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「お久し振りねえ、お姫様♡」

「恐れながら、他人の空似かと存じます。陛下」

「嫌だわこの子ったら。アタシを誰だと思ってるのかしら。

 この目と耳で幾多の商機を掴んできた南の王よ。10年経った程度で分からなくなるわけがないでしょ」

「…………お懐かしゅうございます」

「知らない顔をアナタの名前で紹介されて、ずいぶん驚いたのよ。あれは誰なの?」

「話せば長いことながら」

「短く話して」

「……替え玉を嫁がせてございます」

「なぜ?」

「我が国には美しい姫が必要だったのです。嫁ぐことで戦争を止められる、美しい姫が」

「確かに顔かたちは美しい。いじめられると顔が真っ赤になるのもそそるわねぇ。

 北の国このくにの王にとっては、国を買うだけの価値でしょうとも」

「ご納得いただけましたか」

「それとこれとは別よね」

「さようでございますか」

「まず、その喋り方をやめて頂戴。知らない仲じゃないでしょ」

「あなた様が末姫すえひめと仲のよい王子殿下であったのは過去のことでありますゆえに」

「お堅くなったわね。それとも距離を取られてるの?」

「国をあげて奴隷商をするなど、見下げたものだというだけのこと」

「仕方ないわ。だって南の国わがくには──東の国とずぶずぶの蜜月なんですもの♡」

「あなた様もまた、国を守るために、強国へ別のものを売り渡しているのですね。……わたしがそうであるように」

「アナタはあの替え玉姫の。アタシは他国の民の……人生をね。

 ヒヒヒ、ねえアナタ、アタシのこと見下げられる立場なの?」

「…………」

「さてさて。そろそろかしら」

「陛下。準備できた」

「積み荷は?」

「問題ない、です」

「待て、北の国民を積んで出港するつもりか!?」

「当たり前よ。せっかく仕入れた商品なんだから。人質にも出来るし、積み得でしょ?」

「陛下、これ、部屋、持ってっていい?」

「まだダメよ。貸しておいて頂戴」

「これ以上わたしからあなたに話すことはない。下がらせてくれ」

「ダメよ。……ねえ、シャオメイ。そんなに邪険にしないで」

「ロノ。お前の部屋に連れていってくれ」

「──〘話を聞け、シャオメイ。余は他ならぬそなたのために、北の国を弱らせに来たのに〙」

「……なに……?」

「……だから、昔みたいに、ペア、と呼んで頂戴。シャオメイ」

「ペア、お前」

「ああ、シャオメイ。うれしい。もっと呼んで……南国語わたしたちのことばで話して」

「っ寄るな! ……寄ると死ぬぞ。わたしがな」

「ヒヒヒ。まるでお芝居ね」

「……どこぞの、恋愛小説みたいだ」

「ああ、そう、小説。こっちでは随分流行っているそうね。

 紙の上の文字などなぞって、面白いの?」

「それなりにな」

「ロノ」

「っ! は、離せっ!」

「陛下、シャオメイ、怒ってる」

「〘何故憤る? 何故遠ざける。シャオ……いや、シェンメイ。

 船は出た。そなたは余と共に来るしかない。そなたの国は気の毒だが、北の国と共に一度滅ぼう。

 滅んだ国の上に、新たな国を建てようぞ。そなたを新たな王として〙」

「……ひとたび戦火に飲まれたあの国に、なにが残ろう。

 ちいさな国だ。国全体を見ようが、民の数は北の国の都に住まう民と同じだけ。

 稀有な産出物もなく、清い水と豊かな土のもたらすものだけで生きている。

 誰が残るというのだ。みな死んで終わりだ。──だから、わたしは……

 んうっ!? ……待て、なにをする」

「〘待たぬ。我が国の流儀をもってお前を『説得』する〙」

「ひ──い、やだっ、離せっ」

「〘体を開けば心も開く。楽にせよ〙」

「そんなっ、小説みたいな筋書きがっ、あってたまるか……っ!」

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