第3章 村づくりは人づくり

第37話 子どもって、かわいいですよね。あ、ロリコンではないですよ? おまわりさんは呼ばないで?



 サイゼラさんたちの要望で、いずれは塩づくりの基地みたいなのを作るということが決まってしまった。なんで?

 それで、塩湖の近くで作り出した大量の塩を運んで泉の防壁のところに戻ってきましたよ。これで薄味ではない食べ物が!


 まあ、冬も近づいているので、サイゼラさんによると建築関係ではできる作業は限られているということらしい。

 それで、割と農業関係に仕事の比重はおかれるようになりましたね。あとは、肉関係の塩漬けとか、燻製とか、そういう保存のための作業とかもある感じかな。

 防壁が最優先で、次に食料。まあ、生きるってそういうことですよね。


 そのへんの作業は僕やリコが役立つことがない、というか、みなさん、経験値が高い部分ですから、お任せなんですよね。まあ、手伝おうとするとある意味では丁重に追い払われてしまうというか……。


 僕やリコがやる作業ではない、みたいな感じでもあります。偉い人はそんなことをしてはいかん、と。まあ、そういう感じなんで……。今さら何を、と思わなくもないですけどね? 僕、どれだけ肉体労働してきたんだ? すごく掘ったのに?


 それで、ヒマになった僕たちは、畑の方で4人の子どもたちと遊ぶんですよ。水やりとかしながら。


「てやーっ」

「とりゃーっ」


 男の子のふたり――ニニギとパックは、僕を相手に木の枝で戦いを挑んできます。ていうか、ガチのガチ、めちゃくちゃ本気……なんじゃないかな? 手加減とか絶対にしてないと思う。まあ、それが子どもってことなんだけど……。


 僕は別に、剣術とか剣道とかはやったことないんだけど、王城での訓練は真剣にやってた。生存率を上げるためには大事だったので。だから、たぶん、剣でもそこそこは戦える方だと思うんですよね。


 それでも剣なら開拓者のキッチョムさんたちと訓練すればいいと思うんだけど、あっちはいろいろと働いていて、忙しい。だから、この子たちの遊び相手は僕になるワケで。偉い人の仕事って何……?


 まあ、動きは全部、余裕で見えるし、ふたり同時でも全然問題なし。

 どんな攻撃も二刀流の木の枝でサクっと受け止めてあげます。

 そうするとますます必死になって攻めてくる。何度も、何度も、しつこいくらいに。


「ううぅ……」

「ぐすん……」


 そうして最後は泣きながら、リコのところへと逃げていくんですよ……こいつら、ズルくないか……。


「リコさまぁ、テッシンさまがつよすぎるー……」

「ぜんぜん、あたらないよぅ……」


 リコは女の子ふたり、ミミとイーマに文字の読み書きを教えていたんだけど、そこに割り込んでいくんですよね。

 女の人に甘えたいんだと思いますね。マセガキめ……。まあ、小さな子どもに嫉妬とか、みっともないので、しませんけどね? してないからね?


「テッシンは最強だからね!」


 ……ほら。リコは僕を大事にしてくれていますから!


「ねーねー、ゆみー、ゆみ、おしえて、リコさま。けんはもういいよー」

「まとあてー、まとあてー」


 男の子ふたりは、僕を相手に木の枝を振り回すのにあきたら、リコに弓での的当てを要求するんです。まあ、甘え上手というか……。


 そうしたら追いやられてしまう女の子ふたりが、たぶん、男の子ふたりに気を遣って、僕の方にやってくるんです。

 ある意味では、仲良く、リコを取り合ってるとも言えますね。リコと遊べない時は僕んとこにくる、みたいな。僕の方がオマケで、リコがメインですね。


 あ、もちろん、このふたりは木の枝を振り回したりはしません。


「テッシンさまー、ぐるぐるー」

「ぐるぐるしてー」


 まあ、たぶん、読み書きの勉強にあきてきたタイミングなんです。この子たち、基本、僕よりもリコに懐いてるので。


 走ってきたミミがまず僕に向かってジャンプして、ほんの少し遅れてイーマもジャンプ。僕はその二人をキャッチして、肩の上に担ぎます。


「ぐるぐるー」

「ぐるぐるー」


 ……かわいいですねー。あ、ロリコンではないですから! そこは絶対で!


