第34話 やっぱり胃袋重要。胃袋を掴めば村人も増えるに違いない。(2)



「おーい、テッシンさまよーい」


 そうやって大声で僕を呼びながら、土木建築職人のサイゼラさんが近づいてきた。


 最初は「アンタ」と呼ばれていたのが、いつの間にか「テッシンさま」と「リコさま」呼びに変化していた。なんでだろうか。


 最年長っぽいサイゼラさんがそう呼ぶので、今では他のメンバーもみんな「さま」付けだ。なんとなく、くすぐったくて慣れないけど、「さま」付け、やめてくれないんですよね。


「テントの準備は終わった。女どもがメシはどうするんだって心配してる。あと、建築予定について、話したいんだが」


「あ、わかりました。リコ、戻るよ」


「ふぁーい」


 口にイチゴを頬張っているので返事が変なリコもかわいい。もうどうしようもないかわいいです。


 今日の夕食はサツマイモ入りの塩漬け肉のスープでいきたいと思います。サツマイモの甘みが塩漬け肉の塩気でぐっと引き立つ、この開拓村での自慢の一品です。






 泉の方へと戻ると、僕が建てた実質的には寝室のみの丸太小屋の周りに、テント村ができていた。


 トイレは二つ、小川沿いに用意済みで、使用方法も説明済み。水が流れている間は使用中なので、目隠し用のタープの中には入らないこと。これ、大事。男性陣の小の場合は、つい、どこででも放出してしまいそうになるけど、必ずトイレを使うように伝えてある。


「……というワケで、冬までに全員の家を建てるのはぎりぎり間に合わないだろうってことと、とりあえず家よりも、ここで暮らすには防壁の方がまず優先じゃないかって、話だな。まあ、ここの冬がどのくらいの雪になるかってのがわからないが」


 僕が皮を剥いで干しておいた丸太の山の前で、サイゼラさんが土木建築計画について説明してくれた。干してあった丸太から製材して、家を建てていくけど、材木が足りたとしても、冬までには時間が足りないらしい。


「防壁の方が優先、ですか?」


「おう。うちの弟子たちも、鍛冶屋のナラも、そこは絶対だって言ってるぜ」


「どうしてですか? 家があれば……」


「いや、家があっても、魔獣からは身を守れないからな。防壁ならともかく、家の壁ぐらいはあっさり壊されるぜ。だってよぉ、このへんの魔獣はあのクマとかトラとかだろ? テッシンさまやリコさまでないと、倒したり、追い払ったりはできない。だが、これも、防壁があれば、他の者でも追い払うことはできるかもしれん。だから、防壁が先なんだ」


 ……いきなりの城塞都市建築? それってもう村ではないのでは? いいの、それで?


「とにかく、このへんの魔獣は強過ぎる。防壁を優先するか、防壁を並行して造るか、そうでもしないと安心して暮らせないぜ」


「なら、並行していく方針でいきましょう」


「……そうか。助かるぜ、テッシンさま。まず、テッシンさまの家と、石造りの火事場と……そのあたりは建てるにしても、それぞれの家は後回しにして、食堂を先に建てよう。みんなが寝泊まりできる広さは食堂ならあるし、そこでなら冬も越せる。あとは娼館も先だな」


「娼館も?」


「寝泊まりする場所の代用にもなるし、ヤるのは落ち着いてヤりたいだろ……」


 ……それは性癖によるのでは? いや、まあ、わかるけどね。


「僕とリコの家は後回しでいいです。とりあえずあの丸太小屋があるので」


「……あれはいつか、解体させてくれ。テッシンさまとリコさまの希望通りのでっかい家を建てるからよ」


「その時はお願いします。それと、場合によっては、家よりもいろいろなものを優先してもらいますね。水車とか、ほしいので」


「水車? まあ、麦畑があるんならそれもいるのか……」


 ……麦畑はないけど、水道計画です。上下水道をちゃんと分けておきたいし、やはりテンプレで、僕とリコの家にはお風呂がほしい。ほしいったら、ほしい。


「あとは、どこに、何を建てるのかってことと、どれくらいの防壁を造るのかってことなんだが……」


「みなさんにできること、できないことを教えてもらいながら、少しずつ考えていきましょう。それと、力仕事はできるだけ手伝いますし、どんどん木を抜いて皮を剥いでおきますよ。逆に、必要があれば大工のみなさんも含めて全員に作業をお願いすることだってあります」


「麦の収穫とかだな。それは理解できるぜ」


 ……麦の収穫ではなくて、塩湖での塩づくりだったりします。あと、来年には麦ではなく米の収穫の予定です。はい。


 持ち込んだ種子を活用してまずは農産物チートから!


「……で、その後ろのしょぼくれたおっさんは何だ?」


「え?」


 僕は背後を振り返る。そこには確かにしょぼくれたおっさんが立っていた。ギルド職員のリムレさんだ。


「……すみません。どうか、村人として仲間に加えてもらえないでしょうか?」


 ギルド職員のリムレさんが仲間になりたそうにこっちを見ている!?


「……まあ、ゲラドバまで帰れる訳がないってのは、わかるぜ」


 サイゼラさんがものすごく同情した目で見つめている。


「おれたちへの違約金とか賠償とかは忘れてもらっちゃ困るっすよ!」


「これでリムレさんもお仲間だな。こうなるとは思ってたが」


 キッチョムさんとナーザさんは、ちょっと嬉しそうだ。なんで?


 まあ、とりあえず、僕とリコの開拓村は、ギルド職員と開拓者二人を加えてスタートするようです!





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