エピローグ

* * *


 あれから、何日かが経った。

 アイツと約束したように、普段の日常を、少しずつ、取り戻していく毎日だった。

 春陽のいない悲しみを、考えないようにして、日々を全力で過ごした。


 けれど、


 朝の登校、クラスの席、昼休みの隣に、帰りの道。ふとした瞬間に、春陽の喪失が思い出される。その度に、悲しみが溢れそうになる。もう一度、会いたいと思ってしまう。

 それはもう、胸が痛いほど。辛くて、苦しくて。だけど、それでも生き続けた。

 死は救いではなく、逃げていることに他ならないのだ。俺は、その苦しさと、一生向き合い続けなくてはならないのだ。


「…ああ」


 空の青、草の緑。人々の喧騒と、涼やかな香り。肌撫でる風は心地良く、輝く太陽に、思わず目を細める。

 泣きたくなるほど美しいその世界は、紛れもなく、春陽がくれたもので。しかし、そこにはやはり、どうしようもなく、春陽はいないのだ。


 モノクロームのようだった。全てが完璧であるがゆえに、一つの喪失が、致命的に痛ましい。アイツさえいれば、春陽さえ生きていれば、この毎日は、思い描く幸福そのものだった。

 でも、それでも生き続けなければならない。

 今の苦しみは、無意味などではないと。そう言ってくれた人がいた。どれだけ今が苦しくても、いつか必ず、幸福な未来がくると。そう言ってくれた人がいたのだ。


 だから俺は、アイツのいない毎日を、悲しみながら、苦しみながら、嘆きながら。これからも生き続ける。そう決めたのだった。


「……今日も、良い天気だ」


 空を見上げる。

 輝く太陽は、その光を、全身に降り注がせる。暖かさを浴びながら、俺は、ふっと笑顔を浮かべた。

 俺は、あの輝く毎日を、春陽と過ごした日々を、これからも思い出すだろう。悲しんで、楽しくて、嘆き、喜び、繰り返す。そして、それらと共に生きていく。


 いずれ幸福を迎える、その物語を。

 

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【命題】それは生きるに値する @Ainsworth1450

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