第七話「秀才の優等生」

あたしは幼い頃から、何の苦労もせずに何でもできる他の人とは頭の出来が違う秀才だった。……って言うのは表向きの私。

何でも覚えれるまで努力して、他の人と変わらない普通の人間だった。


「おまえオドオドしててムカつくんだよなー!じゃまだから、どけよ!」

「…わっ…ぅ…ご…ごめんなさい…」


幼稚園で、いじめられている男の子が居た。


「きみの方がじゃまだよー!!どいたどいたー!!」

「うわっ!なんだこいつー!」


いじめっ子達は逃げていった。


「ねえね、きみ、だいじょうぶ?」

「……だぁれ?」

「あたしはね、いろは!雫芽 彩葉しずくめ いろはっていうのー!」

「…ぼくは…はると…貝塚 春人かいづか はると。」

「そっかー!じゃあはるくんだね!よろしくね〜!」

「……うん、よろしくね。……い…いーちゃん。」

「うんよろしく!これからあたしがまもってあげるからたくさん頼ってねー!」


春人とはそこで出会った。

その日から、春人が誰かにいじめられるたびにいじめっ子を追い払っていた。


「今日もたすけてくれてありがと…!」

「ふふん!どういたしまして〜!」

「…いーちゃんは、努力してつよくなっててすごいね!」

「……え?」


あたしは成功した部分しか見られてこなかったから、大体の人は「彩葉ちゃんだからできて当然だよね。」って言われる事が多くて、努力の部分を褒めてくれるのは姉さんと春人ぐらいだった。


「ねーさんただいまー!!」

「彩葉〜おかえり〜。」


姉さんは愛想が良くて笑顔が可愛くて優しい人だった。


「今日ね今日ね!はるくんが、「努力しててすごいね」っていってくれたのー!!」

「そうなんだ〜良かったね〜!」


姉さんは、人の幸せを自分の幸せのように思う人で、あたしが自慢話をするたびに一緒に喜んでくれた。


「はるくん!今日はゲーセン行こうよ〜!」

「いーちゃん走るの早い!待って!!今度こそ僕が勝つからなー!!」

「二人共、出かけるのは良いけど気を付けるんだよ。」

「姉さんありがと!ちゃんと気を付けるよ〜!姉さんも気を付けて帰ってね!」


小学5年生の頃、春人と一緒にゲーセンに行く事になった。

春人は楽しそうな笑顔だ。

姉さんは一人で帰って行った。


(……姉さんも誘えば良かったかな。今度誘ってみよう!)


