4-1

「おはよう。奇遇だね」


 あの日から何日も経過した通学路で、少女とばったり会った。


「おはよう」


「よく眠れたって顔してる」


「そうかな?」


「うん。目の下のクマが、前よりましになってる……ふわぁ」


 睡眠の話をしていたからか、少女は欠伸を漏らした。


「寝不足?」


「え? まあ、ちょっとね。久しぶりに親の顔が見たくて、ちょっと夜更かししちゃった」


「どうだった?」


「もともと互いに無関心だったからさ、まともに話すのなんて、三者面談くらい。いつもそのタイミングだけ休みとって、終わったら会社に戻っちゃう。フレックスタイム制、っていうらしい」


「二人きりは、あんまりなかったんだ」


「うん。大体他の人介してる。私、嫌われてはないけどそんなに好かれてるわけでもないんだ。だから、それぐらいの関係性がちょうどいい」


「昨日はどうだったの?」


「昨日はどうって、うーん……結局『おやすみ』だけ言って部屋に行っちゃったからなぁ」


「もったいない」


「仕方ないでしょ? 血はつながってるけど、関係は赤の他人レベルなんだから。私達だって、死のうとしたっていう共通点が無かったらこんなに話してないんだからね」


「それもそうか」


「第一、君が話しかけてきたんだからね……って、何よその顔」


「いや、たくさんしゃべるなって」


 少女は不意を突かれたようで、慌てて饒舌だった口元を手で隠した。


「しゃべり過ぎ、って、ごめん」


「ううん。別に悪いことじゃないじゃん。ちょっと意外だっただけ」


「意外? もっと寡黙なキャラだと思ったの?」


「第一印象があれだったからね」


「まあ、初めて会ったあの時は、そんなにしゃべりたくなかったけどさ」


「でも、ウサギの話してた時は楽しそうだったよ」


「なっ、それはっ……そうだけどぉ」


「あはは……じゃあ、僕はこっちだから」


「あ、そうだね。君、背は低いのに私より年上だったもんね。私が一年生で、君が二年生」


「背は低いのに、は余計だよ」


「えー、実際低いじゃん。事実言ってるだけだし」


「もういいや。帰り、どうする?」


「あ、確かに、せっかく朝会えたし、帰りも一緒に」


「じゃあ授業終わったらここで」


「……うん」


 どこかおびえた様子の少女だったが、すぐに自分の下駄箱に小走りで向かっていった。


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