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「まずいことが発覚した」

「おおかた予想がついておりますが、どうぞ」

「お前の妹と王の関係が複雑になった」

「やはり王の弟君が茶々を入れているのですか」

「それだ。……待て、知っていたのか?」

「三日ほど前に、文官の間で噂にのぼりまして」

「こういうことは女のほうが話が早いと思っていたが」

「こちらの文官たちは、王弟と王の間のことに敏感なのです。

 どちらに着くかを正確に見極めなければならない時期ですね」

「……王は国取りに大きく手を広げ過ぎたな。

 野心が強く腹芸のできる弟君は、その間に王の座を掠める手はずを整えている」

「しかし女官が噂したとなれば、それは誰かが『現場』を目撃したという証では」

「それについては問題ない。噂にはなっていない」

「……まさかとは思いますまい。目の下のクマが物語っておいでです」

「うむ」

「いかがでしたか」

「女性向け恋愛小説を朗読されている気分であった」

「心中お察しいたします」

「なにあの……なに? 王もそうだが、あの王家の男どもの、女を口説く歯が浮いて抜けるような台詞は一体どこから仕入れてくるのだ?」

「この国には、古来より愛する人とは互いに詩を送り合う文化があったと伝え聞きます。廃れた今でも、言葉を飾り立てるのは得意なのではないかと」

「はあー。……王弟に体を許したお前の妹を、そして我が国を、どう守ればよいだろう?

 その無駄に回る頭を貸すがいい」

「気になさらずともよいのでは?」

「なに? 不義が王に伝われば、死罪もありえるぞ。そして我が国は……」

わたくしとしては、妹が死罪になる確率より、嫉妬した王に妹がめちゃくちゃに抱かれる可能性のほうが高いと存じますが」

「めちゃくちゃに抱かれる」

「女性向け恋愛小説においては」

「女性向け恋愛小説においては?」

「こういう場合には、そういう展開になることが多うございます」

「知ってる」

「なんと」

「読んだ」

「いかがでしたか」

「それなりに面白い。

 ……ではなく。確かにそのような展開は多いが。やはり小説のご都合主義ではないか?」

「そうでしょうか?」

「王は美しい所有物を弟に触られたのが腹立たしくなり、彼女をめちゃくちゃに犯してやると思っているが、実は無意識に彼女を愛していると?」

「思ったより読み込んでおられる」

「……いや。あり得ぬだろう、やはり。世の中そのように都合よく……」

「絵に描いたような暗君のいる世の中ですが」

「たびたび我が両親ふたおやのことを引き合いに出すでないわ、虫唾が走る。

 ……まあだが、お前ほどの男がそう言うのだ。暫く様子を見てみることにしよう。

 護身用の短剣を寄越せ」

「えっ。まさか、妹になにかあったら王に飛び掛かろうと?」

「そうだ。なにか問題があるか」

「姫様にそのようなことはさせられません」

「……お前……」

「死体がふたつに増えるどころか、わたくしにまでとばっちりが来るに決まっているではないですか!」

「王の前にお前を刺すぞ」

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