第3話 15歳の哀しみと孤独
隔離病棟に入院して半年、母の死を最初に知らせたのは、親しくなった女性看護師だった。
体格のいい年配の看護師は、なにかとジニに便宜を図ってくれる。
これまでも刑法など法律の書籍を読みたいといえば手配してくれもした。
「ジニくん、気の毒なニュースを伝えなければならないんだけどね。ショックを受けないでね」
「……」
「お母さんのことだけど、沓鷲栄子さんってお名前よね」
「そうです」
「実は……、お亡くなりになったのよ。連絡が遅れて……、先ほど、家庭裁判所の職員が来たので。大丈夫? 会えるかな?」
彼女は申し訳なさそうに聞いた。
面会室に通されると、事件当時に彼を担当した同じ調査官がすわっていた。
「ひさしぶりだが、元気そうにやっているようだね。さて、連絡が遅くなり申し訳ない」
「……」
「返事はないのかね。君の母親が自殺した。聞こえたかね?」
母親が自殺?
その言葉の意味を測りかねた。あの愚かな女が死んだというのだろうか。それも自殺で?
「母の死を悲しむべきでしょうが」
「ほお、穏やかになったな。この病院の処置は君に適切だったのだろうな。そう……。それでだね、君の模範的な態度は報告を受けている。退院しても、なんの問題もない。だから、決まったよ」
「退院?」
「そうだ。静岡に住む、君の祖母が身元引き受け人になってくれた。退院後に相談できる保護司の手配も終わっている」
「わかりました」
「他に聞きたいことは?」
「母は、なぜ自殺したんですか」
「事実を伝えていいのかな」
「教えてください」
「君なら知っても大丈夫だろう。ラブホテルで
母の自殺によって病院から解放される。深く考えると、妙な理由だ。
生まれてはじめて母親がジニのためにしてくれたことが自殺。そう思うと皮肉な思いしかない。
「力を落とさないようにな」
そう言って調査官は帰った。その姿をジニは目を細めて見送った。
どうしようもない母親だった。自分の感情をコントロールできない子どものような甘ったれた性格。他人の言葉に反発しては怒り、感情的になった姿しか思い出せない。
「だって、どうしようもないじゃない。母さんだって辛いのよ」というのが、口癖だ。
掃除をしたこともないアパートのゴミ部屋。男に捨てられては帰ってきて、散々、泣いて、酔っ払って、そのうち、新しい男を作っては消えた。
縊死……。
あの人にそんな勇気があったとは、驚きだ。いや、そうではないだろう。きっと違う。
ジニは確信めいた予感がした。
不自然な措置入院といい、なにかが、自分のあずかり知らないところで起きている。
「母さん……、殺されたんだな」
完全に渇いたと思った涙がこぼれた。
ジニがここから出られるのは、どこかの誰かにとって脅威が去ったという意味だろう。その意味をジニは深く考えた。
(つづく)
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