幕間「魔法少女のお仕事2」



「……海賊の島、とお聞きしましたが」

「ええ。その通り」

「その島には他の海賊たちも集まっているのでは?」

「海賊連合軍とやり合うのか、とお聞きしたいのでしょうな」


 ドルーマン少将は笑った。

 歳を経た男はときに独特の笑い方をするのが不思議だ。なにが面白いというわけでもない。目の前の世界が自分の思い通りに進むのを待ちわびたように笑う。


「実はですな、海賊どもとはすでに契約が済んでおるのです。海賊は利によって動くもの。それ相応の見返りを与えれば良いわけです」


 答えて、ドルーマン少将は懐から羊皮紙を取り出した。


「これは赦免状です。我が軍の作戦に協力し、ハニーゴールドを差し出すのであれば、これまでの海賊行為を許す。さらに商船としての許可状も発行すると」

「……悪人を赦すのですか?」

「魔法使いさまのお気持ちもわかります。あいつらは海のゴミだ。だが、馬鹿は馬鹿なりに考えるものでしてな。この時代に、いつまでも海で宝探しなどやっていられないと理解している者もいる。ハニーゴールドさえ売れば、自分の人生はやり直せると信じてね」


 ドルーマン少将は赦免状を懐に戻し、代わりに銀のシガーケースを取り出した。煙草を咥え、マッチを擦って火を灯した。


「奴らがハニーゴールドを仕留められずとも、混乱くらいは起きるでしょう。そこに我らが乗り込むという手筈ですな。しかしこの船の応急修理も万全ではない」


 振り仰ぐのは折れたマストだ。職人たちが総出でできる限りの修理を施し、新しい帆も張ったが、完璧ではない。

 一撃でマストを砕いた魔法の砲撃は、あたしの目に残像としてこびりついている。


「またあの魔法使いが邪魔をすれば、我らにはなすすべがないのですな。そこでぜひ、魔法使いさまにも作戦にご同行を願いたいのです。悪人どもをこの海から排除するために」


 白い煙が潮風に乗って海に流れていく。

 魔法使いは魂に刻まれている。


 そうあるべくして生まれた存在であり、その運命は自分の意思と関わりなく決まっている。常人には持ち得ぬ力を持つ。だから、正しく生きることが求められる。この世界の美しさを守るために、力を振るう責任を忘れてはならない。


 それが、善い魔法使いとしての使命なのだ。


「わかりました。ご同行させていただきます。あの悪い魔法使いは、あたしが止めます」

「おお、そうですか、そう言っていただければ心強い! 頼りにさせていただきますぞ」


 ドルーマン少将は満面の笑みを浮かべている。

 




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