その日は春人とゲーセンで遊んでから帰った。

……―――…帰った後、姉さんが事故で亡くなった事を聞いた。

一人で帰っている途中に、事故で亡くなってしまったらしい。


「まさか瑞葉が事故で亡くなってしまうなんて………でも良かったわ。亡くなったのが瑞葉で。」


お母さんはそう口にした。


「…どうして?…姉さんが死んじゃったんだよ…?」

「……だって、あの子そこまで頭良くなかったじゃない。塾に行かせてやっても平均点しかとれていなかったし。」


その時、自分の母親は狂っていると察した。


「確かに母さんの言う通りだ。"何もせずに"何でもできる彩葉が生きていて良かった。」


……――――またこれだ。

あたしは、それなりに努力をしているはずなのに、他の人達はみんな「何もせずに何でも出来る天才」として見てきて、それがどうしようもなく嫌いだった。


学校でもそう。

勝手に私の人物像を作って、勝手に何も苦労せずできる天才として見て、私を無視したり除け者にするの。

私だって普通に誰かと競い合ったり、教え合ったりしたかった。

それなのに遠い存在のように扱われるだなんて。

…――――そんなのいらないのに。


………もしもあの時…姉さんの事も誘っていたら、何か変わったのだろうか。


葬式の時、春人が一緒に泣いてくれた。

春人は姉さんともよく仲良くしていたし、彼も悲しかったのだろう。

凄く悲しそうな顔をしていた。


「彩葉ちゃん!勉強教えてよ〜!」

「おっ!良いよ〜!どの部分が分からないの?」

「ここ!さすが彩葉ちゃん!やっぱり彩葉ちゃんは頭の出来が違うね!」

「…えへへ〜。ありがとー!」


中学の頃、それなりに友達ができて、よく勉強を教えていた。

……―――頭の出来なんて変わらないはずなのに。

「…他の人と話してたらはるくんも少しは嫉妬してくれるかな〜」なんて思っていた気がする。

女子同士で仲良くしていたところで嫉妬する要素があるのかは分からないけれど。


「ねぇ彩葉ちゃん!今日一緒に帰ろうよ〜!」

「おっ!良いよ〜!……あっ!ちょっと待ってね!」


「はるくーん!あたしこの子達と帰ることになったんだけど、良かったらたまには、はるくんも一緒に来ないー?」

「…えっ…良いの…?」

「もちろん!はるくんも大切な友達だからね〜!!」


誘われた時の春人は凄く嬉しそうだった。

……誘って良かったな。


「ところでいーちゃん、何処に行く予定なの?」

「最近ねー!新しいクレープ屋さんが出来たんだよ!みんなで食べるの!」


クレープはそれなりに好きだけど、春人と一緒に出かけれるのが久々で嬉しかった。


「…いーちゃんって、クレープ好きなんだね。」

「ん〜?どーしたの急に。……まぁクレープに限らずお菓子とかスイーツは普通に好きだよ。」


「いやそりゃ甘い物は好きに決まってるだろ〜!」って思ったね。

………どうして急にそんな事を聞いてきたんだろう。


「……いーちゃん…あのさ、いーちゃんは……好きなタイプって居るの…?」

「えっ?……う〜ん…表向きじゃないあたしの事もちゃんと見てくれてて〜…あと助け合える人かな!」


あたしにとって、"表向きじゃないあたしの事を見てくれる人"は、姉さんと春人だった。


それからどれぐらいか経ったある日、一緒にクレープ屋に行った友達が亡くなった。

何かの事件に巻き込まれてしまったらしい。

葬式の時、誰よりも一番春人が辛そうにしていたのを覚えている。


(…はるくん様子変だったな。………もしかして…何か知ってるの…?)


少しだけ頭に過ぎった。

でもわざわざ聞く必要なんてないはずだし。

……だって、あたしは信用されてるはずだから。

信用されてるから相談してくれるはず、頼ってくれるはず、隠し事なんてしないはず。


まぁそんな一件があっても学校はあるわけで。

何だか少し気まずいけれど、学校に足を運んだ。


(葬式の時はるくん元気なかったよな〜…あっそうだ!昔の頃よく一緒にゲーセンに行ってたし、放課後誘ってみよう!…少しは元気出してくれると良いな〜。)


―――放課後―――


(よし!放課後だ!誘ってみよう!)


「……あのさ、もうそう言う呼び方やめない?……… "俺" 達…もう中二だしさ。……もうそういうのやめようよ。 "彩葉" 。」

「……えっ…」


彼は、あまりにも下手な作り笑いをした。

辛そうな、何かを思い悩んでいそうな、それで無理に笑っているような、そんな表情。

……やっぱり何かあったんだろうか。

その日から―――あたしにとって"はるくん"は、"春人"になった。


高校に入っても特に変わらなかった。


「やぁやぁチビ春人ー!いやね〜最近よく友達の相談に乗ったりしてる訳なんだけどさー!あたしちゃんと相談乗ったりしてるんだよー!すごくない?……………それでさ〜…春人は悩み事とかある?」

「……何だよ急に。………あとチビ言うな!!」

「まぁね〜春人ともあろうお方がー、ビビって悩み事隠したり相談しないなんて事しないとは思うんだけど〜!………それで、あるの?」

「……ある訳ないだろ。」

「………………そっか。」


悩みがあるのは察しがつく、でも教えてはもらえなかった。

…――――…でも、何故だが問い詰める気も起きなかった。

今考えると、もしかしたらあたしは心の何処かで気付いていたのかも知れない。

姉さんや、友達の件についての真実を。

本当は気付かないふりをしていただけなのかも知れない。


…………―――あたしは、春人さえ居ればそれで良かった。……春人だってあたしさえ居れば良いでしょ?

あたしが許してあげるって言ってるんだから、別にそれで良いじゃない。

被害者はあたし。被害者のあたしが許してるならそれで良いでしょ。

……それなのに、何で死のうとなんてするの。

あたしが問い詰めなかったから?気付くのが遅過ぎたから?

違う。あたしは悪くない。あたしは間違ってなんかない。

……だって仕方がなかった。

誰だって自分の大切な人がまた違った自分の大切な人が死んだ原因だなんて知りたくないに決まってる。

あたしをどんな人間だと思ってるのか知らないけれど、あたしだって全てを受け入れれる訳じゃないし。

………許せない。姉さんが死んでも全く悲しまなかった親も、その姉さんを殺した春人のお父さんも、…――――春人のことも。

……でも、一番許せないのは……。


「……違う。…こんな事望んでないのに。」

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悪の芽と大罪の葉。―人と人の生存戦争― I/アイ @rianusi928

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