第31話 人間が安い。安くて怖い。あと、指を確認しろって、何、それ?



 奴隷商には僕とリコだけじゃなくて、ギルド長が付き添いできてくれてます。

 なんか、開拓村を作るとか、十数年ぶり、みたいな話らしくて、ギルド長も分かってるようで分かってない、みたいな感じらしい。


「ようこそいらっしゃいました、ギルド長。それで、新しい開拓村、ですか? 先触れからはそう聞きましたが……」

「おう。フェルミナから流れてきた開拓者だ。森の奥の泉を確保した、らしい。実力は保証……せざるを得ん。ハイイロヒグマを二人で狩ってきやがったからな……」

「なんと……」


 ギルド長と話す奴隷商のおじさんが驚愕で目を見開いて僕とリコの方を見てます。


 ……なんだか僕とリコの評価が勝手に高まってませんかね?


「……村人を奴隷で確保、ですね。開拓者の方は、ええと?」

「テッシンとリコだ。代表は、テッシン、だな?」


 ギルド長が僕の方を確認しながら、奴隷商のおじさんに言う。

 僕はうなずく。


「男は農作業と、雑用全般、それと、女は飯炊きと村の男の相手だな。予算は、テッシン、どうするんだ?」

「……どれくらいが、いいんですかね?」

「おめぇなぁ……」


「まずは、奴隷が、いくらぐらいかって話ですよ。値段の話です」

「ああ、そうですか。まあ、そうですね、成人男性で働き手として使えるのなら、金貨1枚から2枚、成人女性で夜の相手もできるのなら金貨2枚から3枚ぐらいで売っております。子どもを抱えた家族ならお安くしますよ」


 ……なんで家族は安くなるんですかね!?


 というか、金貨1枚から3枚で人間が買えるって話ですかね? ええと、苗場くんが物価で金貨1枚はだいたい100万円で計算してたから、人間が300万円!? 高いのか安いのか分かんないけど、どうなんだ?


「奴隷の購入は、初めてですね?」

「あ、はい」


「おう。しっかり指のあるヤツで頼むぜ?」

「指の、ある、ヤツ?」


「指がねぇ奴隷は犯罪奴隷だからな。ろくなヤツがいねぇ」

「犯罪、奴隷……」


「おう。盗賊とかで生け捕りになった連中とか、だな。反抗できねぇように利き手の親指を切り落とすだろ? 知らねぇのか? あとは戦争奴隷だが、この国は最近、戦争はやってねぇから戦争奴隷はまあ、いねぇだろ」


 ……怖い。中世暴力社会が超怖いです。反抗できないように親指を? マジですか。


「……奴隷以外で、村人の確保って、無理なんですか?」


 親指の話でドン引きした顔のリコが、そんなことを質問した。


「いや、そりゃ、おめぇ、わざわざ開拓村に住みてぇって変わり者はいねぇだろ?」

「まあ、そうですね。開拓者崩れなら、探せばいるかもしれませんが……」

「が?」


 どういうことでしょうかね? 逆接の「が」ですけど?


「……ギルド長のオレが言うのもなんだが、開拓者は荒くれ者が多いからなぁ」

「……まあ、そういうことです」


「開拓村の戦力としてはいいんだが、結果として村人が逃げ出したりすることが増えるかもなぁ」

「開拓村をつくるという話自体が、もう十数年ぶりのことなので、私どもも、先代から聞いたような話でしか知らないので」


「うちの国は、最前線に出たがるような開拓者がずいぶんと少なくなったからなぁ」

「王都まで行けば貧民街の子どもを連れ出すこともできるのでしょうけれど……」


 ……そういや、ギーゼ師匠は、最前線を引退して、王都でアパマン経営をやってるんだった。森の開拓は、今はあんまり流行らないのかもしれない。あと、貧民街の子どもを? 事案ですか? おまわりさーん! この異世界です!


