第35話 掘って、掘って、掘る。……大地を、です。変なものは掘りません。我慢の限界だったとしても。(2)



 下水道は、第一防壁内から、第一防壁の下を通って、第二防壁内も通過して、第二防壁の外の堀へと排水する方針。堀は最終的には小川へと流れ込むので。


 第一防壁の方が第二防壁よりも高くするけど、第二防壁には堀があるので実質的には高さに違いはない、らしい。サイゼラさんの説明はなんとなく理解した。


 サイゼラさんも地下下水道のことは、僕の説明を聞いて、なんとなく理解してくれたみたいで、まず溝を掘って、その傾斜を確認して、木材で四角い配管を作って、それを通して埋めるという作業を繰り返すとのこと。


 とにかく、地下下水道をある程度張り巡らせるために僕の力仕事は穴掘りなワケです。だいたい幅60センチの溝をひたすら掘っていく。ちなみに第二防壁の外堀は幅2メートル、深さ1メートル50センチくらいの予定です。


「……テッシンさま、掘るの、速いっす」


「おれら、運んでも、運んでも、土がなくならねぇんだが……」


「……」


 一人、無言で疲れた顔してるけど、この人たちは、はい、ギルドトリオですね。開拓者のキッチョムさん、ナーザさん、ギルド職員のリムレさん。この三人が僕の作業のお供です。


 正確には、僕が掘って出た土を防壁予定箇所へと運ぶ役割です。


 体力的にはリムレさんが一番劣るらしいですね。もうしゃべる気力もない感じ。


 ……村人にしてくれって言ったクセに、この人たち、文句が多いんですよ。


 まあ、泣き言を聞くつもりはないので、せっせと働いてもらいましょう。夜にはエッチなこともしてるんだから。






 小さな鍛冶場が10日ほどでできてからは、色々な作業が進みました。鍛冶場は、いずれ、もっと大きくするそうです。1年契約なんだけど、大きくする必要、あるんでしょうかね。まあ、ナラさんとホマラさんに付けてる父奴隷の一人、ワスナさんがいつかは村の鍛冶師になってくれればいいんですけど。


 とりあえず、釘とか、そういうのが、必要だったみたいで、鍛冶場最優先はサイゼラさんの中では絶対だったようで。


 ナラさんがカンカンカンカン、音を響かせる中、第一防壁工事と、食堂建設が並行して開始されました。


 え? 僕の仕事?


 ……現在、第二防壁の外堀を掘ってます。予定よりも50センチ深くて約2メートルで、幅は1メートル長くて3メートルです。


「テッシンさまなら、余裕だろ?」


 ……というサイゼラさんの一言で決まりました。僕の仕事ぶりを見ての方針変更だそうです。


 僕が堀を大きくした分だけ、その土で防壁を高くできるとか。


 サイゼラさんはどうしても、クマさんよりも防壁を高くしたいらしい。みんな同意してたから、クマさんが本当に怖いんだろうな、と。


 第一防壁予定箇所には、ある程度の板塀ができていて、2枚の板塀で挟まれたところに土やら石やらを詰め込んでは水を流して隙間をなくして、大きな岩でドシンドシンと叩いて固めていくという工法。なんか無理矢理な感じだけど、そんなもんかも。


 土運びには女性陣も参加しているので、キッチョムさんとナーザさんの顔がにやけてます。リムレさんが疲れた顔してるのは変化なし。大丈夫かな……?


 リコは4人の子どもたちに読み書きと計算を教えています。教育は財産です。ちなみに読み書きができるのは、サイゼラさん、リムレさん、おしまい、だそうです。ナラさんがちょっとだけ、キッチョムさんとナーザさんが数字だけ、とのこと。


 識字率低くて中世怖い。






 開拓村建設、およそ1か月。


 食堂という名の集会所が一応、完成しました。トイレ関係がまだ、下水道への配管の関係と小川からの取水の関係で未完成だけど、もう、ここで全員が雑魚寝できる。あ、僕とリコは別です、はい。


 とりあえず、冬は越せそうだと、サイゼラさんの太鼓判、頂きました。


 青空飯が屋内に変わったのが大きな変化。みなさんは寝床も変わったけど。屋内って、こんなに暗いんだって感じです。明かり取りの窓からの光くらいしかない。昼間より、火を灯す夜の方が明るいくらいだったりして。


 ここまでで、クマの襲撃が1回、オオカミの群れの襲撃が2回、ありました。おかげで、毛皮の寝床が冬までに用意できそうです。あったかくて助かるらしい。


 寝床が確保できたんなら、テント村は撤収か、と思ったけど、テント村の一部は臨時娼館として利用するようです。元々、ヤりテントだった所がそのままだとか。うう、僕はひたすら我慢してるのに、みんなの性が赤裸々過ぎる……。


 サイゼラさんが、小川の上の防壁のために石橋を建設。なんと、石橋の下をクマさんサイズとかトラさんサイズの魔獣が強引に抜けようとしたら、石の柱が崩れて防壁ごと下敷きになるトラップ付きだとか。石橋の上の防壁は石多め、土少な目で固めるとのこと。


 僕の仕事? 今は、開拓村の南、小川をはさんで向こう側に、水田予定地を掘ってます。本当、掘ってばっかり。もちろん水路も掘ります。水田ですから。


 サイゼラさんからもっと土がほしいという要望があったので、とにかく掘ることが大事らしい。


 ……みんな、防壁第一主義なんですよね。


 他の建物よりも、とにかく第一防壁の完成を急ぎたいらしいです。


 ちなみに僕は、水田予定地が終われば、今度は畑を耕します。開墾で出てくる石とか土とか、全部防壁の材料だそうです。


 サイゼラさんからは、第一防壁の空堀、好きなだけ掘っていいと言われてます。


 ……異世界転生、掘る人生。いや、たぶん、今だけだけど。


 早く外壁、完成しないかなぁ。





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