09話

「あんたのこれ暖かいわ、本当に安かったの?」

「はい」


 千円ぐらいの物だからそうだ、二千円を超える物もあったが安い方を選んだわけだから安物と言ってもいい。


「ならいい物を買えたのね、そして私はそれを貰えたと」

「ありがとうございます」

「はぁ、なんでそっちが言うのよ」

「いやだって使ってもらえているわけですからね」


 どうしようと先輩の自由ではあるがやはりこうして使ってもらえたら嬉しいに決まっている、ただ、こうして自分といるときに使用されるとそれはそれで気を使ってくれているのではないかと不安になるときもあるが。


「見るな」

「え、なんですぐにそうなるんですか?」

「いいから見るな、あんたの彼女は紬でしょ」


 顔に気になるところがあるとか? でも、その割には最近までこんなことを言われたりはしてこなかったから変だ。

 だからついついじっと見ているとまた首を狙われたので集中する。


「あんた」

「はい」

「本当に変わっていないわよね」

「あ、はい、付き合ったその日にも言いましたけど紬も許可してくれたので」


 名前を呼び捨てにする件はあの翌日に本人から頼まれたのでしている。


「紬ねえ、なんで今更呼び捨てを求めたのかしらね?」

「関係が変わったからじゃないですか?」


 先輩、ちゃん、さんがついていようと名前で呼ばれていたことには変わらないから満足していた可能性があった、が、関係が変わればそれならとなってもおかしくはない。

 ちなみに紬の方は「肇くん」のままだ、これまでそう呼んできたから変えたくなかったらしい。


「もっとわかりやすくアピールしておけばよかったのにね、そうすれば肇だってもう少しぐらいは優柔不断ではなくなったでしょ」

「俺ですからね」

「うわあ」

「いやだって現在もそうじゃないですか」

「あんた開き直るな……と言いたいところだけど、そういうところに助けられているところだってあるからこれ以上はやめておくわ」


 なんかやめてくれた。


「はい」

「ああ、置いてあったボトルはそういうことだったんですね」

「当たり前でしょ、雑草じゃないんだから勝手に生えてくるわけじゃないんだし」


 それなりに時間が経過していたがまだ温かった、なので外は冷えているが内は温まった。

 より落ち着けたから先輩の横に座ると「やっぱりたまにはこういう時間もないとね」と言ってこちらの腕を優しく突いてきた。


「はい」

「ま、紬だってちゃんと言えば許してくれるでしょ」

「そのことなら大丈夫ですよ」


 今日だって寧ろいってこいと言われたぐらいだから。

 だからこの件であまり気にする必要はなかった。

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