 ま、あの国は、勇者召喚で戦争して、新たな土地を確保するつもりだったし。拉致事件だけど、拉致後の対応は割と丁寧な部分もあったけど……。


 やっぱり中世暴力社会は怖い。


「では、借金奴隷のご購入ということでよろしいですか?」

「おう。そうしてくれ」


 僕とリコにはまだ判断が難しいけど、ギルド長の考えに従うべきだろう。


「まずは成人男性で、金貨1枚から2枚程度の借金奴隷だと、解放までが12年から25年というところでしょうか」

「解放?」


「借金の返済にそれぐらいの期間がかかるということです。返済が終われば、奴隷ではなくなります。毎月銀貨1枚の給金として、年額で銀貨12枚、12年で144枚ですから、金貨1枚と銀貨44枚です。金貨1枚の借金奴隷なら12年で解放となります。実際に支払う必要はありません。その期間が終われば解放するだけです」


「銀貨44枚分、多いような?」

「まあ、借金奴隷でございますから、利子のようなものです」

「なるほど?」


「衣食住は、主人となる者が用意しなければなりませんが、よろしいですか?」


 奴隷を買えばおしまいじゃなくて、維持費も負担になるってことか。まあ、生きてる人間だから食わせない訳にはいかないし、しょうがない。僕はうなずく。


「成人女性で、飯炊きと男たちの相手というのであれば、一晩3人の相手で、毎月銀貨3枚を給金として、年額で銀貨36枚、解放までの10年で360枚というのが、金貨3枚の成人女性の借金奴隷なら、そんなところでしょう」


 ……生々しい。一晩3人とか、どうやって? 一人ずつ交代? それとも同時に? いや、そんな質問とか、できないけど!?


「……子どもを抱えた家族なら安いって、どういうことですか?」

「子どもは、あまり役に立ちませんので。食わせるだけ無駄が増えますから」


「子どもも、奴隷なんですか?」

「もちろん、そうです」


「あれ? それじゃ、親が解放されたら?」

「親が解放されても、子どもは自分が解放されるまでは奴隷です」


「でも、借金は親が……」

「子どもが育つまで、いろいろと必要でしょう? それを金貨1枚か2枚と計算して、10歳からは成人の半額で月銅貨50枚、15歳からは成人と同じ扱いで、返済させて、それから解放するのが普通です」


「10歳までは?」

「子どもの手伝いに給金は不要です」

「じゃあ、奴隷が生んだ子どもは……」

「もちろん奴隷です」


「……親が解放されてから、生まれたら?」

「奴隷ではありません。そうですね、父親が奴隷解放前、母親が奴隷解放後の場合は、奴隷ではありません」


「父親と母親の解放がずれることってあるんですか?」

「奴隷は女性の方が稼げますから……」

「それって……」


 ……お母さんがお父さん以外の人の相手をして稼ぐってことか? あ、いや、風俗で働くお母さんとかはそれがある意味では普通なのか? どうなんだ? そういうものなんだろうか?


「もちろん、家族でまとめて計算して、まとめて解放という方法も考えられますが」


 ……お母さんを売って家族を借金から救うんですね。わかりたくないけど、わかりました。


「……借金奴隷の購入というのは、奴隷の借金を肩代わりするようなもの、ですかね?」

「ご理解頂けたようで何よりでございます」


「まあ、開拓村の村長が、村人を買ってきて、村人は自分を買い戻して本物の村人になるってこった」


 そう言って、ギルド長がにかっと笑う。別に素敵な笑顔とか、そういうものではない。不気味というワケでもない。ただ、胡散臭いだけだけど。


「オレがよく聞かされたのは、解放して住んでた家と土地を買い取らせることでもう一度借金奴隷に落とし込んで村から逃がさねぇっていうのが、開拓村のうまいやり方だな」


 ひたすら借金地獄じゃん!!


 うう、知りたくなかった中世庶民残酷物語……。


 いろいろ思うところはあったけど、結局、ギルド長のアドバイスに従って、3家族10人の借金奴隷を購入した。子どもは、男の子ふたり、女の子ふたりだ。

 ちなみに女の子のいる家族の方がちょっとお高い。いずれその女の子もむにゃむにゃできるから。


 ちなみに3家族とも、お母さんは一晩ふたりまでの村の男の相手をすることを、月銀貨2枚で、積極的に、受け入れた。家族の借金の早期返済のためだという。


 僕も、リコも、ものすごく微妙な顔をしてたと思う。


 ……本当の意味で、この世界に慣れる日は来るのか。それとも、この世界の中に、僕たちの開拓村という新たな異世界を作るのか。僕としても悩ましい限りです。





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