 僕は女の子を肩に乗せて、ぐるっと時計回りに回って、そのまま今度は反時計回りに回って……。これをただ繰り返すだけ。何回か、ですね。


「きゃあー」

「きゃー」


 悲鳴は悲鳴でも、悲しそうではなく、楽しそうな感じヤツで。おまわりさんは呼ばないでください。あれですよ、遊園地のジェットコースター的な何かです。そういう感じで遊ぶだけ。


 ある程度、ぐるぐると回して、おろしてあげると、立っていてもふらふらするワケです。


「きゃははは」

「あははー」


 その、ふらふらするのが楽しいらしくて。子どもって、おもしろいですよね。


「さ、そろそろ水やりだね」


「わー、みずぐるぐるー」

「みずぐるー」


 今日はジャガイモ畑の水やりの予定だから。まあ、いろいろと都合がいいので、基本、魔法での水やりになってるのが、楽なのか、面倒なのか……。なんか、魔法で出した水だとよく育つので。


 それを女の子ふたりが喜んでるのは、僕が遊びとして開発してしまったからなんですよ。なかなか面白い感じで。


 僕もリコも、王城にいた頃、魔法の訓練をしてました。そこで、かつて大賢者と呼ばれた転移者が生み出した、厨二的な攻撃魔法を教わってきた。正確には、僕は見学でしたけどね……。リコはきっちり、訓練してきたので。


 で、僕はそこで学んだことをいかして、夜のトイレで魔法訓練をこっそりやって、神様のところで見たスキルの一覧にあった系統の魔法を使えるようになったんですよね……あれは、なんというか、なかなか楽しい時間だった。達成感がすごかった。


 その結果、僕は大賢者の厨二魔法とは違って、自己流の魔法の使い方というか、魔力の使い方というか、そういう感じの魔法が使えるようになっているんです。

 ちなみにリコも風魔法でそういうことができます。リコの場合は自己流というより、『直感』流なんですけどね。


 で、それを使って……。


「テッシンさまー」

「みずぐるー」


 畑の前で、女の子ふたりが腕を伸ばして待っているんです。すっごくカワイイ。


「よーし、いくぞー」


 まず僕は自分の手から魔法で水を発生させる。そして、その流れをコントロールしつつ、4本の水流を生み出していく。それをぐるぐるとらせん状に回転させながら、女の子たちの腕にヘビのようにまとわりつかせていくんです。


「わーい、みずぐるぐるー」

「みずぐるー」


 嬉しそうに手に巻き付いた水を、女の子ふたりが楽しみます。笑顔がめちゃくちゃカワイイんで。もう、何回もコレ、やってる。


「じゃあ、それぞれ、違う方向にね」


「はーい」

「ぐるぐるー」


 女の子たちは分担していろいろな方向に手を向けると、僕は水流を操作して、手を向けた方向に適度な分量で水をまき散らしていくワケです。まあ、人間スプリンクラーごっことでも名付けましょうか。


「きゃっきゃっ」

「ぐるーっ」


 これ、この子たちのお気に入りなんですよね。


 まあ、最初はなんだか僕におびえていたので……怖くないよー、おもしろいお兄さんだよー、と。この子たちが喜びそうなことを僕が頑張った結果なんだけど。水やりのお仕事も同時に終わるので、一石二鳥というか……。


 そんな、平和な日々をこの奥地の水源の村で僕たちはすごしていた。うん。とってもいい感じのスローライフ……と思うけど。






 でも、たぶん、それから10日くらい経ったある日。


「……テッシン? ミミとイーマの腕から、水が飛び出してるんだけど?」

「えっ?」


 僕とリコがトマトの収穫をしていたら、イチゴの畑の方で……。


「ぐるぐるー」

「みずぐるー」


 めっちゃくちゃ楽しそうに、女の子ふたりが、水やりしてました。しかも、どこにも水桶とかは持ってないのに、水が手から飛び出ています。女の子の手から、直接。


 ……どうなってんの?


 そして、1分くらいかな? それくらいでイーマがぱたんとその場に倒れて、それからすぐにミミもくたっとなって座り込み、そのまま横になってしまったんです。


 とりあえず、僕とリコは、慌ててミミとイーマを抱き上げて村へと運んで帰ったんだけど……。





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