4-3

「お待たせー! 待ったよね」


 動物園の入り口で待っていると、少女が歩いてきた。


「ううん。今来たとこ」


「チケット、買ってくる」


「あ、それならこれ」


 僕は一枚チケットを手渡しする。


「え、買っててくれたの? ありがとう! あとで返すね」


 少女はチケットに描かれたもモルモットに目が釘付けになっている。


「じゃあ入ろうか」


「うん! 入る!」


 ゲートをくぐると、少女は一目散にふれあいスペースに歩き出した。


「ちょっと、速いって」


 僕もなんとか追いつこうとするが、足の長さの違いか体力の違いか、なかなか背中が近づかない。

 結局追いついたのは、ふれあいスペースの看板の前だった。


「追加料金いるって……あ、これ入園料と一緒だ」


「入園料と一緒なわけないでしょ。これは餌やりつきの一か月定期券で、今日だけならこっち」


「あ、そ、そうだよね。見間違えてるよね。わかってたよ。うん」


 少女は二人分購入し、チケット代わりの紙製のリストバンドを受け取る。


「はい、これ」


「ありがとう……どうしたの?」


「いや、うずうずが止まらなくて」


「何その日本語。まあいいや。行こうか」


「うん!」


 サービスの固形の餌を持っているためか、入り口を通ると、ウサギがこちらに寄ってきた。


「うわっ、たくさん来た」


「餌の匂いにつられたのかな」


「餌……これか」


 少女が器に餌を入れると、ウサギはそこに群がってしまった。


「あ、ウサギ……離れちゃった」


「でも、これはこれで可愛くない?」


「ほんとだ。モフモフがたくさん集まってて、気持ちよさそう…………あれ?」


 一匹の茶色の毛のウサギがこちらに寄ってきた。


「このウサギ、くるみに似てる」


「マロンにも似てる。抱いていいのかな」


「いいんじゃない? ふれあいスペースだし」


「やった! よいしょ」


 その場にしゃがんだ少女の腕に、ウサギが飛び込む。


「うわぁ……幸せ…………」


「ウサギ、懐いてるね」


「人懐っこい子なのかな。なんか砂で汚れるのが気にならないくらい可愛い」


「そうだね。はい、こっち」


 少女に呼びかけ、手元のデジカメで写真を撮る。


「あれ、カメラ持ってたの?」


「おじいちゃんに借りてきた。写ってる写真あったら、現像して渡すね」


「ありがとう……あっ」


 少女の手元から離れたウサギは、今度は僕の足元にやってきた。


「抱っこして、だって」


「そっか。よいしょ」


 ふわふわな毛の奥で、かすかに震えが伝わってくる。呼吸は僕達よりずっと早く、それでも僕たちと同じよう生きているって伝わってくる。


「それ貸して……はい」


 少女に写真を撮ってもらった。

 後で見返したくない。絶対だらしない顔してる。

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