10話

「紅羽ちゃんとはどうだったの?」

「平和に楽しくお喋りをしてきました」


 マフラーで首は守れても体は冷えるということで早めの解散になってしまった。


「ふ、ふーん、楽しかったんだー」

「それより紬はどうしてそんなに汗をかいているんですか?」

「……最近ちょっと太っちゃったからエアコンを効かせつつコタツにもこもって汗をかくことで痩せようとしていたんだ」

「気をつけてくださいね、そういうことをするなら水分補給も忘れないでください」


 いってこいと言ってきたのはそういうことだったのか。

 いやでも、痩せたいなら走るでいいと思う、で、先輩に頼めば言うことを聞いてくれただろうから三人で走ればよかったのだ。


「あ、それ」

「紅羽先輩がくれたんです」

「ちょうだい?」

「え、あーもう口をつけたので――後悔しても知りませんからね?」


 玄関の段差に座らせてもらうと同じように座って「これは安定して美味しいよね」と彼女が、無理をしなくても冷蔵庫の中にはジュースがあるのになにをしているのか。


「紬」

「なに――ぶふぅ!?」

「……濡れました」

「ごめんごめんっ、だけどいきなり顔を近づけてくるのも悪いんだよっ? と、とにかくタオルを持ってくるねっ」


 決して変なことをしようとはいていなかったし、顔を近づけたわけでもない、ただ彼女が座った場所が近かっただけなのだ。

 取ってきてくれたタオルを受け取って拭かせてもらう、ことはせずに洗面所を借りて洗ってしまうことにする。


「ごめんね……」

「気にしないでください、それよりもう一枚奇麗なタオルってありますか? あ、これを使わせてもらいますね」

「え、ああ……はは、ありがとう」

「はい」


 先程みたいな汗のかきかたはよくないから頼ってほしいと口にしてみたら「ありがとう」と言われたので首を振った。

 これぐらいは普通だ、小さいことでもいいから動けることを探している。


「……抱きついてもいい?」

「濡れても気にしないなら大丈夫ですよ」

「い、いや、汗をかいているのは私だから……」

「それなら気になりません」


 いやいや、先輩と過ごすために無理やり出たわけではないぞ、彼女のスマホに連絡がきていってこいと言われたから出たのだ。

 だからこうしてまるで放置されていました~みたいな感じをだされても困ってしまう、まあ、余計なことは言わずにしっかりと返しておくが。


「ありがとね」

「これからは一緒に紅羽先輩のところにいきましょう」

「うん、そうするよ、だって一人は寂しいもん」

「はは、おかしいですね」

「うん、後悔したんだよ……」


 意地を張ったりしなくてよかった。

 これからも三人で仲良くできる可能性が上がって安心できたのだった。

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157作品目 Nora_ @rianora_

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