4-2

「お待たせ……」


 本を読んで待っていたら、昇降口から息を切らした少女がやってきた。


「急がなくてもよかったのに」


「ううん。別に急いでたわけじゃない。会いたかったから、すぐに来ただけ」


「それ急いでるって言うんじゃん」


「なっ、確かに、それは急いでるって言うね……」


「とりあえず息を整えて。はい、深呼吸」


「すーっ、はー…………おっけ、落ち着いた」


「じゃあ帰ろうか」


「うん。帰ろう」


 僕たちは並んで歩き出した。


「……どうしたの?」


「え? 何が?」


「いや、暗い顔してるなって」


「……そう見えた?」


「まあ、前ほどは深刻じゃないけど」


 見る限り、喉元に何か詰まったかのような顔で苦しそうだ。


「前さ、全部嫌になったから死のうとしたって話、したじゃん」


「……うん」


「私、いじめれてるんだよね。今考えたら、そんな重いものじゃないんだけど」


「例えば?」


「雑務押し付けられたり、掃除も一人で全部やったり。今日は、体育でわざとぶつかられた」


「それは、ちゃんといじめだね。怪我してない?」


「ううん。無駄に体だけは丈夫だから。もしかしたら、あのまま飛び降りてても死ねなかったかもね」


「……」


 あの日以来初めて会うが、まだ少女は変わらない。やはり時間だけが傷を癒すはずもなく、それは僕も例外ではなかった。

 信号で立ち止まる。しかし、少女の目は信号よりもっと遠くに向けられているようだった。


「君は、死んじゃうかもね」


「……そうだね。僕は冷静だったから、ちゃんと人間が死ぬ高さもネットで調べたし、どうやって落ちたらいいかも調べてた」


「自殺の方法なんて……もう、要らない知識だね」


「そうだよ。もういらない」


 僕は少女に向き合う。少し俯きだった少女は顔を上げ、こちらと目が合う。


「初めは、憧れだけだった。目の前で、自分と同じ死のうとしてる人間がいる。でもそれは怒りに変わった。飛び降りる人に何もしてないと、自分がまるで、人殺しになってるかのようで。自分が殺すのは、自分だけでいいのに」


「……そうだったんだ。もし、私たちの順番が逆だったら、もう二人とも生きてなかったかもね」


「それも含めて、運命、なのかもね」


「うん。運命……」


 少女は言葉のぬくもりを確かめるように僕の手を自分の手で包み、繰り返す。

 信号機が青になり、周りの時が動き出したのに気づくのは、もう少し後だった。

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