第4話:探求②

 「ですから院長、お願いします!ののちゃんを助けるにはこれしかないんです!」

 「何度も言っているだろう。金があればやってやる、とな」

 だめだ。こんな押し問答では何も進まない。

 最近、ののちゃんは再び体調を崩している。ほぼ確実に今回が峠だろう。彼女を助けるためには、早く手術をするしかないというのに―。

 ただただ私腹を肥やすことしか考えていない医局長共も、院長も、糞野郎だ。

 「わかりました。お金があればいいんですね?」

 もう、私がやるしかない。

***

 いつの間にか痛みは嘘のように収まっていた。

 さっきまでは夢を見ていたのだと思っていたが―もしかしてこれは、『記憶』なのか?

 いや、まさか。今まで数え切れない程の人の血を飲んできたが、こんなことは一度もなかった。

 尾上雪菜の血が特別だった?ありえない話というわけではないが、どうも違うと思う。

 まぁ、理由がいかなるものであったとしてもこれはチャンスだ。

 僕は知りたい。彼女が一体何を為そうとしたのかを。

***

 その日は、俺が宿直当番だった。

 いつもなら何本か緊急外来の電話が入るというのに……『嵐の前の静けさ』、そんな単語が頭をよぎる。

 ひとまず仮眠でも取ろうか、そう思ったときだった。

 「動かないでください」

 唐突に、何者かの爪が俺の喉に押し当てられた。その爪は、異常と言っても差し支 えないほど鋭く尖っている。

 「なんなんだ、お前は」

 思わず声が上ずった。

 「安心してください。僕の質問に答えてくれれば、危害を加えるつもりはありません」

 「……本当なんだろうな」

 「えぇ、約束しましょう」

 そいつは俺の首から手を離すと、正面にやってきて仮眠用のベッドに座った。

 身長は170cm程。黒フードを目深に下ろしているため、顔はよく見えない。

 「それでは単刀直入にいきましょうか。僕が知りたいのは、尾上雪菜についてです」

 そいつの目が一瞬キラリと青色に光ったのを、俺は見た。

***

 「それでは単刀直入にいきましょうか。僕が知りたいのは、尾上雪菜についてです」

 彼女の名前を口にした瞬間、男の顔色が変わった。が、それはすぐに元に戻る。

 「彼女のことを知って何がしたいんだ?」

 「いえ、単純な興味です。僕は彼女が何を為そうとしていたのか、それが知りたい」

 男は顔をしかめた。

 「そうは言っても、彼女は今失踪しているんだ。むしろこちらが彼女に関する情報について聞きたいくらいでな」

 「えぇ、知っています。だからこの病院に来ているんですよ。彼女のことをよく知っている第三者から話を聞くためにね」

 「じゃあ、交渉しないか?俺から、彼女について話せることは全て話そう。かわりに、彼女の居場所を探してくるっていうのはどうだ」

 「……あなたに交渉権はありません。自身の命の危機を忘れたんですか」

 僕は常人になら見えない程度の速度で先刻のように男の背後をとると、再び彼の喉元に軽く爪を押し当てた。

 男の首を、つぅーっと一筋の汗が流れていく。

 「わかった。わかったから俺を殺さないでくれ」

 その言葉に、僕はすぐ首から手を離してやる。

 「物分りの早い方で助かります。こちらも手間が省けるので」

 人の死体の処理は、なかなかに大変なのだ。

 再び、男の正面に座る。

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響き渡るは四重奏 わふにゃう。 @wafunyau889

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