二十六枚目『油断大敵』
絹を裂くような絶叫と共に誕生した
「キュルルルル……」
産まれたてで新しい世界に困惑してるのか、
「
僕が言うつもりだった台詞を奪って呟く赤髭の侵入者の声が聞こえ、僕は出来るだけ
「あ、貴方が連れてきた
「出来てたらこんな焦ってねぇよ! もうアイツは俺の言う事を聞かねぇ……そもそも俺はこういう
「堂々と情けないことを……!!」
否、落ち着け、情けないことを言ってるのは自分だ。責任だなんだと面倒を押し付けていては何も解決しない。
そもそも、登場のインパクトこそあれ、戦況はそこまで不味くない。
人蟲種の強みは三つ。
一つ、通常の害蟲以上の身体能力。
二つ、人間並みの知性の保有。
三つ、蟲狩と同じ人知を超えた能力の行使。
しかし産まれたてである事から、
ともすれば、能力をいきなり行使出来る可能性は低い。仮に使えたとして、
純粋な身体能力による格闘戦──それなら、二対一と数の利があるこちらに勝機がある。
「──赤髭さん、それ……弾はまだありますか?」
「あ? ……ああ、あるぜ」
「僕が隙を作ります。それと同時にありったけを」
「……まっ、そうなるわな」
共闘は成立した。あとは挑むだけだ。
「『
身体強化を狙って僕が開花を宣言すると同時、
その姿は逃げ切れる十分な距離まで動く様子を見せない、草食動物のそれによく似ていたが、害蟲のそれが逃げるためではなく、寧ろその逆であるというよは明白だった。
「やだなぁ、そんなに見詰めないでくださいよ。僕は紳士ですから、裸身の少女からそんな風に熱烈に見詰められたら、緊張しちゃうじゃあ──」
言語を解しているとは思えないが、注意を惹く為に軽口を叩き、蛾の人蟲の動きを今か今かと待ち望んでいると、僕が言い切るのを待たずに、
──今だッ!!
僕は心の中でそう叫び、こんな事もあろうかと床に掛けておいた
赤髭もそれが僕のお膳立てであるの察し、持っていた二丁拳銃を構え、姿勢を崩した
「キャアッ! アァッ……!!」
「よし! やっ──……」
「まだです」
僕は赤髭が思いっきりベタなフラグを言おうとするのを言葉で遮ると、カウンター下から先程使う筈だったアレ──
能力を使えないと言ったが、アレは嘘だ。丸っきり嘘という訳では無いが、より正確に言うなら、使えなくもないという表現が適切だろう。
僕の能力は蝋細工を咲かせる種を生み出す事であり、変形に必要な花粉も、種を生成する時点で込められる。
だからもしもの事があった時のため、こうして花粉の無い状況下であっても、武器の調達をすることが出来るのだった。
「『
僕が叫んだ事で、種の中に圧縮された蝋がコの字型の針となって弾け、
「キュウウゥゥゥゥッ!! キュッ、キュアァァアアアアッ!!」
「よっしゃ! これで──」
「ダメです」
動けなくなった
「ああ!? なんでだよ! まさかガキの姿だからって
「んなわけないでしょう。子供の姿をした
「お、おお……そうか…………なんていうか、アレだな。この兄にしてあの妹達アリっていうか……
「失礼ですね……妹達と同類にしないでくださいよ」
「お前の妹、空賊と同類にされるより恥なの? ……まっ、これで一件落着ってことで──」
言い切るより早く、赤髭は拳銃を逆さに握ると、僕の額を狙って台尻を振り抜く。対して、どうせそんな事だろうと思っていた僕は、開脚によってそれを避けると、こんな事もあろうかと種籾袋から抜き取っておいた種を、赤髭に向かって親指で弾く。
「『
弾かれた種は空中で手錠の形に変化し、赤髭の右手首に繋がると、そのまま壁に接着し、あっと言う間に赤髭は身動きが取れなくなる。
「チィッ!? マジかよォ……!!」
「はーい、暴れないで、観念してくださいねぇ〜。……そうそう、高値で思い出したんですけど、貴方、懸賞首ですよねぇ? 名前は確か、ラウール・ペイナド。予知能力を持っているせいで、捕縛が困難だとかなんとか」
そんな能力を持っていたら、僕の不運な事故も少しはマシになるだろうに。
「そこまで知ってんのかよチキショウ……そんな、身の危険が迫ったら泣いて命乞いするインテリエリートの坊ちゃんみたいな見た目でちゃんと強いしよぉ……」
「やけに具体的に失礼なイメージ持たないでくださいよ。誰のファッションが嚙ませ犬ですか」
しかし──被害と言えば、店の天井の風通しが良くなったくらいで、
正直言って、この時の僕は、一石で二鳥を当てた気分になって、油断しきっていた。
幸運なんて言葉が、自分にとってどれ程手の届かない、価値のあるものか、僕は一瞬、忘れてしまったのだ。
「キャアッ! キャアッ! ──キャアァァアアアアアアアアッ!!!!」
僕が愉悦に浸っていると、拘束から抜け出そうと
「くっ!? 今更何を──……ッ!?」
どうせ何も出来まいと油断したまま振り返った僕は、蛾の人蟲がラウールを脱出させる時にそうしたように、複眼を赤色に光らせているのを目撃する。
何故、花粉も無いのに──
そんな疑問が嫌な汗と一緒に頭の中で噴出するが、そんな疑問を処理する暇も与えず、蛾の人蟲は僕に向かって、赤色の
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