第26話 それぞれの思い

僕は許せなかった。

あの腐敗しきった世の中が。

国民から集めた税金は国民のために使うべきだ。

社会保障、公共事業。

国民のために使うのは当たり前のことだ。

そのはずだ。

そもそも税金とは国民のために使うために集めているのだから。

だが、現実は違った。

会議と称した飲み会。

出張と称した旅行。

本来国民のために使われるはずのお金で同僚たちは遊んでいた。

ろくに仕事もせずに。

ある日、それが明るみになった。

数々のマスメディアで報道され問題視された。

が、その事実を隠すために僕の上司たちは隠蔽を図った。

僕は公的文書の改ざんを命令された。

が、僕にはそんなことはできなかった。

ちゃんと事実を認めて罪と向き合うべきだと思ったから。

僕は大臣に直談判しに行った。

が、結果は変わらなかった。

上司の言うことが聞けないのなら首にするとさえ言われた。

僕は何も間違っていないはずなのに。

何も悪くないはずなのに。

その言葉を聞いて呆れた。

これが国を治める機関の一つだなんて。

この国は腐りきっている。

やってられなくなって僕は仕事を辞めた。

やがて一つの思考にたどり着いた。

この世は正しい、正しくないよりも権力を持つものにとって都合がいい、都合がよくないで回っているのだということに。

僕は失意のなか首を吊って自殺した。

が、魂だけはなぜか消滅しなかった。

やがて怨霊と化して力を手に入れた。

この力でこの世の悪を取り除く。

そう決めた日から、僕はかつての同僚を次々と殺した。

こうするしかなかった。

こうしなければ取り除けなかった。

現世に残してきた妻子が困らないようにするには僕が悪を取り除くしかなかった。

ごめんなさい、また守れなくて……


「助かった……のですか?」

私は彼にそう尋ねる。

「怨霊は俺が始末した。」

「そうですか。私の力不足で申し訳ありません。」

私は彼に謝る。

せっかく彼に力をもらったのに全く使いこなせなかった。

役に立つことができなかった。

「別に。それより派手にやり過ぎた。さっさと撤収するぞ。」

彼はそう言って私を置いて遠くへ行く。

「はい、分かりました。」

彼の後を追う。

その背中は遥か遠くに小さく見える。

何だったんだろう?

さっきの術式。

研究者とはいえ巫女でない彼がどうして武装を操れるのだろうか?

謎はさらに増えた。

が、彼ならフェイズ0に勝てるかもしれない。

私はそんな期待を抱いた。


「報告です。」

俺は局長に電話をかける。

「連続爆破テロの首謀者と思われる怨霊の抹殺が完了しました。」

「ご苦労様。」

「申し訳ありません。派手にやり過ぎました。」

「いや、別にいいよ。それはこっちでなんとかしたから。」

さっすが局長!

仕事早い。

俺は内心感謝でいっぱいである。

核兵器をも上回る爆発を引き起こしたのだ。

さぞ、誤魔化すのが大変だっただろう。

「そうですか。」

「それより彼女たちとうまくやれてるかね?」

「正直俺一人の方が効率がいいかと。」

俺はそう率直な感想を告げる。

「今のままだとそうだね。だから、君が鍛えてやってくれ。」

彼はまた俺に業務を押し付けてくる。

「これ以上業務増やすつもりですか?」

「まあ、給料は増やすから。」

そう言うが、どれだけ給料が上がっても釣り合わないことというのはあるものだ。

「それより休みをください。」

「いいけど。そうだ、これあげるよ。沖縄の無人島への旅行チケット。」

「いや、どちらかというと北海道の方がいいな。」

俺は率直な感想をこぼす。

正直暑いところよりも寒いところの方が好きである。

「いや、君意外とそういうところこだわるよね。」

「まあ、そうですね。」

「とりあえず郵送しとくから好きにしな。」

彼は呆れながらもそう言う。

親切な人だ。

「ありがとうございます、局長。」

「ああ、それよりソラスが最終段階に入ったんだが手伝ってくれるか。」

「分かりました。」

「今度そちらに伺います。」

「助かるよ。」

「はい、それでは失礼します。」

俺は電話を切った。

ソラスか……

フェイズ10計画。

遂に最終段階に入ったか。

面白くなりそうだ。

俺は不気味に微笑んだ。

その瞳は赤く染まっていた……


「コーダ。」

男は空間操作(テレポート)する。

黒い髪。

赤い瞳。

左目はその髪で隠れている。

その首には黒色のクローバーのネックレスがついている。

「お帰りなさいませ、主様。お久しぶりですの。」

ピンク色の髪の女がそう言いながら出迎える。

彼女は寂しそうな顔をしている。

「久しぶり、リンネ。といっても、2、3日しか経ってないだろ。」

「主様に会えないのが寂しいんですの。」

「そっか……そういえば、今日はポニーテールじゃないんだな。」

「はい、ハーフアップにしてみましたの。どうでございますの?」

「似合ってるんじゃないの?」

彼は率直な感想を口にする。

そういえばあいつもハーフアップにしてたことあったっけ?

「本当ですの?」

彼女は念押ししてくる。

「あ、うん。似合っているよ。」

彼ははっきりと肯定する。

「そうですの。」

彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。

でも、どこかその顔は嬉しそうに見える。

「フェイズ9の奴らが全く役立たずなんだよね。」

彼が愚痴り出す。

「私も見ましたが到底計画に使えるレベルではないかと。」

「そうだよな。どうしたものかね。」

「困りましたの。」

「あ、そうだ、リンネが怨霊として襲って鍛えればいいんじゃね。」

彼が思いついたようにそう話す。

「そうですね。主様自ら相手をするほどの巫女ではないですの。私がお相手しますの。」

彼女はやる気満々である。

「ああ、頼む。けど、くれぐれも殺さないように。霊力の吸収ができなくなる。」

彼が忠告を入れる。

「承知していますの。私にお任せくだされ。」

「うん、それじゃあ、お願いね。」

「分かりましたの。」

「主様が喜んでくださるよう頑張らないといけませんの?えへへ……」

彼女は不気味に微笑んだ……

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怨恨のカノン 哀寂涙 @akaga

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