2024年
ショートストーリー部門
作者・冷田かるぼ 大賞:『蝶の味』
蝶の味
作者 冷田かるぼ
https://kakuyomu.jp/works/16816927863202008509
十歳の誕生日の儀式で蝶を食べる山野美羽はまずさに倒れ吐き、まともには生きていけなくなるホラー。
前回に応募され感想を書いていたので加筆修正した。
数字は漢数字云々は気にしない。
現代ドラマ。
ホラー。
ミステリアスで不気味。
短い中で怪しげな雰囲気を感じる。
手慣れた感じがする。
独特なテーマを扱い、儀式の残酷さと子供の純真さが対比されていて興味深い。主人公の心の動きがリアルに描かれている点が特に良い。
一種のホラー作品である。
三人称神視点と十歳の山野美羽視点で書かれた文体。彼女の自分語りで実況中継をしている体験談。蝶に関する描写と、食べたあと苦しむ主人公の様子はよく書けている。
女性神話の中心軌道に似た書き方をしている。
近所のお姉さんは美味しかったといっていたが、いとこのお兄ちゃんはまずかったといっていて、まずかったら人生も酷いことになると不安に思いながら、十歳の誕生日に帳を食べる儀式に出席する主人公。
同じく誕生日を迎えるクラスメイトや祖父母も来て、家族に囲まれながら儀式を受ける。
町長の息子「蝶に魅入られた青年」と呼ばれる儀式の補佐をする青年が帳を選び、調理し、クラスメイトと主人公に料理を運ぶ。
主人公は、美味しくなさそうな見た目の蝶を食べるが、耐えられなくなり椅子から落ち、吐き出してしまう。
主人公の耳元に儀式の補佐をしていた青年が「大丈夫だよ、キミは奇麗な蝶になれるさ」と囁かれて意識を失う。
四つの構造からなっている。
序盤 美羽が十歳になり、蝶を食べる儀式の準備をしている。
中盤 儀式の式場に到着し、他のクラスメイトとのやりとりを描写。蝶の料理が運ばれる。
クライマックス 美羽が蝶を食べ苦味と恐怖から、体調を崩す。
結末 意識を失う美羽の葛藤、青年の言葉。
恐いミステリーがホラーであり、ラストは主人公が生きるか死ぬかが用意されている。本作は後者だ。
料理された蝶の様子、食感の描写が主で、それ以外の描写は少ない。このバランスの良さが、蝶を際立たせている。
なぜ十歳で蝶を食べるのだろう。
近所のお姉さんやいとこも食べたとある。まずかったといとこは答えているが、どちらも生還しているということだ。
親は蝶を食べたのだろうか。
この風習はいつからあるのか。
誕生日をおなじように迎えたクラスメイトには「ハンバーグに乗った、蝶の奇麗な、それでいて派手すぎない色」の豪華な食事に対し、なぜ主人公には「地味で貧相。どう見たって、美味しくなさそうな見た目」のおひたしのような料理だったのか。
倒れたあと、母親の「この子はどうなってしまうんですか⁉」の問いに青年は「大丈夫です、蝶の加護を受ければ……」と答えている。
ということは、クラスメイトは蝶の加護を受けていたのかもしれない。
たとえば、クラスメイトはこの町(あるいは村)の生まれで、親もそのまた親も地元出身者。対して主人公の家族は他所から移り住んできたのかもしれない。
あるいは、これまでにいっぱい捕まえてきたのかも。
そのへんの理由はわからない。
長い文はこまめに改行。句読点を用いた一文は長くない。
シンプルで明快だが、緊張感が伝わる描写が多い。特に美羽の心情が丁寧に描かれている。伝統的な儀式とその残酷さがテーマ。食べることの恐怖が強調され、幻想的な要素が含まれているのが特徴。
美羽の不安や恐怖が丁寧に描かれており、感情移入しやすい。
五感の描写物語の緊張感や美羽の感情を効果的に引き出している。
視覚は蝶の料理。美羽が運ばれてきた料理を見たとき、「地味で貧相」という視覚的な刺激から期待と現実のギャップを示し、また、クラスメイトの料理は「豪華な食事」と対比され、見た目の美しさが強調されている。
