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「お兄さま!」
「王妃様、どうぞお声を抑えて」
「どうしましょう、どうしましょう! あの子が、あの子が南の国に取られてしまうわ!」
「……落ち着け、妹よ。その衣服の乱れはどうした」
「あの子が連れていかれるのを見て追いかけたのです。そうしたら、わ、わたし……」
「未遂だな?」
「ええ、ええ……王にお助けいただいて……」
「王は奴隷狩人の存在にお気付きになられたのだな」
「お兄さま、知っていらしたの」
「俺も先頃知ったのだ。これから探るつもりだった」
「まさかあの子を使って!?」
「いや違うが」
「あの子はただの女の子よ! わたしと一緒!」
「だから違うと」
「物語みたいな出来事はもうこりごり! わたしとあの子を解放してください!」
「……お前、本当に嫌なのか?」
「い…………嫌に決まってます」
「お前のことだ、本当に嫌なら王をひっぱたいてでも拒絶すると思って任せていたが」
「……嫌です、が、お兄さまを思えば……」
「本音は」
「…………言うほど嫌ではないです」
「王、お前の好みだろう」
「……好み……ですけれど……!
強引な性格も、お顔とお声と意外な優しさで許せてしまいますけれど!
嫌だけど嫌じゃないのが嫌!」
「女性向け恋愛小説みたいな葛藤だな」
「それもこれもわたし以外の人が無事だからこそ!」
「……傍女はどうしたのか、わかるか」
「あの……南の王の衛士が連れていって……その先はわからないの」
「お前が姫を続けるにあたり、あの女は必要だ。連れていかれては、俺も困る」
「……ねえお兄さま、あの子はお兄さまのなんなの? 秘密の恋人?」
「なにゆえそうなる」
「だって、ふふ、お兄さまが『困る』なんて。はじめて聞いたわ。
わたしにこの役目を仰せ付けたときだって言わなかった。
同じような役割を果たせる女の子の用意なんて、簡単でしょう?」
「代わりがいないという点では、大事だ」
「どうしてそう素直になれないの?」
「俺があの女に恋してるとでも言いたいのか」
「そうよ。あの子を見る目は優しいもの。身体中に冷たい血を巡らせてるお兄さまとは思えないくらい」
「見当違いだよ。まったく我が妹ながら、頭に恋愛小説の巻物が詰まっているかのような思考回路だ」
「いいわ、認めないなら。それでも、あの子を助けてくれるでしょ?」
「代わりはいない、と言った」
「ああ、よかった! ありがとう、お兄さま!」
「声が高い! ……顔を薄布で隠していて見分けがつきづらいとはいえ、限度というものがある。誰が聞くとも分からん」
「あ……ごめんなさい」
「──いえ。それでは王妃様、御前を失礼いたします。
陛下がどのように動かれるのか、それによってはあの傍女を取り返す機を過ぎてしまうやもしれませぬ。事は
「頼みます、フェイ。あの子は……気丈なだけの女の子です」
「…………存じております」
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