第8話

「あー。だから、まぁ元々王族ってガラでもないんだって……」


 私の考えを読んだかのようにテオが言う。

 ……確かに民とあれだけ触れ合って仲の良い王族というのも珍しというか……初代以外に見た事がない。

 一応、親心と言って外に邸と使用人を用意してもらっただけでも御の字だとテオは言う。

 でも、そうなると気になる事が一点だけあるのだ。


「……放浪どころか、ずっとミシェル国に留まっていたよね……?」

「あー……」


 そうなのだ。放浪すると言っても、行き倒れているテオを私が助けてから、テオはずっとミシェル国の騎士団に居る。

 あの国に留まり続けていたのだ。……帰るわけでもなく、他に行くわけでもなく。


「それは……」


 テオは少し口ごもり、しばらく視線を彷徨わせた後、決意したよう私に視線を合わせた。


「……リタに惚れたから」

「……え?」

「殿下の婚約者になったとしても……守りたくてあの国に留まってただけだよ……。これから先一生、俺にリタを守らせて欲しい」


 テオの言葉に涙腺が緩みそうになる。

 惚れただの好きだの……否、それ以前に家族愛すら、あんなのだった。

 守る守られるも、よくわからなくなる程に。

 でも……それでも……。


「……私は、此処に居たいと思う……」

「それだけで十分」


 しぼり出した私の言葉にテオは満面の笑みになり、私を抱きしめた。




 ◇




 あれから一年の月日が経った。

 精霊の愛し子とされる私が、この国で住むという事でテオの両親、つまり国王夫妻に挨拶へ行けば手放しで喜ばれた。

 本当に良いのか、と繰り返し聞いてくれ、私の願いを最大限汲んでくれるという二人には感謝の気持ちしかない。

 愛し子だから大事にする、というよりは、人としての最低限を保証すると重ねて言われた事も嬉しかった。

 テオは公爵の地位を賜り、それ相応の領地も貰った事から、人々が住みやすい領地にすると頑張った。

 そんな中、一報が届いたのだ。


「奥様。一応ご報告させていただきます」


 その言葉と共に執事が語り出したのは、私が捨てた国の事。

 あの騒動の後、第一王子は処刑され、王位は第二王子が継いだと言う。

 そして、ターナー公爵家は取り潰されたと。

 既に女神の血はなく、精霊の加護もなくなった為、作物の実りも今までのようにいかず苦労しているようだ。

 まだまだ復興すら難しい状態だし、色んな方面から反発があり私を連れ戻そうとしていた動きもあったそうだが、武力はなく加護もない国なんて相手にすらならなかったそうだ。

 女神を諦め、自分達の過ちを認め、今後は第二王子を中心とした民主的な国を作っていくという方向に固めたという。


「そんな話は聞かなくて良い。お腹の子に悪い」

「テオ」


 そう、私とテオは婚姻を結び、お腹には子どもがいて、もうすぐ産まれる予定だ。


「お仕事お疲れ様、もう終わったの?」

「今日はね。しばらくしたら道路整備に関しての視察にまた行くよ。子孫達も住みやすい領地にしないとね」


 そう言い、テオは私のお腹をさすった。

 子孫達も……つまり、ちゃんと領民含めた言い方だ。というより、本当に住みやすい領地を作りたいという気持ちだけが伝わってくる。

 愛する人と作った国は、私の甘さにより愚かな民達と化してしまった。

 そんな力など不要と言わんばかりに動き回るテオを見ていると、人間は自分の力だけで困難を乗り越え成長し、国を築き上げていくのだと思わされる。


「テオ……ありがとう」

「ん?何が?」


 首を傾げ、本当に分からないと言った表情を見せるテオは、相も変わらず貴族らしくない。

 けれど、裏表がない所も私には助かる。……素直なテオは信用できる。

 裏切られた傷はまだ少し癒えていないけれど……。


 ――違う地で、女神の血筋はまだ続く。


 今回は信じてみよう、人の強さを。

 父のような見守る愛情を私も持とう。


「ありがとう」

「ん?」


 心の底から沸き上がる感謝の気持ちを大事にし、私は私で前を向く。

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【完結】婚約破棄ですか?妹は精霊の愛し子らしいですが、私は女神ですよ? かずき りり @kuruhari

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