三 王の決定
まだ若き王、朝比奈尊は、その報告に驚愕を露わにし、動揺に腰を上げた。
しかし瞬間、鋭い頭痛を感じて、椅子に座り込む。
尊にとって、預言の魔女への扱いは、まさに青天の霹靂だったのだ。
なんてことだ!
尊は伝令官が目の前にいるのも忘れ、奥歯を噛み締める。
預言の魔女が国を呪った?
いや、それより、彼女は未来の救国の英雄なのに、なんてことを・・・。
世に流布する魔女のイメージと、王族に伝わる『魔女』の意味は違う。
市井に広がる預言の魔女のイメージは、時と共に恐怖に塗り替えられていってしまった。
預言は死に際のものだったので、預言者の真意はわからない。
しかし、初めに伝えられた意味は、今も王家に伝わる『救国の英雄になるもの』だったはずだ。
今や見る影もなく、『災厄を連れてくる未知の力を持つもの』と捉えられてしまっているが。
尊は痛む頭を右手で押さえて、怒りに左拳を震わせる。
あまりのことに言葉もなかった。
まさかずっとそんなことが行われていたとは。知らなかった。
一体誰の指示で・・・?
先王が毒殺され、王位を継いで四年。
父の頃も含めて、十年も、救国の英雄になるかもしれない少女が虐げられていたのに、気づけなかった自分が情けない。
民の持つ恐怖心を未知の力に対するものとして、しかたないとしてきたのが悪かったのか。
それとも、先王の頃より仕えてくれている担当官を信じ、一任していたのが悪かったのか。
いや、もしかすると———。
どうにも違和感がある。
私も先王も指示していないことが勝手に行われる。誰かの手引き?
担当官か。伝令官か。何者かが私の意に沿わないことをしているとしか思えないな。
思えば、先王の毒殺の件も、未解決のままだ。
どうにもこの国に不穏な影があるな。探らせるか。
・・・とにかく、こうなってしまった以上、後悔しても遅いだろう。問題点を探すより、まずは解決策を講ずるべきだろう。
預言の魔女には国を好きになってもらわなければならない。
彼女が自ら決意してくれればいいのだが。
そうでなくとも、弱みの一つでも作ってもらわなければ・・・。
人と関わらせるしかない。民に情を持ってもらう。
それが将来国を救うことにつながるのなら、民を利用するのは悲しいことだが、王として割り切らなければ。
不思議な力を使う彼女を野放しにもできないな。特に今は国を恨んでいるようだし。
どこで交流させるのが最適だろうか。
人避けをして、執務室に籠り、思案に耽る。
王として返答を求められている。
一刻も早く解決しなければならない問題だ。
預言の魔女への認識を今更変えるのは無理だろう。
尊は額に組んだ手を当て、執務机に肘をつく。
ずいぶん長いこと、その姿勢で考え込んでいたらしい。
肘が鈍い痛みを訴え、ピリピリと痺れる。
だが、そうしただけの成果は出た。
これで正しいのか合っているのかはわからない。
いずれ結果は出るだろうが、それまでは不安を抱えることになるだろう。
あとは・・・具体案を練って、命令を下さなければ。
さて、魔女殿はどう出るだろうか?
それから、担当官吏や、研究所への処罰も考えなければならないだろう。
預言の魔女への扱いは私の監督ミスでもあるが、王としてそれを認めるわけにはいかないし、問題が発覚した以上、何もしないわけにもいかない。
彼らは指示に従っていただけなのに、心苦しいが・・・。
尊は万年筆のペン軸で、コンコンと机を叩き、命令する事柄を脳内でまとめていく。
しばらくそうしていた尊は、おもむろに命令書を取り出し、指令を認め始めた。
そのペン先はもはや迷いなく、滑らかに文字を綴っていく。
尊は王として決めた。
それはある意味で犠牲を払った非道な方策であったけれど。
預言の魔女を外に出す。
正体を隠した状態で学校に通わせる。
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