3-3

「私は、君を止めに来た」


 屋上のフェンスに背を預け、僕は彼女と相対する。


「なんか、そんな予感がしてたから待ってたよ」


「君は、死んじゃいけない」


「なんで?」


「私が、辛いから」


「なんで君が辛いの?」


「…………」


 どれだけ待っても無駄か。結局偽善で世界は回らないんだ。


「じゃあね」


 フェンスに腕をかけようとした。その時。


「私! 君に救われたんだよ!」


 叫ぶ声が聞こえ、振り向く。


「私、何回も死のうとした! でも、怖かった……」


「……」


「あの日だって、君と一緒じゃなかったら飛んでた。でも、今考えたら、怖くて、仕方ない」


「やっぱり、邪魔したんだね。それは謝るよ。でも、君も僕を邪魔したんだよ。ここいいスポットだと思ったのに」


「でもね、私は邪魔されたなんて思ってない。君が私を見つけてくれた。ずっと一人だった私を、こんなところで見つけてくれたんだよ」


「……よく分かんない」


「分かんない、よね。でもね、これだけははっきりしてる。君じゃなきゃ、私は見つからなかった。私と同じ、人生が嫌になって命を断ち切りたい気持ちがあったから、ここから飛び降りたいって思ったから、そう願ったから、私を見つけてくれたんだ」


「……」


「私、君と話して、私なんかが辛いなんて言っちゃいけないってわかったよ。私より辛い思いをしてる人なんて、山ほどいる。私なんかが死んだら、その人たちに面目ないって」


「それは違う。誰も自分の辛さを、人と比較しちゃいけない!」


 思わず、言葉を発していた。思いのほかエネルギーが強くなり、少女も驚いた様子だ。


「皆辛い。でも、それが比べられちゃいけない。誰にも共感できない痛み、でも、誰かと一緒にいることで緩和される痛み。誰かに話したら、それだけで嫌な気持ちが発散される。それが、辛さ」


「だったら、私も、君を救ってみせる」


「どうやって?」


「こうやって!」


「わっ」


 少女は僕のもとまで駆け寄り、僕の頭を抱いた。


「こんなに苦労して、私より背が小さくて、それでも頑張っていて。そんな死にたい君を、支えたいです」


 自然と、涙があふれる。


「いくらでも、泣いていいから。私も、君の頭、借りるね」


 頭の上から嗚咽が聞こえる。

 僕は自然と気持ちが安らぎ、体の力が抜けていった。

 なんで君は僕を探したんだろう。

 なんで君が僕を止めるのだろう。


 答えは、もう全部わかっていた。

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