第45話 ようし、ここは頑張りどころ。やるぞ、米作り!
去年から……去年、でいいのかどうか、いまいち判別がつかないけど。
まあ、冬になる前から、泉から流れる小川沿いの、村がない方というか――一応、第二防壁の中になる予定の場所だけど――小川をはさんで、建物がない方に。
そっちに田んぼを用意してました。
もちろん水田です。10メートル四方くらいのものを6面、ですね。
小川のそばに3面、それに並べてさらに3面、という感じです。田んぼの単位って面ではないような……? なんだろう? まあいいか。
それに合わせて水路も、注水用と排水用でぐるりと田んぼを取り囲むようにいろいろと掘った。そういう力仕事は僕の担当。
それに、その水路から田んぼへ水を入れるための水車もサイゼラさんに作ってもらってるので……。
いよいよ、夢の米作りです。
今年の秋には! ごはんが食べられる! はず!
リコも目が輝いてましたからね!
まあ、村人は畑の方で、普通に麦の栽培もするので、穀物はダブルで用意できるかもしれません。
とりあえず、種もみとなる米は、サイゼラさんに作ってもらった木箱で育てて、昼は外に、夜は食堂の中に運んで栽培中だったりする。
もちろん、水やりは水魔法も使ってやってるけどね。もうすでにちっちゃい芽が出てるんだから、そのうち大きく育つんではないかと……。
で、田んぼの方も、いよいよ水を入れてみようと、そういう感じです。
サイゼラさんたちが準備していた水車を水路にセットして、小川と水路の間の仕切り板を外して……。
ぐるん……ぐるんぐるん……ぐるぐるぐるぐる~、っと、水車が回れば、ばしゃばしゃと水がかき揚げられて、雨どいみたいなところから田んぼへと水が送られていく。
僕とリコもそうだけど、他のみんなも、おお~、という感じでそれを見てました。もちろん、子どもたちも飛び跳ねて大喜び。
最初はちょっとずつ、ちょっとずつ、それがどんどんと流れるようになっていって、田んぼに水が溜まっていくのはなかなか感動した。実際、すごい。
これはもう、本当になかなか感動の光景でしたね。
「……こんな池を作って、本当に作物が育つのか? いや、テッシンさまが言うなら、間違いはないんだろうけどな?」
サイゼラさんがそんな疑問を口にしてた。まあ、知らないから、そう思うのも仕方がない。
まあ、畑しか見たことがないとすれば、水田はただの池、ですよね。僕とリコにはない感覚かもしれない。
一般的な日本人ならDNAレベルで水田が視界に入る気がする。あ、それでも大都会の人は違うのか……? どうだろう? うーん分からない……。
とにかく、6面、全部、水車を移動させて、水を入れました。もっと工夫ができるかもしれないので、そのへんは課題かもしれない。またサイゼラさんと相談しよう。
こうやって水を入れるだけで1日仕事でしたね……。
そして、翌朝。
「……テッシン、水がなくなってる田んぼがある」
「……みたいだね。うーん」
6面中、3.5面から、水がなくなってました……。
土がしめっているので、吸い込まれてしまったんじゃないかと思うけど。うーん。
排水路の方は仕切り板で完全に封鎖してるから……排水路が濡れてないし……。
小川沿いの3面のうち、1面が完全に水なしの状態になった。
それと、小川から離れた3面のうち、2面がダメで、残り1面は半分だけ、正確には3分の2くらいかな? それくらい、水が残ってる感じ。
……たぶん、場所によって水はけのよさが違うんだろうな。
こういうのは、なかなか、難しい。土壌改良? 田んぼに水を溜めるだけでこんな感じなのか……。
単純に掘るだけならいくらでも身体強化すればできるけど、水はけを悪くして、田んぼに水が溜まるようにするってのは、どうすればいいんだ? 分からない……。
タブレットに記録したいろいろな内容にも、そういう記載はなかった。ひょっとしたら、そういうことをしなくてもできるのかもしれないけど……。
……ネットにつながらないのが痛い。どうしようもないけど。今度、苗場くんにも質問してみるか。
むしろ、小川沿いにたくさん、田んぼ予定地を掘ってしまって、運良く水が溜まる場所を宝くじ的に当てた方が早いのかもしれない。
作業量は増えるし、いろいろな意味で効率は下がるけど……。
ひょっとしたら、さらに水を入れていけば、最終的には水が溜まるのかもしれないけど……どうなんだろう?
むむむ……。
元の世界でタブレットに保存した知識で対応できない部分は、とにかく実践していくしかないワケで。そうすると、これは数年単位での研究内容になるのか……。
期待していただけに、失望もまた大きいというのが本音だったりする。
もちろん、ごはんが食べたいから、あきらめたりはしない。そこはリコとも誓い合ってるところ。
水車を設置して、水を送り込みつつ、別の場所に新たに4面、水路と田んぼを開拓した。
次の日には、新しい4面の方に水車を移動させて……。
でもまあ、サイゼラさんたちをずっと水車の移動に使うワケにもいかないしな。製材作業を進めてるし、製材が終わればみんなの家を建てるし。
で、その次の日、4面中、3面はダメ。うう、ハズレくじだったか……。もともとの6面も、やっぱり3.5面はダメ。どうしても水が残らない。
今のところ、3.5面分、田んぼはある。
とりあえず、今年はこれくらいかな? うーん。麦みたいに普通に畑に植えて、毎日水やりするとか?
水田って、手抜きができるかも、とか、そんな考えだったけど……。
まあ、田植えまでに、全体を見ながら、時間がある時は田んぼを増やせるようにするか。水温はほどほどに温めないとダメみたいだから時間も必要だし。
水田のために掘り出した土はそのまま第二防壁になるから、サイゼラさんたちは大喜びだし。そこは安心だ。
みんな、本当に防壁が好きだからな……。
一石二鳥だから、田んぼを増やす方向はいいとして。元の世界から持ち込んだ種で他の作物も育てたいから……うん。バランスって大事だよなぁ。
でも、いろいろな農産物があると、食生活がいい意味で改善されるから。それに、栄養バランス的には寿命とかにまで影響する可能性が高いから、ここは頑張りどころだろうし。
スローライフのために頑張ろうか。ただ、実際のスローライフって、全然、暇がないよな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます