第2話 決断
さぁ、死んだよ。君が死ぬほど憎かった親友のコービーは死んだ
なのになぜだ、この体は悲しんでいるではないか恨み晴らしたのだ浮かれるところであろうそれなのに悲しむのは死んだ者が余りにも可哀そうというものだ
「ただ約束は果たした。これよりこの体は、使わせてもらう」
この誰も救われない悲劇に巻き込まれたコービーにはご冥福をお祈りいたします、この一言に尽きる
どれくらい走ったのであろう。あたりは荒廃とした市街地から完全にジャングルへと舞台を移していた
足はすでに棒のようになり、心身共に疲れているのがわかる。
「さすがにここまでくれば巻き込まれる心配もないであろう」
なんせあたり一面、明らかに歩きにくい起伏した土地、ジメジメとするうざったらしい気候、そして入ったら現地の土地勘がないと容易に出られない場所なのだから
つまり隠れるにはもってこいの場所であろう
さてはて、これからどうするか?いきなり人間になったのでやりたいことがないわけでは無いがこのままでは何もできないことは自明の理であろう
何か打開策を見つけるために俺はアランの記憶を覗くことにした
アラン・ハディト 13歳
天涯孤独、両親不明、出生不明、唯一の家族は先ほど肉塊ときしたコービーとその妹レイラどうやら二人ともを本当の家族のように接していたらしい
「なればこそ何故だ?」
俺はもっと記憶をのぞこうとしたが、前世が蝉であったせいかそれ以上の記憶をのぞこうとするとどうしても頭の処理にノイズがかかってしまう
「ただやることは決まった」
俺は手早く支度を済ませレイラが隠れている俺らの家に行くことにした
食料の補充とレイラの安全を確保するためだ
まぁただここから50㎞もあるのだ一日で敵をかわしながら行くのは至難であろう
それでも愛した者、大切な者、何より
「俺はこの世の理不尽を嫌う」
何故って?そんなの決まっている俺の元が あの人物なのだから
それに俺にはどうせ次があると言う甘えがあるだからこそ、だからこそ人の道を少しばかり外れても気にならないのであろう、つまりは俺のエゴだということだ
そんなことを考えながら俺は自分が着ていた硝煙と血の匂いが染みついた軍服のまね事のような服を脱ぎ棄てる
こうして少年兵は一瞬にしてただただ戦場から逃げ惑う現地民に早変わりだした。それにこの見た目だそうそう訓練された正規兵なら撃ち殺されることもないだろうが一様のために拳銃だけは装備しておくことにした。それ以外の兵装は一時放棄して必要なものだけを鞄に詰め込む
「戦争はいつになっても、しわ寄せはいつも民間人に来る。どうしたものかね」
そんなことを思っていた時であっただろうか、前から少しばかり気配を感じ取ったのできの後ろに隠れることにした
恐る恐るそちらをのぞき込むとそこにいたのは、正規軍と思しき武装をした奴だが立っていた。
ただ本能で悟ったのであろう、奴はやばい。明らかに自分の息が詰まったのが分かる。息を殺し、鼓動を殺し、存在を消す、心の中でただただ願う
早く退散してくれと
人として通常の何倍も生きてきたがこの空気をまとう奴にまともなやつはいなかった。それが女性だとして例外なく。
例えるなら、古来のスパルタ王を彷彿とさせる背格好であった
そして何よりこの体が動くことを拒否していた俺の意思に反して、そこですべてが止まったかのように
それにしても何をしてるんだ正規軍がこんな場所で何をしているのだろう
そして今更気が付いたがかなり血まみれで明らかに衰弱していた体には無数の傷、背中には今まで受けたであろう弾痕よほど死地を通ってきたらしい
いまなら奴にさえ勝てるかもしれない。そんなことを考えた瞬間一気に体から緊張が引いていく
だがそれでも相手は一回の兵士、こちらは拳銃などあまり使ったことがない
やはりここは奴が通りすぎるのを待つべきだという結論に至った
そんな思考の最中であっただろうか、一発の銃声と悲鳴が聞こえる。どうやら俺以外にも誰かがいたらしい
「祖国に栄光を、悪魔に鉄槌を」
そんな聞き覚えのある決まり文句と一緒にまた銃声と男の悲鳴が聞こえる。この文句は現地ゲリラの決まり文句だ。なればこそ彼女はそのありとあらゆる兵士を文字道り打ち払っていく。どうやら彼女にとって10人ぐらいの兵力など取るに足らないらしい。彼女が躍り終えるころには彼女を中心に血の吹き溜まりのようなものができていた。
不覚にもそれがあまりにも戦う姿がしたたかで俺は見入ってしまった
こんなのを見てしまえば反逆の意思などとうにすりつぶされてしまった
「でさっきからそこに隠れてるやつは誰だ、出てこい」
俺以外に誰かいるのであろうかと思ったが。そんな甘い期待を裏切るかのように銃弾が俺の真横を通り過ぎた
俺は相手に見えないように拳銃を地面に置き、恐る恐る姿を現す。
初めて彼女と目を合わせて初めて分かった。こんな獅子に勝てるはずもないと。挑戦することさえ愚かだと。それでも挑み散っていたゲリラには賛辞さえ送りたいものだ
一度目を合わせたら外すことさえかなわないその気迫に体がついてこれなかったのだろう。気が付いたら下半身が濡れていた。つまり極度の緊張と恐怖のあまり俺の体は放尿の我慢という筋肉の動きを忘れてしまったのだ
ああ怖い桑原桑原
ただそう心の中で祈るしか僕にはなかった。この怪物に情という感情があることを願って
早くこちらに向けてある銃口をおろしてほしいものだ
転生人生 @ssaw
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