけじゃないよ。多分、最近帰りは一緒になることが多いから、他の人がそう思って広げたんだと思う。もしかして、嫌だった?」


「全然、そんなことないよ」


「よかった。私、まだ嫌われてないんだね」


「なんでそんなこと聞くの?」


「え、だって私、そんなに明るい性格じゃないし、私とかかわってて、多分君も少しは被害被ってるんじゃないの?」


「いや、少しはあるのかもしれないけど、そんなの気にならないぐらい、僕も今楽しいよ」


「気にならないぐらい楽しい、か。よかったー」


 少女は軽く伸びをする。


「あのさ、私たち、この一か月間で色々変わったよね。たくさん悩んだあの時も、死ぬのが怖くてくらくらしてたあの時も、全部今につながってたって考えたら、それはそれで大事だなって」


「でも、苦しいのは嫌じゃない?」


「それはそうだけど。苦しいのは嫌。でも、苦しんだからこそ、今、めっちゃ楽しいなって思う」


「僕は苦しいのは嫌だけどな」


「それでも嫌って言うなら、これからは楽しいことばっかり考えよう」


「でも将来が」


「将来なんて、ケセラセラだよ」


 少女は弱気な僕を上書きするように、陽気に話す。


「……ふふっ」


「うわ、今絶対、私がこんなことを言うようになって、って笑いしたでしょ」


「バレた?」


「もういいよ。君は案外からかい好きだって、分かってるし。そんな君が、とっても大切だから」


 少女はベンチを立ち上がり、僕の前に立つ。


「これからも、よろしくね」


 こちらに差し出された手を、つかむ。

 もう飛び降りないと、互いに誓い合ったかのように、その力は優しさに包まれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飛び降り希望な君と 時津彼方 @g2-kurupan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