第38話 魔法少女は僕たちオタ陰キャの夢と希望なんですよね……。そして、村人最強の座に下剋上か?



 なんでもかんでも、ラノベ的なイメージで考えてしまうのは、オタ陰キャの宿命なのかもしれないと思ってしまう。


 ミミとイーマが、なんでか手から水を出して水やりをしていて、それからパタンと倒れて気絶しちゃったのは、なんとなく、いわゆる魔力切れ、なんじゃないか、と。


 ラノベ知識でそう判断してしまうのがオタ属性というもの。


 そもそも、なんでこのふたりの女の子がそんなことができるのか、意味が分からない状態なんですけどね。


 ……おそらく、僕が開発したあの遊びが原因なんだろうとは、推測してる。はい。そこはもう、それ以外に関係してそうなことがないワケだし。


 それから、ミミとイーマは、特に問題なく目を覚ました。それで、すごくお腹を空かせていて、たくさん食事を食べましたね。よかった、無事で。ほんとに。


 最近は、さつまいもとハクサイのスープ、塩漬け肉入りか、じゃがいもとハクサイのスープ、塩漬け肉入りか、このどっちかが基本。それで、たまに二種類のいも入りトマトスープになることもあります。これは肉なし。残念。


 うす塩ではなく、しっかりと塩が入っていて、ひょっとしたら王城にいた頃よりも美味しいのでは? というイメージになってる。

 もう、王城にいたのはずいぶんと前なので、その記憶が正しいとも思えないんだけど。


 春になったら香辛料系の種も育ててみる予定にしてる。やっぱり調味料って大事ですよね。食べ物で人生を豊かにしたい。そのためにいろいろと持ち込んだんだから。


 女の子ふたりの話に戻します。いつもは小食だったこのふたり、今日は大人と同じくらい、食べてる。がっつりと。これは本当にハラペコ状態だったみたいです。


「ミミ、イーマ。どうやって水やりしたの? ほら、水ぐるぐるで?」


「えっと、わかんない? やってみたらできた?」

「なんかねー、ぐるぐるーってやったらできたー」


 僕の質問にミミとイーマはそんな感じで答えました。


 ……子どもって最強ですよね。理屈は不要。やったらできたって。魔法って、やったらできるんだ。謎しかない。






 まあ、こうなったら、実験あるのみ、ということになった。もうふたり、男の子もいますので。


 次の日から、男の子ふたりにも、ぐるぐる水やり遊びをさせてみた。でも、何日か経っても、女の子たちみたいに自分で水を出すことはできないんですよね……。

 男の子たちも、その時はかなり悔しそうだったけど、すぐに木の枝を振り回す方に戻っていきましたね。こいつら切りかえが早いな……。


 今度は大人でも実験していくワケで。魔法が使えるんなら、その方がいいし。

 サイゼラさんに頼んで、ふたりずつ、何日間か、交代しながら、ぐるぐる水やり遊びをやってもらいました。


 男の人は誰も……その先には進めませんでしたけどね。女の人でひとりだけ、自分でちょびっと水が出せるようになった人が出てきた。これにはびっくり。


 ……これは、どうやら、水魔法に適性があれば可能、ということかもしれない。その可能性が高い。実は現地の人にも魔法適性が!


 ただ、全員、いろいろと試す、というのは危険もあるのが難しいところ。魔法で強い力を持った場合、奴隷が反乱を起こすなんて、こっちにしてみるとそういう恐怖もあるワケなので。そんなことを考えたら、怖い。怖すぎる。


 ミミとイーマについては、毎日、気絶するまで水やりを続けさせていく。これ、大事ですよね。その結果、ちょっとずつ、水やりできる時間が延びているので、魔力量的成長をしているのではないかと推測してるワケです。


 で、ある程度、長い時間、水が出せるようなったら次の実験に。


「それじゃ、水を出して」

「はーい」

「ばーん」


 手から女の子ふたりがだはーっと水を出します。


「おー。いいねー。それをー、こうやって、ちょっとずつ、細く、少なくしていってみて」


 僕は女の子ふたりに見本を見せていきます。


「えーっと、こうかな?」

「すくなくすくなくーっ」


 なんか、すくなくーって言ってるイーマの方がミミよりも上手にできてる。謎だ。まさかと思うけど、これが呪文? いやいや、まさかね?


