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「…………」

「心中、お察しいたします」

「…………分かるか?」

「…………申し訳ございません。気休めを申しました」

「よい。その気遣いを甘んじて受ける」

「まさか王と王弟があのような荒淫こういんに走るとは」

「女性向け恋愛小説においては」

「女性向け恋愛小説においては」

「……よくあることだ……」

「昨今の流行はやりでございますか」

「恥じる美姫びきを高貴な二人の所有物にする、という流れ……。

 『これ女性向け恋愛小説で読んだぞ!!』という言葉を何度飲み込んだか」

「思った以上に続けて読んでおられる」

「あれを読んでいれば、女官との世間話に事欠かぬゆえな。……面白いし」

「しかし、姫様に何事もなく、ようございました」

「行為を見せつけられたことを何事もなくと言うべきか否か」

「姫様が指一本でも触れられていたならば、腹を切る所存でございました」

「嘘だろお前……そんな忠信のような気持ちを持っていたのか……?」

「心底からのお言葉、そこそこ傷付きます」

「すまぬ。妹が二人がかりで犯されてもあまり心動いたようすが見られなかったゆえ」

「そこで心を動かしたら、それこそ女性向け恋愛小説では?」

「…………なに? そういうのもあるの?」

兄妹きょうだいもの……というものが」

「ご禁制では?」

「我が国ならば死刑でございましょうや」

「うわ……」

「大体、このような状況で心動かされ激昂するなど、今さらかと存じます。

 妹を替え玉にした時点で、なにが起きようが想定の範囲でございます」

「替え玉が見破られ、殺されてもか?」

「姫様。これは論理的ではない話ですが」

「うむ」

「見目の麗しい者は、なんとかなるのです」

「……はい」

「馬鹿にしましたね」

「鼻で笑ってしまったわ。

 しかし美しいものはそれだけで赦されるよな、理解はできないが納得はする」

「お分かりいただけますか」

「ぶっちゃけ、この国に来てからお前がちょくちょくやる不敬も顔で赦している時がある」

「なんと」

「お前、ほんとに顔はいいからな……」

「身に余る光栄にございます」

「そのせいでやっかまれることもあるが」

「……さては姫様、このように執務室へ呼びつけられるたび、あらぬ事柄でいじめを受けておいでで?」

「いじめというほどでは」

くつが新しいのはそのためですか? 髪飾りはいかがされました」

「些事である。気にするな」

「……申し訳ございません」

「謝るでない。この状況は総て我が采配によるもの。

 国の滅びに関わらぬことは些事よ」

「これもわたくしの顔が美しいばっかりに……」

「…………お前、実はあんまり悪いと思ってないな?」

「はい、ええ、あまり。起きてしまったものは仕方がないかと」

「不敬」

「申し訳ございません。しかしながら、どのようにかして対策は打ちましょう」

「そうだな……手始めに人目のあるところでわたしを酷く打ちすえてみるか?」

「打ちすえる?」

「嫌がらせのために呼び出されている、と取らせるのだ」

「なるほど。……しかしながら、姫様に手をあげるなど」

「いや流石にフリだぞ? 本気で打ちすえたら打ちすえ返してやるからな」

「…………たとえフリでも姫様を打ちすえるのは」

「目が泳いでおるぞ」

「まあ、ええと、打ちすえるのはなしとしても、よい考えかと存じます。

 善は急げ、すぐにでも実行いたしましょう」

「よいだろう。では大庭園に行くか」

「あ、姫様、足元」

「え、……ひゃん!?」

「…………姫様」

「はい」

「ここは、素直に転んでいたほうが愛らしいかと」

「お前が支えるとわかっていれば曲芸師ばりの開脚を決めることもなかったわ……」

「むしろ何故なにゆえ支えないと思ったのです」

「お前を信じなかったのではない、お前の反射神経を信じなかったのだ」

「より悪いです。お怪我は? 足は痛くないですか」

「大事ない。……それよりいつまで触れているつもりだ」

「いえ、……女性向け恋愛小説においては」

「女性向け恋愛小説においては」

「このような事態が起きると、女性はときめき、恋に落ちるものですが」

「そのような傾向が強いな」

「……大丈夫でございますか」

「……………………ないわー」

「それはようございました」

「むしろお前、あると思ったの?」

「いえ……しかしわたくし、顔はよいので……間違ってときめいたら大変かな、と……」

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