聴覚は儀式の声。「儀式を始める」と告げる男性の声が聞こえた瞬間、場が静まり返り、重い空気が広がる描写から声の変化や周囲の静寂が緊張感を生み出している。
嗅覚は料理の匂い。具体的な匂いの描写は少ないものの、蝶を食べる場面では、周囲の雰囲気や気持ち悪さを想起させるような暗示的な表現が使われている。
触覚は蝶の感触。美羽が蝶を箸でつかんだとき、「ぐっちょりとした感覚」とあり、彼女の不快感を具体的に伝え、食べることへの抵抗感を強調している。
味覚は蝶を食べたときの味。美羽が蝶を口にした瞬間、「苦味が広がり、嫌悪感と吐き気で胸がいっぱいになっていく」描写がある。非常に生々しく、彼女の恐怖や嫌悪感が直接的に伝わってくる
主人公の弱みとして、美羽は儀式に対する恐怖心や不安を抱えている。対して周囲の期待や圧力に屈してしまう弱さがある。
日本では古来より、蝶は幸運を運んでくれる縁起のよい生き物として、迷信化されてきた。
優れていることを意味する「長」、整っていること意味する「丁」と発音が同じことが理由の一つとされる。
蛹から羽化する蝶の成長過程は「変化」や「飛躍」を意味し、昔の人々には不思議な能力を持った生き物に映ったと言われている。
食べる風習は、長寿や発展、成長祈願を願ってかもしれない。
町の風習や儀式の歴史について、もう少し詳しい背景があると、読者が世界観をより深く理解できるだろう。
ではなぜ、主人公は食べることができなかったのか。
あえて理由にするなら、「だってわたしは、今まで普通だったのに」という点だ。普通だったから、食べられないのだ。
普通、蝶なんて食べない。
この固定観念の考え方が、受け付けなかったのかもしれない。
主人公の彼女は、変化や成長を望んでいなかったのだ。
いつまでも子供でいたい、みたいな。
だとすると、クラスメイトの子や他の人達は変化や成長を望む「普通」となる。
あるいは、食べられる彼女彼らは、カマキリなどの捕食者なのかもしれない。
「大丈夫だよ、キミは奇麗な蝶になれるさ」
とうことは、主人公はこのあと蝶になってしまうのだろうか。
ひょっとすると、そうやって食べることができなかった子どもたちが蝶になり、儀式で料理されるのかもしれない。
意識を失ったあとの一文「きっともうまともに生きてはいけないのだろう」から想像できる。
蝶の見た目の綺麗さと不気味さのアンバランスさから、怖さが伝わってくる。
ちなみに蝶は食べられる。
毒を持つ蝶や天然記念物や絶滅危惧種などの保護指定されていなければ、どんな蝶でも人が食べても大丈夫だが、美味しいかどうかはその人次第。
メキシコやアフリカ、東南アジアなどでは実際に蝶を食用としている地域がある。
メキシコでは、セセリチョウの一種の幼虫の素揚げが郷土食。
ラオスでは、アリノスシジミの幼虫や蛹を食べる地域がある。
また、蛾は蝶以上に食用とされることが多く、日本でもカイコの蛹やタケツトガの幼虫なども食べられる。だが、蛾には蝶以上に毒をもっている種類が多く、アフリカでは死ぬほどの毒を持つ蛾がいて、ブッシュマンはその毒を使って狩りをするという。
アゲハの幼虫はみかんの皮や葉っぱを食べているような香りや味がするという。
成虫より幼虫や蛹の方が食べがいがあり、成虫は鱗粉が粉っぽい。
ツマグロヒョウモンやモンキチョウは、マクドナルドのポテトやプロ野球チップス。アゲハ蝶はツマグロヒョウモンチョウより味が濃く、セミの味に似ているらしい。ただし、素揚げの場合。
しかし、物語では、そのような魅力が感じられず、むしろ恐怖と不安の印象が強い。美羽が体験した味は読者の想像に委ねられている。
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