第2話 3人の私
それは、今からちょうど1年前――去年の4月のこと。
私は受験勉強をし始めていましたが、まだ志望校がはっきりしていませんでした。
何となく地元のすぐ近くの公立高校を志望していました。
その時に、あの人から久しぶりに電話が来ました。
彼は私のことをシオンではなく、「カルミナ」と呼びました。
そして、とんでもないお願いを私に言ったのです。
「来月に行われる、オーディションの審査員をお願いしたい。」
と。
彼はFRエンターテイメントの社長でした。
……なぜ私なのかと思いました。
けど、すぐ思い当たりました。
私は普通の学生ですが、趣味として音楽をしています。
ネームは「カルミナ」。
歌という意味を持っています。
私が作曲・作詞した曲を合成ソフトに歌ってもらい、ネットに投稿するというものを中2からやっています。
私は音楽が好きです。
アイドルも好きでした。
そのことを彼は知っていたのでしょう。
彼はもう一つこう言いました。
「あなたには、カルミナとしてだけでなく、シオンとして。それから、『×××』として。7人のメンバーを選んでほしい」
その瞬間、私は意識がなくなりかけました。
呼んでほしくない、聞きたくないあの名前を聞いたから。
……2年前の悲劇さえなければ。
何度そう思ったでしょう。
誰にも迷惑をかけることもなかったし、絶望することもなかった。
最近なんて、笑えてません。
絶望に浸された私は腰まで長かった髪を家で肩まで切り、もともと茶色ぽかったので黒に染め、茶色っぽい瞳も黒のカラコンで隠し、ついでに伊達メガネもかけて、「シオン」ができました。
シオンは本名です。
どうしても、目立つことを避けたかったのです。
絶望しても、アイドルの存在と音楽は好きでした。
音楽をやめることはできなかったのです。
だからあんな趣味をしているのです。
それが「カルミナ」です。
そしたらFRエンタテインメントの社長に「カルミナ」という存在が見つかり、「カルミナ」が私であることも既にばれていたのです。
仕方なく、私は審査員になりました。
「カルミナ」として。
「シオン」として。
そして……×××として。
私は顔出しはNGと言ったのですが、「カルミナ」が審査員をすることが公開されたとき、かなり話題になってました。
「カルミナ」はなぜか人気です。
YouTubeの登録者数は100万人を超えています。
公開した曲の動画の再生回数はどれも5000万回を超えていて、中には1億回されたものもあります。
なぜ世間は「カルミナ」の曲を聴き、評価するのでしょうか。
私はたくさんの男の子たちを見ました。
踊って、歌って、時にはしゃいでいる無邪気な男の子たちを。
中には私と年が近い人も多く、年上・年下、いっぱいいました。
私はこの中から他の審査員と一緒に、残す人を選び、落とす人は落としました。
最初は100人はいました。
そこから50人、25人、15人まで削り、最終結果はオーディションのファンによる投票で7人メンバーが選ばれました。
これがWizardsの誕生です。
絶対的なエースダンサー、圧倒的なダンスメンバー、愛嬌がある美声少年、ツンデレの爆イケラッパー、誰よりもストイックなボーカリスト、会話上手なおっとり王子の7人。
彼らがファンによって選ばれました。
そして、デビューメンバーが決まった去年の12月からデビューに向けて猛練習。
デビュー曲は「カルミナ」が作詞作曲しました。
ネタばれになるので、曲に関してはまた後程。
たまにYouTubeで動画コンテンツが公開されました。
そこでメンバーカラーを決めたり、韓国で遊んでいました。
今月、新学期の4月に彼らがデビューすることになり、Wizardsのファンやオーディションのファンはもちろん、彼らの先輩にあたるSKY-Colorsや私が所属していたグループのファンも注目しています。
私はオーディションのあとの彼らを見ていません。
きっと練習をしているのでしょう。
たぶん同じ学校に通っていますが、芸能科なので会うことは全くありません。
芸能科は普通科とは校舎が異なり、別々です。
しかも少し遠く、普通科の人は芸能科の校舎の中に入れません。
寮も別です。
もちろん、彼らも「カルミナ」が誰なのか知りません。
私みたいな奴が「カルミナ」だとバレたら大変です。
大騒ぎです。
学園内にファンが多いので、そもそも彼らとは関わりたくないのが本音です。
バレるのが嫌なので私は友達を作る気もありません。
誰もこんな無表情で、地味な私に話しかけないでしょう。
そういう意味で、私はぼっちが良いのです。
私はもう、誰とも関わりたくないです。
友達なんて、いらないです。
わたしは、1人でいたい。
問題児アイドルグループのマネージャーになっちゃいました!? 陽菜花 @hn0612
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