3-2
「……こんにちは」
昼間、池の水が日に照らされてきらめくのをフェンスから見ていた時、声をかけられた。
「……学校は?」
「今日はね、気分じゃなかったんだ。それは君もでしょ?」
「まあね。っていうか、そもそもうちの学校、今日創立記念日だから」
「創立記念日……あ、そういえば、うちもそうだった」
「忘れてたの?」
「うん、忘れてた。でも、まさか同じ学校だったんだね」
「ただの偶然じゃないの?」
「だとしても、いい偶然でしょ?」
少女は僕に倣ってフェンスに腕をかける。
「何してるの?」
「生まれ変わったら、カモになって自由に泳ぐのもいいかなって」
「人間は嫌?」
「どうだろう。もうちょっと幸せで、楽な環境もあったのかもね」
「……」
「何、禁忌に触れたみたいな顔して」
「べっ、別に気まずそうになんてしてないし!」
「まあいいけど。あ、ちなみにここでは死にはしないよ。カモがかわいそうだもんね」
「……あのさ、君って、死にたいんだよね」
「うん」
「なんで?」
「……前も行ったけど、言ったら引き留めないでいてくれるの?」
「それはっ」
少女は食い気味に反応する。
「……分かんない」
「分かんない、か。まあいいや。別に暇つぶしにはなるし」
僕は踵を返してベンチまで歩き、そこに座った。
「座りなよ、ベンチ」
「……うん」
少女がベンチに座ったのを見てから、僕は語り始めた。
「うち、片親なんだ。母は早くに家を出て行って、父親と暮らしてる。でも、事故に遭って、介護が必要な状況になって。家事も、勉強も、介護も、全部してる。周りの子に何も言われないようにするために、外ではいい子ぶってる」
「あれ、前おじいちゃんいたよね?」
「うち、二世帯だから。でも、おじいちゃんしかいないし、そっちの介護も最近はしてる」
「嫌に、なったの?」
「嫌になったのかな。どうなんだろうね。実際自分でもよくわかってないんだ」
「よくわからないなら、君は生きるべきだ」
「まーた無責任。前言われたこと、全部自分にブーメランだよ?」
「……」
「まあ、いいや。じゃあね」
僕は立ち上がり、ベンチの裏に歩いていく。後ろから気配が迫る予感はない。
でも、なんでじゃあねって言ったんだろう。
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