「ミミはイーマの真似をしてみて」

「はーい。すくなくすくなくー」


 ……あ、ミミも水をしぼっていけた。マジでこれが呪文? そんなことある?


「じゃあ、そうやって減らした水を、こうやって、ぐるぐるって、回転させながら……」


「ぐるぐるー」

「ぐるぐるるるー」


 魔法の水を回転させるのはふたりとも上手にできます。ふたりとも、ぐるぐる好きなんだね……。


「そうそう。それで、まっすぐ伸ばしつつ、先っちょをどんどん尖らせて……」


 王城で学ぶ大賢者の水魔法『螺旋の貫き』によく似た、細長く尖った円錐状の水の槍を作って見せる。お手本は大事なはず。


「ぐるぐるー、とんがりー」

「ぐるとんがりー」


 ……おお。できてる気がする。


「そんで、これを……発射!」


 僕は水の槍を飛ばして、そのへんの木の葉っぱを貫きました。


「えーい」

「はっしゃーっ」


 ふたりも僕の真似をして……あ、ちゃんと葉っぱに当たって、穴が……。すごい、攻撃力がある……。


 僕たちの村に魔法少女が爆誕してしまった!


 僕は小さな石を拾って、ひょいと投げて、木の枝に当てる。そして、そこを指し示す。


「今、投げた石が当たったところに、さっきのぐるぐるとんがりをぶつけてみて?」

「はーい」

「えーい、ぐるぐるー、とんがりー、はっしゃーっ」


 ふたりの女の子が水の槍を放ち、それが木の枝を貫いて……バキバキバキ、どすん。


 魔法があたったところから、割と太い木の枝が折れて、落ちたよ……。


「……えっと、テッシン?」

「な、何かな、リコ……?」


「あのね。このふたり。大人も含めて、この村で一番強くなっちゃったんじゃないかな……?」


 ……確かに、僕とリコを除けば、このふたりの魔法で……誰も勝てない気がする。ま、まあ、魔力の限界まで使ってしまうと、ただのカワイイ眠り姫なんですけど。


「だから、正しい使い方も、教えていかないと……」

「あ、村人には使うな、とか……」


「うーん。でも、それだと、村人がこの子たちにイタズラしようとしたりしても使えないから……」

「あ、そっか。難しいな。危ない時は使いましょう、みたいな……」


「場合分けがいっぱいありそうだね……」


 ……これは、間違った女の子を魔法少女にしてしまわないように、いろいろと教育面でも力を入れる必要がありそうな気がする。道徳的に? いや、判断力かな? 倫理の教科書がいるのかも……。


「……ていうか、テッシン。うかつに攻撃魔法を教えたらダメだよね?」

「ごめん。つい……」


 魔法少女はオタ陰キャの夢なんですよ……。


「それと、あたしにも、その……水魔法、教えてね……?」


 ちょっとうるっとした感じで、リコが僕を見上げてくる。うん、リコがあざとかわいいです。


 もちろん、全身全霊でリコにも教えることにした。手取り、足取り、誰よりも丁寧にね。仲良く、仲良く。






 ……ちなみに、リコはあっさりと水魔法をマスターしました。神様のところで見せられたスキルの選択肢に水魔法はなかったということなので、適性とは関係なく、身に付けてしまったらしい。ただ、リコの場合は『直感』スキルの効果の可能性もあるので、どうなんだろう? 分からないな。


 僕たち、転移者は、魔法に関してはちょっと現地の人とは違うのかもしれません。ひょっとすると、イメージ力が魔法の構築に影響してるってパターンなのかもしれませんけどね。





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