二十四枚目『不幸中の……?』
「──どうせ、これもわかんない例えなんだろうけどさぁ……」
「なんですか?」
「今の私達って、悟空と天津飯が戦ってるのを見た時のヤムチャとクリリンみたいだなぁ〜……って」
チアカとキミエは、目の前で戦闘機のさながらの
「不ッ──味いなぁッ!!」
形勢逆転どころでは無い。
先程キミエにしてみせたよりも、更に激しい攻撃の雨あられによって、ラウールは追い立てられていた。
「『
「チィッ……!!」
──雨あられ?
否、それも生易しい表現だろう。
ラウール自身が持つ予知能力と、
そしてその状態も、キミエとの連戦によって、長くは保たない。
「こういう消費の激しいパワータイプは持久戦に持ってくのが鉄則なんだがなぁ……しかも……クソッ! お前商品倉庫の方から出てきやがったなァ!? 満腹って事かよッ!!」
「商品? どうせ盗品でしょ? けど、一応言っとくね……ゴチ」
勝ち筋ゼロ。
こうなると後は、船も船員も置き去りにし、しっぽを巻いて逃げるくらいしかラウールには選択肢が残っていなかったが、大気圏突破出来るレベルの推進力で飛行する鬼役から逃げ切れるかどうかなど、予知する必要もなく絶望的というのは明らかだった。
──だが、
「俺だって、逃げ足だけは大気圏突破レベルだぜッ!!」
「ッ!?」
絶妙に情けない決め台詞を叫びながら、
「目からビーム!? いいなぁ……じゃなくて! やばばッ!? ミチカヘルプアス〜ッ!!」
「あと、出来れば
「注文が多いッ……!!」
文句を言いつつ、ミチカは落下する
「おぉ〜ッ! ナイスアイアンマンッ!!」
「重ッ……!! 明日絶対肩バキバキになる……!!」
「飛空挺持ち上げて肩凝りで済むかよ普通……どんだけゴリラなんだよ……まっ、俺が十分離れるまでそうしてるんだな。もし運が良ければ飛空挺の一隻や二隻通るかもよ? そんじゃあ〜……チャオ!」
ラウールは手を振ってそう言い残すと、
「あぁ〜! 逃げるな卑怯者!! 逃げるなァ!! ……あっ、ちょっ、本当に逃げられちゃう!?」
「ん、そんなこと……させないッ!!」
ミチカは強くそう応えると、両手を船底に着けたまま、樹木の腕から木の枝を
「『
そしてミチカが唱えるのを合図に、急成長した梅の枝達は一斉に底が発火し、逃げ去っていくラウール目掛け、ミサイルの如く発射される。
「……ん? なんだこのお──っとっとぉ!? そういう事も出来ちゃうのねぇッ!!」
接近する梅のミサイルに気付いたラウールは回避するべく、能力を発動し、三秒後の危険地帯を予知する。
規格を小さくした結果か、数こそはあれ、速度は『
「ここが正念場! これさえ凌げば俺の──勝ちだッ!!」
そうして堂々と勝利を宣言し、ラウールは自身の予知に従って、梅のミサイルを上昇する事で回避し──
直後、確かに避けた筈のミサイルによって、
「はぁッ!?」
突然の事にラウールは意味が分からず、動揺してしまうが、梅のミサイルは考える暇を与えまいと、休むこと無く、ラウールを狙って発射を続ける。
「──ンなんだよクソがァ!!」
何をされたのか分からなかったが、分からないなりにより高く、より速く、上昇し、撃たれずに残っていた眼球にを使い、ミサイルがどうなったのかを観察する。
そして観察した結果。それは至極単純な理由だったと判明する。
「追尾機能ッ……!!」
極めてシンプル。
だがラウールの能力の対策として、これ程有効なのは他にないだろう。
どれだけ予知し、回避しようと、攻撃そのものが必中であれば、結果の先延ばしにしかならない。
「ノロマだったのも飛距離を伸ばす為に燃料節約してやがったのか! このまま俺を花粉切れまで追い詰め、仕留める為のッ……!!」
どうする、どうする、どうする、と頭の中で自問する声が大きく反響する。
このまま逃げ続けてもジリ貧。かと言って、
──これまでか……。
と、諦めかけたその時。
ラウールは視界の端に動く、黒い影を捉える。
「……ハハッ、やった……やったぞ! 天はまだ俺を見放しちゃあいなかったッ!!」
突如現れたそれに、カンダタが蜘蛛糸を見つけたような希望を見出したラウールは、体に残る花粉を全て出し切り、蛾の害蟲を最大限加速させる。
当然、梅のミサイルも逃すまいと、逃げるラウールの背を
「まだだ……まだッ……!!」
背筋に伝わる冷たい殺意が、距離に比例して増していくのを感じながら、尚もラウールは加速し続ける。
そして花粉が本当に尽き果て、もう着弾するかというその時。
ラウールは急ブレーキすることによって敢えて、梅のミサイルを
「ぐっ……うぉおおおおおおッ!!」
蛾の害蟲の背中に乗っていたラウールは、その巨体を盾にしたことで爆風によるダメージから逃れると同時に、急ブレーキの反動を
「──だぁッ!! はぁっ……はぁっ……は、ハハハハッ……や、やった! 上手くいった!! ククククッ……」
全速力で逃げてきた甲斐あって、ラウールの飛空挺が見えなくなるまで離れる事にも成功した。
このままの進路では安心出来ないが、銃で脅すなりして変更させればその問題も無くなる。
「はぁ……しかし商品も何もかもダメにしちまったのは痛てぇ……暫くは潜る必要がありそうだな……」
そんな風に、もう次の事を考えてしまえる程、九割方、ラウールの勝利と言っていい状況だった。
「にしても、この
確か、こんな風に背中に乗って『海』とかいう馬鹿でかい水溜まりの底へと沈んでいく童話があった気がするな──と、
亀の姿を模して造られた飛空挺を見ながら、ラウールはふと、そんな事を思い出すのだった。
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