6

「終わったか」

「お目汚しいたしました」

「流れるような土下座」

「まさかこちらにいらっしゃるとは」

「うむ、南の王との会食に姫も同席する運びとなってな。

 して、いかなるはかりごとか」

「は。南の王の此度こたびの訪問について、探りをいれておりました」

「ふむ。聞こう」

「南の王の目的は──『商品』の確保にございます」

「…………不穏か?」

「人命に値をつける行為は不穏以外のなにものでもございますまい」

「奴隷狩りかあ……」

「船の積み荷に『狩人』を載せて参ったそうでございます」

「ううむ……この国を足掛かりに我が国へも侵入するやもしれぬ。

 それとなく王にお伝えできぬものか」

「妹が真実にたどり着くよう、それとなく諷示ふうじいたしましょう」

「…………それ、大丈夫か?」

「大丈夫とは」

「女性向け恋愛小説において」

「いい加減この流れにも慣れてまいりましたね」

「言うな。 ──知ったからにはと、手酷く犯される可能性があるぞ」

寵妃ちょうひを殺せば角がたつ。

 であれば口封じに騒げぬような事柄を成してしまえと、そういうことでございますね」

「そういうことだ」

「……まあ、これまでの流れなら、それくらい問題ないのでは」

「……酷い兄だな……」

「噛み締めるようにおっしゃいますね。傷付きます」

「だって……あまりに酷い……。

 小指の先ほどでよいのだ、案じてやってはどうか?」

「姫様にお心を割いていただいておりますゆえ、兄の心など不要でございましょうや」

「いやお前……肉親じゃん……」

「──何を言う。あの方は『姫』、わたくしとはなんら関わりない」

「…………」

「ところで傍女よ、そなたはここで何をしている?」

「ひっ……お、お許しくださいまし!

 もう、もうわたくしは、姫様が玩具のように犯されているのを見るのが辛うございます!

 どうかどうか、文官様のお力で、姫様をお救いくださいませ!」

「ええい、下がれ下がれ! 王の所業に口を出せばわたくしの身分が危ういわ!」

「平に平に、お願い申し上げます!」

「たわけ者が! 言ってわからぬのなら……!」

「…………」

「……これはこれは南の王の衛士様。屋根裏で何をなさっておいでですか」

「この国、殴るは、要らないの意味?」

「なに?」

「要らないなら、貰ってく」

「あっ、……ちょ、ちょっと、お前さま?」

「おれ、ロノ。名乗ったはず」

「待て! 姫の傍女をいかがするおつもりか!」

「さっき言った」

「待て待て、ロノ、待ってくれ、わたしは……」

「要らないなら、貰ってく」

「……しまった。誤魔化すつもりが、物語の起点みたいなものを作ってしまった。

 姫様のことだ、流されるようなことはなかろうが……。

 否、万が一があっては……ううん……どうしたものか……」

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