3-1

「……おはよう」


 スーパーの乾麺売り場で、少女に会った。


「おはよう」


「その……えっと…………」


「結局降りなかったんだね」


「うん……ちょっとあの日は、ね、気分じゃなかった」


「どうしたの? いつにもまして塩らしくして」


「君は、なんで死にたいって思ったの?」


「それを教えたら、死ぬのを邪魔しないでいてくれる?」


「……」


 少女は沈黙を貫いている。さっきからずっと、苦しそうだ。


「どうしたの?」


「……話したら、ちょっとは楽になるよ」


「楽になって、どうするの?」


「どうするって、それは……」


 少女は突然、僕のかごの中に入っていたインスタント麺を、売り場の山に戻し始めた。


「何してんの? 僕の今日の昼ごはんだったのに」


「こんな栄養のないもの食べてたら、君、本当に死んじゃう」


「死んだらいいじゃん。死にたいって言ってんじゃん」


「でも…………苦しいのは、もっと嫌じゃん」


 絞り出すような声で呟き、少女はうつむく。


「それは、そうだね」


「……せめて、総菜弁当にして。もし、君がそんなに忙しいなら、三分より短いし」


「……いいよ。限られた命、誰かの言いなりになってみるのもいいかな」


「じゃあ、こっちに行こう」


 少女に連れられて、総菜コーナーにやってきた。さっきまでの場所とは違って、仕事終わりのサラリーマンやパート終わりの主婦が多い。


「何がいい?」


「別になんでもいいよ」


「そんなのじゃなくて、好きなの、何なの?」


「うーん……これとか?」


 手元にあった、二割引きのチャーハンを手に取る。


「チャーハン、か。おいしいよね。手軽に作れるし」


「まあ、今日はこれでいいかな」


「待って、これも」


 少女の手には、小鉢サイズの野菜のおひたしのパックが握られていた。


「ほうれん草のおひたし……まあ鉄分だし、いいか」


 僕はそれを受け取り、かごに入れる。


「じゃあこっち行こう」


「……あ、そういえばここ、回転速かったんだっけ」


「そうだよ。前はあっちにいたよね」


 左方の、棚の奥の方まで続いているであろう人の列を見る。


「これじゃ、あんまりお話できないね」


「別にいい」


「……」


 僕が冷たく突き放すと、少女は寂しそうにレジに進んだ。

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