Patientia 004 僕たちはまず「開拓者」を学ぶ(2)
王城にいた頃の渡くんは、毎日の訓練での手合わせで、とにかく誰とでも互角に戦っていた。本当に、誰とでも、どんな人でも互角だったのだ。
本人は気づいていなかったが、騎士団で最強だと言われていた人とも互角に戦っていた。本来ならそれはありえないことだと思う。
渡くんが出て行った後に、その人が騎士団で最強だと教えられた時は、クラスメイト全員がやっぱりそうかという顔をしていた。
誰とでも互角に戦えるということは、渡くんが等しく手加減をしていた、ということに他ならない。
渡くん本人は、自分の強さを隠してるつもりだったみたいだがバレバレだ。どうしてあれでバレないと考えていたんだろうか。
そんな渡くんが出て行って、宰相は『魔法は使えぬが、最高の戦力だと思っておったのに。どうにかして、アレを我が領に取り込めぬものか』と言っていた。
宰相は今でも、渡くんたちに対する捜索の手は緩めてない。もっとも、ずっと見当違いのところを探してるみたいだが。
渡くんのスキルが何かは教えてもらっていないが、間違いなく最強な部類のものに違いないと思う。
僕たちはギーゼさんに連れられて王都の門を出た。
ギーゼさんは王都から約2時間くらい歩いて、ウサギがいる草原へと僕たちを案内してくれた。
そして、草原でのウサギの探し方を教えながら、実際に見つけたウサギとの戦闘を僕たちにやらせる。
戦闘といっても、6人でウサギを包囲して殲滅という、簡単な……とは言い切れない、無様な戦闘だった。
ギーゼさんの案内で僕たちは3羽のウサギを発見。
そのうち1羽は、高橋さんのところを突破して、逃走。
もう1羽は、吉本さんのところを突破して、逃走。
最後の1羽は、杉村さんのところを突破して逃走したものの、野間さんが弓矢で狙い撃ち。矢が刺さって動きが鈍ったところを由良くんがメイスで殴って殺した。
僕のところはウサギがこなかったので何もできなかった。どうしようもないとはいえ、情けない気持ちでいっぱいだった。
みんな、かすり傷程度で、別に被害らしい被害はなかった。だが、ウサギ1羽は銅貨20枚と聞いて、みんなはかなり凹んでいた。
「金貨1枚は銀貨100枚で、銀貨1枚は銅貨100枚だろ? てことは、オレたちが金貨1枚稼ぐまでには……」
「1日ウサギ1羽なら、10日で銀貨2枚、100日で銀貨20枚になるから、金貨1枚は500日。1年半、かかるわね」
「アコちゃん、それ、生活費とか、計算に入ってない……」
「あ……」
野間さんの生活費の突っ込みで、みんな、呆然となっていた。それから、一斉にちらりと僕の方を見た。シンクロしているのが面白い。
その視線が申し訳なさそうでいて、同時にとても複雑そうだ。
……まあ、リビエラさん頼りの今の生活は、僕のお陰としか言えないから。
「まあ、初日で狩れたんなら、そのうち、1日2、3羽くらいはいけるんじゃねーか?」
「野間さん抜きだと1羽も狩れそうにないわよ……」
「う……」
「オレの見立てじゃあ、ノマの弓は、リコのヤツに近いウデがあるなぁ。おめぇらのウサギ狩りはノマを中心でいいんじゃねぇか?」
「ギーゼさん、キリコ……リコは、1日に何羽くらい、ウサギを狩ってましたか?」
「あー、確か、ギルドの連中から聞いた話だと、あいつらは1日きっちり5羽、ギルドで換金してたってよ」
「1日……」と由良くん。
「5羽……」と杉村さん。いいコンビだ。
「それに加えて、イノシシ1頭だな」
「え? イノシシですか?」
「おう。あいつらが王都にいた頃はよぅ、テッシンの野郎がイノシシ担いで王都に帰ってくるのが森に近ぇ西門の名物になってたらしぃぜ」
「ちなみに、イノシシって、ギルドだと、銅貨何枚に……」と由良くん。
「銅貨じゃねぇ。銀貨で3枚だな。テッシンのバカはうまく仕留めねぇから、ちぃと値引きされてたみてぇだが」
「銀貨3枚! ギーゼさん、イノシシの狩り方を教えてください!」と言う由良くんの目が輝いている。$マークという感じだろうか。
「バカ言うんじゃねぇ、ユラ。ウサギもまともに狩れねぇヤツが、イノシシなんざ、狩れるワケねぇだろうが。死にてぇのか?」
「あ、いえ……」
「まあ、今は、ウサギだ。ほれ、解体すんぞ」
ギーゼさんの指導で、ウサギの解体に挑戦する。
杉村さんも、野間さんも、吉本さんも今にも死にそうな顔をしていた。うわあとつぶやいて。やや目をそらしている。
意外なことに、高橋さんは真剣な表情でウサギにナイフを差し入れていた。血を見ても、血に触れても平気そうだった。本当に意外だ。サバイバルに向いている、そういうタイプなのかもしれない。
「渡のヤツ、金貨1枚まで1か月もいらないくらいってか……」
「ここって本当に、強さが全てなのよね……」
帰り道、由良くんと杉村さんのそんなやりとりに、みんな、何とも言えないような顔をしていた。
それでも、開拓者ギルドで、ウサギを換金して初めての収入を手にした時は、みんなで盛り上がった。
それがたった銅貨20枚だったとしても、みんなは感動して、喜びの声を上げたのだ。いつもなら冷たい視線を向けているはずの、僕でさえも仲間のように含めて。
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