第33話 不思議なことに、こんな奥地なのに村人が増えるらしい。(1)



 12日かけて、あのゲラドバの町からようやく泉まで戻って来たんですけどね。


 途中、もう一度、クマさんとの接近遭遇があったので、そのお陰で帰り道の食がとっても充実して助かりました。


 とりあえずクマさんへの感謝の気持ちを忘れずに美味しく頂きましたよ。実際、美味しいんですよ、クマさんは。不思議です。


 クマさんは大きいから、ウサギさんを狩る必要もなく、肉が充実したので、本当にありがたい限りです。村人も……たぶん、喜んでるはずです。


 そして、たどり着いた泉にはですね。


 いや、もう、サイぐらいはあるんじゃないの? という巨大なトラさんが居座っておりまして。どう見ても見た目はトラさんなのに、サイズは化け物ですよね。とにかくこっちの猛獣さんはデカいんですよね。


 ある程度、予想はしてたんだけど。それでも泉にいるのはクマさんだと思ってたから、トラさんは予想外でしたね。これまでも、泉を狙って、クマさんがやってくることはあったので。ま、そのクマさんは、ゲラドバの町の開拓者ギルドに売ったんだけど。主に頭を。


 それにしても、大きいよね、トラさん。やっぱり、これも森林に満ちる魔力の影響なんだろうか。


 しかも30センチものさしぐらいの大きな牙が2本、上から下へと生えてるトラさんでした。


「き、キバトラ……」

「初めて見たっす……」


 慣れてきたのか、キッチョムさんも、ナーザさんも、武器の用意をしなくなってきました。それでいいのか、現役若手開拓者? 確か護衛依頼だったよね? リムレさんの?


 とはいえ、僕も、このトラさんとは初対面なので、クマさんと違って、よりよい倒し方というのは分からないので。どこか弱点なんだ?


「テッシン、どうするの? 目、狙う?」


「……クマみたいに頭が高く売れたりしたら、もったいないよね」

「そうだよね」


「なんで、あんな余裕な会話してるんすかね?」

「この二人のことは考えるな……」


「ま、仕方ない。頭、カチ割ってくる」

「気をつけてね、テッシン」


 リコの心配を受けて僕は勇気百倍。リコのために戦います!


 僕は、泉からのそりと上がってきて、ぶるるんと身体を震わせて水滴をまき散らすトラさん――どうやらキバトラというらしい――へ向かって、メイスを構えつつ歩いて近づいた。


 ふしゃーっっ、という、そのどでかい体格に似合わない、ネコっぽい威嚇の声を発して、キバトラが一度身を縮める。


「ネコか?」


 僕は身体強化をフルで使って、リコからは瞬間移動とまで言われた最速でキバトラの前に飛び込んだ。そしてキバトラが跳ねるまさにその瞬間、メイスを横薙ぎに振るった。メイスを上から下へと振るうのは前にギーゼ師匠にダメ出しされたんで。メイスも折れるし。もったいないので。


 目立つキバと、下あごからのどにかけての部位が、血をまき散らしながら爆散しつつメイスを振り切った方向へと飛び散り、全身を伸びあがらせようとしていたキバトラの前足が4回くらいふらふらと空気をかき混ぜるように動いてから、キバトラは前のめりに倒れ伏した。


 倒れ伏しても、まだもがいているので、絶命までは至っていないのか、それとも、なんだろう、最後の動きみたいな感じの何かだろうか。死後硬直とか?


 油断するなというギーゼ師匠の言葉はもちろん忘れてない。あの人、本当にセリフがかっこいいんだ。


 もったいないとは思いつつ、最後に軽めにメイスを頭へと振り下ろす。頭だけで、地面まで爆散させたりしないように、ちゃんと手加減をして。


 頭の骨が割れて脳まで傷つけた感触があったので、そこで止める。


 それ以上、キバトラは動かなかった。


「……動き、見えたっすか?」

「聞くな。今さらだろ……」


「あと、キバがなくなってるみたいに見えるんすけど?」

「……あ」


 キッチョムさんとナーザさんのやりとりに気になる部分が!?


「あれ? ひょっとして、アレのキバって……」


 リコが二人を振り返る。


「……高く売れるとか?」


 二人はこくこくと何度もうなずいた。


「あー、またやっちゃったねー」


「……先に言ってほしかったけど、まあ、あのタイミングだと言ってるヒマもなかったし、しょうがないよ」


「ねえ、他には高く売れるところとかないの?」


「……毛皮が、金貨何枚になるのか、想像もつかん」

「オークションっすよ! 絶対にオークションっす!」


 どうやらトラの毛皮はすっごく高く売れるようです。

 やっぱり模様がいい感じだからでしょうかね? この関西の人が好きそうなシマシマの感じが人間にはなかなか作れないとか、そういうこと?

 でも良かった、高く売れるところが割と残ってて。


 ……まさかと思うけど、異世界の人って、みんな関西人なのかな?


 ちなみに、肉の味はみんな知らないということだったので、食べてみました。クマさんと比べるとすんごいマズかったので、トラさんは二度と食べないと思います。食糧不足にでもならない限りは。


 しかし、毛皮とキバを確保して倒すとなると、やっぱり脳破壊ですかね……? あれ? まさかコレ、リコが寝取られるフラグ……? 脳破壊だけに……。もちろん、間男とか絶対にタヒるけど。全力で。





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